あらすじ
むかしむかし、山の近くの小さな村に、貧しいけれど心の優しい若者が暮らしていました。
ある日、若者は山へ薪を取りに行く途中、重い荷物を持った一人のおじいさんを助けます。
するとおじいさんは、お礼に一枚の古びた頭巾をくれました。
それは、かぶると動物や植物など、これまで人間には聞こえなかった声が聞こえるようになる「聞き耳頭巾」でした。
若者は不思議な声に耳を傾け、その力を困っている人たちのために使っていきます。
本文
むかしむかし。
山の近くの小さな村に、一人の若者が住んでいました。
若者の家は貧しく、暮らしは決して楽ではありませんでした。
毎朝早く起きて畑を耕し、山へ入って薪を集め、それを町へ運んで暮らしていました。
けれど、どんなに忙しい日でも、若者は困っている人を見過ごすことができませんでした。
道で重そうな荷物を抱えたおばあさんを見れば、
「そこまで持ちましょう」
と手を貸しました。
道に迷っている旅人がいれば、
「こちらの道ですよ」
と一緒に歩きました。
畑仕事に困っている人がいれば、自分の仕事が終わってから手伝うこともありました。
村の人たちは、そんな若者を見て言いました。
「あの若者は、本当に優しい人だねえ」
ある日のことです。
若者はいつものように、薪を集めるため山へ向かいました。
空はよく晴れ、木々の間から暖かな日の光が差し込んでいます。
鳥たちの声を聞きながら山道を歩いていると、前のほうに一人のおじいさんが見えました。
おじいさんは、大きな荷物を背負っています。
一歩。
また一歩。
杖をつきながら、ゆっくり歩いていました。
若者はすぐに駆け寄りました。
「おじいさん、大丈夫ですか?」
おじいさんは立ち止まりました。
「いやあ、少し荷物が重くてな」
「それなら、私が持ちますよ」
「いやいや。お前さんにも用事があるだろう」
「大丈夫です。急いでいませんから」
若者はそう言うと、おじいさんの荷物を背負いました。
「これは重たいですね」
「すまないねえ」
二人は山道を歩きました。
しばらくすると、おじいさんが立ち止まりました。
「ここまででいい」
若者は荷物を下ろしました。
「本当に大丈夫ですか?」
「ああ。おかげで助かったよ」
おじいさんは若者の顔をじっと見ました。
「お前さんは、見ず知らずのわしを助けてくれた」
「困っているように見えましたから」
若者がそう答えると、おじいさんはうれしそうに笑いました。
「そうか、そうか」
そして懐へ手を入れると、一枚の古びた頭巾を取り出しました。
何の飾りもない、ごく普通の頭巾に見えます。
「これをお前さんにあげよう」
「頭巾ですか?」
「ああ。ただの頭巾ではないぞ」
おじいさんは声を少し低くしました。
「これは、聞き耳頭巾という」
「聞き耳頭巾?」
「そうだ」
おじいさんは頭巾を若者へ渡しました。
「これをかぶれば、人間には聞こえない声が聞こえるようになる」
若者は目を丸くしました。
「人間には聞こえない声?」
「鳥や獣、木や草。いろいろなものが話している声だ」
若者は手の中の頭巾を見つめました。
どう見ても普通の古い頭巾です。
「本当にそんなことが?」
おじいさんは笑いました。
「かぶってみれば分かる」
そして、最後にこう言いました。
「だがな。この頭巾で聞いたことを、悪いことに使ってはいけないよ」
「はい」
若者が顔を上げると、おじいさんはすでに山道を歩き始めていました。
「ありがとうございました!」
若者が声をかけると、おじいさんは振り返らず、片手を上げました。
やがて、その姿は木々の向こうへ見えなくなりました。
若者は不思議に思いながら、頭巾を家へ持ち帰りました。
その日の夕方。
若者は家の庭へ出ました。
庭には一本の大きな木が立っています。
「本当に声なんて聞こえるのかな」
若者は、おじいさんにもらった頭巾をかぶってみました。
すぽっ。
最初は何も起こりません。
風が、
さわさわ……。
と木の葉を揺らしています。
「やっぱり普通の頭巾なのかな」
若者がそう思った、そのときです。
「今年は、ずいぶん雨が少ないなあ」
若者はびくっとしました。
「え?」
辺りを見回します。
誰もいません。
すると、また声が聞こえました。
「このままでは、畑の野菜たちがかわいそうだ」
声は――
庭の木から聞こえてきます。
若者は驚いて木を見上げました。
「木が……しゃべっている?」
頭巾を取ってみます。
さわさわ……。
聞こえるのは葉の音だけです。
もう一度、頭巾をかぶります。
すると――。
「雨が降ってくれればいいんだがなあ」
やはり聞こえます。
「本当だ……」
若者は、おじいさんの言葉が本当だったことを知りました。
次の日。
若者は村の畑を見て回りました。
