あらすじ
夜の空を、白い布のようなものがひらひらと飛んでくる。
そして人を見つけると、突然その体に巻きついて驚かせる――。
そんな不思議な妖怪が「一反木綿」です。
暗い夜道に突然現れる白い姿は、昔から人々を怖がらせてきました。
本文
むかしむかし、夜になると人通りがほとんどなくなる村がありました。
日が沈むと、村の外へ続く道は真っ暗になります。
家々の明かりも少なく、聞こえてくるのは風に揺れる木々の音や、虫の鳴き声くらいでした。
村人たちは、暗くなってからその道を歩くことを嫌がっていました。
なぜなら、村ではこんな噂がささやかれていたからです。
「夜道を歩いていると、空から白いものが飛んでくるぞ。」
「白い布みたいなものが、人を追いかけてくるんだ。」
けれど、それが本当なのかどうか、誰にも分かりません。
ある夜のこと。
一人の男が、用事を終えて家へ帰ろうとしていました。
すでに日はとっぷりと暮れています。
男は暗い道を一人で歩き始めました。
ざわざわ……。
風が吹くたびに、道の両側に並ぶ木々が揺れます。
男は少し早足になりました。
「ずいぶん暗くなってしまったな。」
村人たちが話していた噂が、ふと頭をよぎります。
けれど男は、
「ただの噂だ。」
と自分に言い聞かせ、そのまま歩き続けました。
しばらくすると、風の音に混じって、何かが聞こえてきました。
ぱた……。
ぱたぱた……。
男は足を止めました。
「なんだ?」
辺りを見回しても、誰もいません。
ぱたぱた……。
今度は、頭の上から聞こえてきます。
男が恐る恐る空を見上げると、暗い夜空に白いものが浮かんでいました。
細長い布のようなものです。
風に吹かれているのでしょうか。
ひらり。
ひらり。
月明かりを受けながら、白いものが夜空を舞っています。
「なんだ、あれは……?」
男は目をこらしました。
洗濯物でも飛ばされてきたのだろうか。
そう思った、そのときです。
白いものが、くるりと向きを変えました。
そして、まるで男を見つけたかのように、こちらへ飛んできたのです。
ひらひら……。
ぱたぱたぱた……。
「お、おい……。」
男は後ずさりました。
けれど、白いものは止まりません。
どんどん近づいてきます。
男が逃げようと振り返った瞬間――。
ばさっ!
「うわっ!」
白いものが男の体に飛びつきました。
それは長い布のようでした。
けれど、ただの布ではありません。
男が引っ張っても、風に飛ばされるどころか、するすると動きながら体に巻きついてきます。
ぐるり。
また、ぐるり。
「や、やめろ!」
男は必死になって布をつかみました。
けれど、白い布は腕にも肩にも巻きついてきます。
顔まで覆われそうになり、男は夢中で引きはがしました。
「離れろ!」
男は力いっぱい白い布をつかみ、思いきり引っ張りました。
すると――。
するっ。
突然、布が体から離れました。
男は勢い余って、その場に尻もちをつきました。
「いたた……。」
慌てて顔を上げます。
白い布は男の目の前で、ふわりと浮かんでいました。
ひらり。
ひらり。
まるで男の様子を見ているようです。
男は息をのみました。
次の瞬間。
白い布は風に乗るように、すうっと夜空へ舞い上がりました。
「待て!」
男が叫びましたが、白いものは止まりません。
ひらひらと空高く昇り、そのまま暗闇の向こうへ消えていきました。
男はしばらく、その場から動くことができませんでした。
やがて我に返ると、急いで村へ走りました。
「出た! 本当に出たぞ!」
男の話を聞いて、村人たちが集まってきました。
「何が出たんだ?」
「白い布だ! 空から飛んできて、俺の体に巻きついたんだ!」
すると、年寄りの一人が静かに言いました。
「それは、一反木綿だ。」
「一反木綿?」
「白い布のような姿で夜空を飛び、人に巻きつく妖怪だ。」
男は思わず、帰ってきた暗い道の方を振り返りました。
遠くに見えるのは、月に照らされた山と真っ暗な空だけです。
もう、白いものはどこにも見えません。
けれど、その夜から男は、暗くなってから一人であの道を歩かなくなりました。
そして村人たちも、夜空で何かがひらひらと動くのを見るたびに、こう言うようになりました。
「あれは、一反木綿じゃないか?」
風の強い夜。
村の上を白いものが、ひらり、ひらりと飛んでいくことがあるといいます。
おしまい。
登場人物
一反木綿
白い布のような姿で夜空を飛び、人に巻きつくといわれる妖怪。
男
暗い夜道を一人で歩いている途中、一反木綿に出会う人物。
村人たち
夜空を飛ぶ白いものについて噂し、一反木綿の存在を伝える人々。
教訓
暗い夜道では、周囲に気をつけて行動する。
怖いことが起きたときこそ、慌てずに身を守ることが大切。
身近なものから生まれた昔の妖怪や、人々の豊かな想像力を楽しむことができる。
親子で話したいポイント
もし白い布のようなものが空から飛んできたら、どうする?
暗い夜道を歩くときには、どんなことに気をつけたらいいかな?
もし自分で妖怪を考えるなら、どんな姿や力を持った妖怪にしたい?
保育士向け活用ポイント
白い布という身近な素材から想像を広げやすく、妖怪文化や表現遊びにつなげやすい題材です。
白い布やスカーフを使って一反木綿の動きを表現したり、「身近なものが妖怪になったら?」と子どもたちとオリジナルの妖怪を考えたりする活動にも発展させられます。


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