砂かけばばあ|世界の名作・昔話(日本の妖怪)

怖い話・妖怪の話・怪談

あらすじ

奈良の山道には、誰もいないはずなのに突然砂が飛んできて、人を驚かせることがあると言われていました。

その正体として語られてきたのが、「砂かけばばあ」です。

姿が見えないまま砂だけをかけてくるともいわれる、不思議で少し怖い妖怪です。

本文

むかしむかし、奈良の山あいに小さな村がありました。

村の近くには、木々に囲まれた細い山道がありました。

昼間でも木の葉が空を覆い、少し薄暗い道です。

夕方になると人通りはほとんどなくなり、聞こえてくるのは風に揺れる木々の音ばかりでした。

ざわざわ……。

ざわざわ……。

村人たちの間では、その山道について不思議な噂がありました。

一人で道を歩いていると、突然、どこからともなく砂が飛んでくるというのです。

ある村人が山道を歩いていたときのこと。

辺りには誰もいませんでした。

すると突然――。

ばさっ!

「うわっ!」

細かな砂が顔や肩に降りかかりました。

村人は慌てて振り返りました。

「誰だ!」

けれど、そこには誰もいません。

木々が風に揺れているだけです。

「気のせいか……?」

村人は顔についた砂を払い、再び歩き始めました。

ところが、しばらくすると――。

ざざっ!

また砂が飛んできました。

「誰だ! 出てこい!」

村人は辺りを見回しました。

道の脇。

木の陰。

草むらの奥。

どこを探しても、人の姿はありません。

それなのに、どこかから自分を見られているような気がします。

村人は怖くなり、急いで山を下りました。

そんな出来事が一度だけではなく、何度も起こりました。

やがて村では、

「あの山には、砂かけばばあがいるんだ。」

とささやかれるようになりました。

砂かけばばあは、山道を通る人に突然砂をかけて驚かせる妖怪だといいます。

けれど、どこに隠れているのか、どんな姿をしているのか、はっきり見た者はほとんどいません。

ある日のこと。

村に住む一人の子どもが、山へ行こうとしていました。

それに気づいた大人たちは言いました。

「一人で山へ行ってはいけないよ。」

「どうして?」

「あの道は危ない。それに、砂かけばばあが出るかもしれないぞ。」

けれど、子どもは信じませんでした。

「妖怪なんていないよ。」

そう言うと、大人たちの目を盗んで、一人で山道へ入ってしまいました。

最初のうちは、何も起こりませんでした。

木漏れ日が道を照らし、鳥の声も聞こえています。

「ほら、やっぱり何もいない。」

子どもはどんどん山の奥へ進みました。

ところが、しばらくすると風が強くなってきました。

ざわざわ……。

木々の枝が揺れます。

それまで聞こえていた鳥の声も、いつの間にか聞こえなくなっていました。

子どもは足を止めました。

しん……。

辺りが妙に静かです。

「……誰かいるの?」

返事はありません。

子どもは少し怖くなりました。

けれど、ここまで来たのだからと、もう少しだけ歩いてみることにしました。

そのとき。

ざっ。

後ろで何かが動いたような音がしました。

子どもは振り返りました。

誰もいません。

「なんだろう……。」

再び前を向いた瞬間――。

ばさっ!

「きゃっ!」

突然、砂が飛んできました。

子どもは顔を手で覆いました。

「な、なに?」

慌てて辺りを見回します。

けれど、やはり誰もいません。

木の陰にも、草むらにも、人の姿はありません。

すると今度は、少し離れた場所から音がしました。

ざっ……。

ざっ……。

まるで誰かが、ゆっくりとこちらへ近づいてくるような音です。

「だ、誰?」

子どもの声が震えました。

返事はありません。

ざっ……。

ざっ……。

音だけが近づいてきます。

子どもは怖くなり、後ずさりました。

その瞬間――。

ざざざっ!

また砂が飛んできました。

「いやっ!」

子どもはもう我慢できませんでした。

くるりと向きを変えると、来た道を夢中で走り始めました。

後ろを振り返る余裕などありません。

ただひたすら山道を駆け下りました。

やがて村の家々が見えてくると、子どもは大人たちのところへ飛び込みました。

「砂が……砂が飛んできた!」

大人たちは子どもの服や髪についた砂を払いながら言いました。

「だから、一人で行ってはいけないと言っただろう。」

子どもは何度もうなずきました。

そして、もう一度山の方を見ました。

木々の間には、誰の姿もありません。

ただ風に揺れる枝の向こうから、

ざっ……。

そんな音が聞こえたような気がしました。

それから子どもは、一人で山道へ入ることはなくなったそうです。

おしまい。

登場人物

砂かけばばあ
山道を歩く人に、どこからともなく砂をかけて驚かせる妖怪。

子ども
大人の注意を聞かず、一人で山道へ入り、砂かけばばあの気配に出会う人物。

村の大人たち
山道の危険を知り、子どもに一人で行かないよう伝える人々。

教訓

危険な場所へ一人で行かない。

大人から「危ない」と言われたときには、その理由を考えることが大切。

怖いことや危険を感じたときは、無理をせず安全な場所へ戻る。

親子で話したいポイント

どうして一人で山へ行ってはいけないのかな?

知らない場所や怖い場所で困ったら、どうしたらいい?

大人が「危ないからやめよう」と言うのは、どんなときかな?

保育士向け活用ポイント

自然の中での安全や、防犯について考えるきっかけにしやすい妖怪話です。

「妖怪が怖いから行かない」だけで終わらせず、山道や人気のない場所にはどんな危険があるのか、子どもたちと具体的に考える活動につなげられます。

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