よく見ると、土は乾き始めています。
葉もしおれかけているものがありました。
「昨日、木が言っていた通りだ」
若者は村の人たちへ声をかけました。
「しばらく雨が少ないので、今のうちに畑へ水をやったほうがいいと思います」
「そうかい?」
「まだ大丈夫じゃないか?」
そう言う人もいました。
それでも若者は、
「作物が弱ってからでは遅いですから」
と伝えました。
村人たちは井戸や川から水を運び、畑へまきました。
その後も雨の少ない日が続きましたが、早くから世話をしたおかげで、野菜は枯れずに元気に育ちました。
「若者の言うことを聞いてよかった」
村の人たちは喜びました。
それから若者は、ときどき聞き耳頭巾をかぶるようになりました。
ある日のことです。
若者が森の中を歩いていると、木の上から小鳥たちの声が聞こえてきました。
「大変だ、大変だ」
「どうした?」
「森の奥に、人間の子どもがいるよ」
「さっきからずっと泣いている」
若者は足を止めました。
「子ども?」
小鳥たちはさらに話しています。
「大きな岩の近くだ」
「道が分からなくなったみたいだ」
若者はすぐに森の奥へ向かいました。
「どこだ?」
木々の間を進みます。
「大きな岩……」
しばらく歩くと――。
「うっ……うっ……」
かすかに泣き声が聞こえてきました。
若者は走りました。
大きな岩の陰に、一人の小さな子どもが座り込んでいます。
「大丈夫かい?」
子どもは涙でいっぱいの顔を上げました。
「おうちに帰れない……」
「迷ってしまったんだね」
若者はしゃがみました。
「もう大丈夫だよ。一緒に帰ろう」
若者は子どもの手を取り、森を出ました。
村へ戻ると、子どもの家族が必死になって探していました。
「いた!」
「よかった!」
家族は子どもを抱きしめました。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
「無事でよかったです」
若者は笑いました。
また別の日には、川辺の蛙たちが、
「上流から水が濁ってきたぞ」
と騒いでいるのを聞きました。
若者が確かめに行くと、雨で崩れた土が川へ流れ込んでいました。
村人たちは早めに気づくことができました。
またある日には、鳥たちが、
「あの木の枝は危ないぞ」
と話していました。
見ると、村の道に伸びた大きな枝にひびが入っています。
強い風が吹けば落ちてしまいそうでした。
若者は村人たちと相談し、枝を安全なうちに取り除きました。
こうして若者は、聞き耳頭巾で聞こえてくる声に耳を傾けながら、困っている人たちを助けていきました。
ところが――。
そんな不思議な頭巾の噂が、いつしか村に広まっていきました。
「若者は、鳥の話が分かるらしい」
「木の声まで聞こえるそうだ」
その話を聞いた、一人の男がいました。
男は欲深いところがありました。
「動物の話が分かる頭巾だって?」
男は考えました。
「それなら、山の中に隠された宝の場所だって分かるかもしれない」
「鳥なら、人間が知らない場所をたくさん知っているはずだ」
男は若者の家へやってきました。
「その聞き耳頭巾を貸してくれ」
若者は尋ねました。
「何に使うのですか?」
「ちょっと試してみたいだけだ」
若者は困りました。
そして、おじいさんに言われた言葉を思い出しました。
――聞いたことを、悪いことに使ってはいけない。
若者は男に言いました。
「この頭巾は、自分の欲のために使うものではありません」
「そんなことは分かっている」
男は聞こうとしませんでした。
「少しくらいいいじゃないか」
とうとう男は頭巾を手にすると、山へ向かいました。
「宝だ、宝だ」
男は森の中へ入りました。
そして、聞き耳頭巾をかぶります。
「さあ、どこかで宝の話をしていないか?」
男は耳を澄ませました。
すると――。
木の上から鳥の声がしました。
「困ったなあ」
男は目を輝かせました。
「おっ。何か知っているのか?」
しかし鳥が話していたのは、宝のことではありませんでした。
「このごろ、人間が森の奥まで入ってきて、木をたくさん切っている」
別の鳥も言います。
「巣を作る場所が少なくなってしまった」
男は顔をしかめました。
「そんな話じゃない。宝の話をしろ」
森の奥へ進みます。
今度は木々の声が聞こえてきました。
「また一本、仲間が切られた」
「若い木まで傷ついている」
男は足を速めました。
「違う、違う」
さらに歩くと、小さな動物たちの声が聞こえてきました。
「人間が置いていったものが森に散らばっているよ」
「このままでは危ないな」
男は立ち止まりました。
どこへ行っても、聞こえてくるのは宝の話ではありません。
森で暮らすものたちの困った声ばかりです。
「どうしてだ……」
男は頭巾を取ろうとしました。
