あらすじ
むかし、一人の王子が旅をしていました。
王子は旅の途中で、驚くほど速く走れる者、はるか遠くまで見渡せる者、ものすごい力を持つ者など、それぞれ特別な能力を持った六人の男たちと出会います。
六人の力はどれも違い、一人ひとりにしかできないことがありました。
やがて王子たちは難しい課題に挑むことになります。
一人では到底乗り越えられそうにない課題も、六人がそれぞれの得意な力を発揮することで、少しずつ道が開けていきます。
本文
むかしむかし、ある国に一人の王子がいました。
王子はある日、広い世界を見るために旅へ出ました。
城を離れ、町を越え、知らない土地を歩いていきます。
てくてく。
てくてく。
旅を続けているうちに、王子はさまざまな人と出会いました。
力の強い人。
頭のよい人。
器用な人。
話の上手な人。
世の中には、自分にはできないことを簡単にやってしまう人がたくさんいます。
王子は考えました。
「僕一人の力だけでは、できることには限りがある。」
けれど、それを恥ずかしいことだとは思いませんでした。
「自分にできないことなら、できる人の力を借りればいい。僕にできることがあれば、その人を助ければいいんだ。」
そう考えながら、王子は旅を続けました。
ある日のこと。
王子が広い野原を歩いていると、一人の男に出会いました。
その男は、今にも走り出しそうな格好をしています。
王子は尋ねました。
「君は何をしているんだい?」
男は答えました。
「私は走るのが得意なのです。」
「どのくらい速いの?」
すると男は、にやりと笑いました。
「それでは、見ていてください。」
そう言った次の瞬間――。
びゅん!
男の姿が、王子の目の前から消えました。
「えっ?」
王子が驚いていると、はるか遠くまで走っていった男が、あっという間に戻ってきました。
びゅん!
「ただいま戻りました。」
「すごい!」
王子は目を丸くしました。
「そんなに速く走れる人は初めて見たよ。よかったら、僕と一緒に旅をしないか?」
男はうなずきました。
「喜んで。」
こうして王子に、一人目の仲間ができました。
二人で旅を続けていると、今度は遠くをじっと見つめている男に出会いました。
王子は声をかけました。
「何を見ているんだい?」
男は遠くを見たまま答えました。
「ずっと向こうにあるものを見ています。」
王子も同じ方向を見ました。
けれど、山や森が見えるだけです。
「僕には何も見えないけれど……。」
すると男は、遠くで起きていることを詳しく話し始めました。
王子にはまったく見えないほど遠い場所の様子まで、その男にははっきり見えていたのです。
「そんな遠くまで見えるのか!」
王子は驚きました。
「君の目があれば、僕たちが気づかないものにも気づけそうだ。一緒に来てくれないか?」
「もちろんです。」
また一人、仲間が増えました。
さらに旅を続けると、今度はとても力の強い男に出会いました。
その男は、大きく重たいものを軽々と動かしていました。
「そんなものまで持ち上げられるの?」
王子が尋ねると、男は平然と答えました。
「これくらいなら大したことはありません。」
ぐっと力を入れると、普通の人なら何人がかりでも動かせそうにないものを持ち上げてしまいます。
「すごい力だ!」
王子は感心しました。
「君も僕たちと一緒に旅をしないか?」
「いいでしょう。」
こうして力自慢の男も仲間になりました。
それからも王子は旅の途中で、不思議な力を持つ人々と出会いました。
ほんの小さな音でも聞き分けられる者。
ほかの人にはできない特別なことができる者。
誰かと同じことができるのではなく、それぞれが自分だけの得意な力を持っていました。
一人。
また一人。
仲間は増えていきました。
そしてとうとう、王子のもとには六人の家来が集まりました。
王子は六人を見回しました。
速く走れる者。
遠くまで見える者。
ものすごい力を持つ者。
どんな小さな音でも聞き分ける者。
そして、それぞれ違った特別な能力を持つ仲間たち。
「本当に不思議だな。」
王子が言いました。
「何がですか?」
家来の一人が尋ねます。
王子は笑いました。
「みんな、できることがまったく違う。」
すると別の家来が言いました。
「同じ力を持っていても仕方ありませんからね。」
「確かにそうだ。」
王子はうなずきました。
「みんな違うからこそ、一緒に旅をする意味があるんだね。」
こうして王子と六人の家来は、旅を続けました。
やがて王子たちは、これまでとは比べものにならないほど難しい課題に挑むことになりました。
王子一人では、とてもできそうにありません。
「どうしたらいいだろう……。」
王子は考え込みました。
すると六人の家来の一人が言いました。
「王子、一人で全部やろうとしてはいけません。」
「え?」
「私たちがいるではありませんか。」
王子は六人を見回しました。
「そうだった。」
まず、速く走れる家来が動きました。
「それなら、私が行ってきます!」
びゅん!
