あらすじ
長い年月を生きた猫が、人間の言葉を理解したり、二本足で歩いたりするようになった姿を「化け猫」と呼ぶ昔話があります。
人に大切にされた猫が恩を返す話もあれば、ひどい扱いを受けた猫が恨みを抱き、恐ろしい存在になる話も語り継がれてきました。
ここでは、長く家族と暮らしてきた一匹の猫に起こった、少し不思議で少し怖い物語を紹介します。
本文
むかしむかし、ある家に一匹の猫が飼われていました。
その猫はまだ小さなころから家族にかわいがられ、毎日一緒に暮らしていました。
寒い夜には囲炉裏のそばで丸くなり、家族が帰ってくると、いつも静かに出迎えました。
そんな暮らしが何年も、何年も続きました。
猫はすっかり年を取りましたが、変わらず家族とともに暮らしていました。
ところが、あるころから、その家で不思議なことが起こるようになりました。
夜になると、誰もいないはずの部屋から足音が聞こえてくるのです。
とことこ、とことこ……。
最初は、家族も気にしていませんでした。
「猫が歩いているんだろう。」
そう思っていたのです。
けれど、その足音はどこか妙でした。
猫が歩くような軽い音ではありません。
まるで小さな人間が、二本の足で廊下を歩いているような音でした。
とことこ、とことこ……。
ある晩のこと。
家の人が眠っていると、また足音が聞こえてきました。
とことこ……。
ぴたり。
足音は台所のあたりで止まりました。
家の人は布団の中で目を開けました。
辺りは真っ暗です。
しばらく耳をすませていると、
カタッ。
今度は、台所から何かを動かすような音がしました。
「誰かいるのか……?」
家の人はそっと起き上がり、音を立てないように台所へ向かいました。
廊下は暗く、外から差し込む月明かりだけが床を照らしています。
台所の近くまで来ると、ぼんやりと人影のようなものが見えました。
誰かが立っています。
「こんな夜中に、誰だ……?」
家の人が目をこらしました。
すると、その影がゆっくりと振り返りました。
家の人は思わず息をのみました。
そこにいたのは、人ではありません。
長い間、この家で飼ってきたあの猫でした。
けれど、いつもの姿ではありません。
猫は後ろ足だけで立ち、まるで人間のように二本足で立っていたのです。
「ね、猫が……立っている……。」
猫は家の人をじっと見つめました。
暗闇の中で、二つの目がきらりと光ります。
そして何事もなかったかのように前足を使い、台所に置かれていた食べ物を口へ運びました。
そのしぐさは、まるで毎日家族の様子を見ながら覚えたかのようでした。
家の人は怖くなり、後ずさりました。
すると猫は、ゆっくりと顔を向けました。
しんと静まり返った台所で、猫と家の人はしばらく見つめ合いました。
「もしかして……化け猫なのか?」
家の人の声が震えます。
猫は何も答えませんでした。
ただ、静かにその場に立っていました。
次の瞬間、外で風が吹きました。
ざわざわざわ……。
木の枝が揺れ、月明かりが一瞬だけ雲に隠れます。
辺りが暗くなりました。
そして、再び月が姿を見せたとき。
猫はもう、いつものように四本の足で床に座っていました。
それからも、ときどき夜になると不思議な足音が聞こえました。
とことこ、とことこ……。
家族は怖がりましたが、猫が誰かを傷つけることはありませんでした。
むしろ家の外で物音がすると、誰よりも早く気づき、じっと戸口を見張っていました。
知らない者が家の近くへ来れば、低い声で鳴くこともありました。
長い間大切にしてくれた家族のことを、猫はずっと覚えていたのかもしれません。
ある夜も、家族が眠ったあと、廊下の向こうからあの足音が聞こえてきました。
とことこ、とことこ……。
やがて足音は家の入り口で止まりました。
暗闇の中。
二つの目だけが、静かに外を見つめていました。
おしまい。
登場人物
化け猫
長い年月を生き、人間のように二本足で立つ不思議な猫。長く暮らしてきた家族を傷つけることなく、家を見守っています。
家族
幼いころから猫を大切に育て、一緒に暮らしてきた人々。
教訓
動物にも命や気持ちがあることを忘れない。
一緒に暮らす生き物を大切にする。
長い関わりの中で生まれる信頼を大切にする。
親子で話したいポイント
猫は家族にどんな気持ちを持っていたのかな?
動物を大切にするために、どんなことができる?
もしペットが人間の言葉を話せたら、何を聞いてみたい?
保育士向け活用ポイント
動物愛護や命の大切さについて考える活動と組み合わせやすい妖怪の話です。
「もし動物が人間のように歩いたら?」と想像を広げたり、猫のお面づくりや動物になりきる表現遊びにつなげたりすることもできます。


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