そのとき、近くの古い木から静かな声が聞こえてきました。
「人間は、自分の欲しいものの声しか聞こうとしないことがある」
男の手が止まりました。
森は静かでした。
風が木々を揺らしています。
ざわ……。
ざわ……。
男は初めて、自分の周りをよく見ました。
切られた木。
地面に落ちている枝。
壊れた小鳥の巣。
人間が残していったもの。
男はしばらく黙っていました。
「わしは……宝のことばかり考えていた」
やがて男は村へ戻りました。
そして、若者に頭巾を返しました。
「すまなかった」
若者は頭巾を受け取りました。
男はうつむきました。
「宝なんて、どこにもなかったよ」
「そうでしたか」
「聞こえてきたのは、困っている声ばかりだった」
若者は静かに答えました。
「聞くというのは、ただ声が耳に入ることだけではないのかもしれませんね」
男は顔を上げました。
「相手が何を伝えようとしているのか、考えながら聞くことも大切なのだと思います」
男はしばらく黙っていました。
それから、小さくうなずきました。
その後、男は森へ入り、自分にできることを始めました。
道に散らばっていたものを片づけ、傷ついた場所を直すのを手伝いました。
村の人たちも、その姿を見て一緒に手伝うようになりました。
若者はそれからも、聞き耳頭巾を大切にしました。
けれど、いつも頭巾をかぶっていたわけではありません。
村人が話しているとき。
子どもが何か伝えようとしているとき。
誰かが困った顔をしているとき。
若者は頭巾がなくても、立ち止まって相手の話に耳を傾けました。
ある夕暮れ。
若者が庭に座っていると、木の枝に一羽の小鳥が止まりました。
若者は聞き耳頭巾をかぶりました。
小鳥が言いました。
「今日も村はにぎやかだったね」
庭の木が答えました。
「ああ。みんな元気そうでよかった」
若者は思わず笑いました。
すると小鳥が、
「あっ、人間が笑っているぞ」
と言いました。
木も、
「わしらの話を聞いているのかもしれんな」
と答えます。
若者は空を見上げました。
山の向こうへ、夕日がゆっくり沈んでいきます。
鳥の声。
風に揺れる葉の音。
遠くから聞こえる村人たちの声。
若者はそれらの声に、いつまでも静かに耳を傾けていたということです。
おしまい。
登場人物
- 若者
貧しい暮らしの中でも、困っている人を見つけると自然に手を差し伸べる心優しい人物。不思議な聞き耳頭巾を手に入れ、その力を人を助けるために使います。 - おじいさん
山道で若者に助けてもらった不思議なおじいさん。お礼として、動物や植物の声を聞くことができる聞き耳頭巾を渡します。 - 村人たち
若者が聞いたさまざまな声によって助けられる人々。若者とともに畑や森を守っていきます。 - 欲張りな男
聞き耳頭巾を使って宝を探そうとする人物。森で動物や木々の声を聞き、自分が欲しいものばかりを求めていたことに気づきます。 - 動物や植物たち
聞き耳頭巾をかぶることで、その声を聞けるようになる存在。森や畑で起きているさまざまなことを話しています。
教訓
- 相手の話を聞くときには、言葉だけでなく、相手が何を伝えようとしているのかを考えることも大切です。
- 自分が持っている力や得意なことを、誰かを助けるために使うことの大切さが伝わります。
- 自分が聞きたいことだけではなく、周りの人や生き物の声にも耳を傾けることで、これまで気づかなかったことが見えてくることがあります。
親子で話したいポイント
- 聞き耳頭巾があったら、どんな動物や植物の話を聞いてみたい?
- 若者は、どうして不思議な頭巾をもらえたのかな?
- 小鳥の声を聞いた若者は、どうしてすぐに迷子を探しに行ったのだろう?
- 欲張りな男は、森でいろいろな声を聞いてどんなことに気づいたのかな?
- 誰かの話をしっかり聞いてあげたことで、その人が喜んだことはある?
保育士向け活用ポイント
自然の声に耳を傾ける物語として、散歩や戸外活動の前後に読み、実際に風・鳥・葉・虫などの音を探す活動へつなげることもできます。
「人の話を聞く」「相手の気持ちを想像する」といった、友だちとのコミュニケーションを考える題材として活用できます。
「聞き耳頭巾があったら何の声を聞きたい?」と問いかけることで、子どもの想像力を広げる活動につなげられます。
鳥や木、動物などの言葉を子どもたち自身で考える「もし○○が話せたら」という言葉遊びや表現活動にも発展させられます。
年長児では、「聞こえる」と「相手の話を聞く」は何が違うのかを考え、友だちとの関わり方について話し合うこともできます。


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