あっという間に姿が見えなくなります。
「相変わらず速いなあ。」
王子が驚いていると、遠くまで見える家来が目をこらしました。
「今、あそこを走っています。」
「そんなところまで行ったのか?」
「はい。もうすぐ目的の場所です。」
王子には見えないところまで、その家来にはしっかりと見えていました。
すると――。
「待ってください。」
今度は、耳のよい家来が何かに気づきました。
みんなは静かになりました。
しん……。
「何か聞こえるの?」
王子には何も聞こえません。
けれど家来はじっと耳を澄ませています。
「向こうから音がします。」
その小さな音を手がかりに、王子たちは次に何をすればよいのかを考えました。
さらに進むと、大きく重たいものが行く手をふさいでいました。
「これは困ったな。」
王子が見上げます。
普通なら、何人集まっても簡単には動かせそうにありません。
すると力自慢の家来が前へ出ました。
「ここは私の出番ですね。」
「頼めるかい?」
「もちろんです。」
家来は両手に力を込めました。
「よいしょっ!」
ぐぐぐっ……。
大きなものが、ゆっくりと動き始めます。
「動いた!」
みんなから声が上がりました。
こうして一つの課題を越えるたびに、別の誰かの力が必要になりました。
速さが必要なときには、速く走れる者。
遠くの様子を知りたいときには、よく見える者。
重いものを動かすときには、力の強い者。
わずかな音を探さなければならないときには、耳のよい者。
一人では難しいことでも、六人の力を合わせれば道が開けていきます。
もちろん、六人の家来にも、それぞれできないことがありました。
速く走れるからといって、重いものを持ち上げられるわけではありません。
力が強くても、遠くのものまで見えるわけではありません。
けれど、できないことがあれば、別の誰かが助けました。
「今度は僕の出番だ。」
「ここは任せて。」
「それなら私は、向こうを見ておきます。」
王子もまた、六人をまとめながら、それぞれの力が最も生かせるように考えました。
そうして王子と六人の家来は、力を合わせて難しい課題を乗り越えることができました。
すべてが終わったあと、王子は六人に言いました。
「ありがとう。僕一人だったら、何もできなかった。」
すると家来たちは笑いました。
「私たちだって、一人ではできませんでしたよ。」
王子は少し考えてから、うなずきました。
「そうだね。」
七人は顔を見合わせました。
誰か一人が、すべてできる必要はありません。
それぞれが自分のできることを持ち寄ればいいのです。
「さあ、また旅を続けよう。」
王子が歩き出しました。
「はい!」
六人の家来たちも、そのあとに続きます。
てくてく。
てくてく。
七人はそれぞれ違う力を持ちながら、同じ道を進んでいきました。
おしまい。
登場人物
王子
旅をしながら仲間を集める主人公。自分一人ですべてを成し遂げようとせず、それぞれの仲間が持つ力を大切にします。
六人の家来
王子が旅の途中で出会う仲間たち。速く走る、遠くを見る、重いものを動かす、小さな音を聞き分けるなど、それぞれ異なる特別な能力を持っています。
教訓
人にはそれぞれ得意なことがあり、誰かと同じことができなくても、それぞれの力には価値がある。
一人では難しいことでも、違った力を持つ人たちが協力することで乗り越えられることがある。
何でも一人でできることよりも、お互いの力を認め、信頼して助け合うことが大切。
親子で話したいポイント
自分が得意なことは何かな?
家族や友達が得意なことには、どんなことがある?
王子はどうして、自分一人で課題を解こうとしなかったのかな?
自分には難しいけれど、誰かに助けてもらったことはある?
みんなで力を合わせたら、どんなことができそうかな?
保育士向け活用ポイント
それぞれの「得意・不得意」を優劣ではなく、一人ひとりが持つ違いとして考える活動に活用しやすい物語です。
子どもたちが自分の得意なことや友達の素敵なところを見つけ、「○○ちゃんは絵が得意」「○○くんは虫を見つけるのが上手」など、お互いの良さを伝え合う活動にもつなげられます。
また、運動遊び、制作、積み木、ゲームなど、複数の役割が必要な協同活動と組み合わせることで、「全部できなくても大丈夫」「みんなが違うから力を合わせられる」という経験につなげることができます。


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