あらすじ
むかしむかし、山里に、おじいさんとおばあさんが仲良く暮らしていました。
二人には子どもがなく、「いつかかわいい子どもと暮らせたら」と願いながら毎日を過ごしていました。
ある夏の日、おばあさんが川へ洗濯に行くと、川上から大きな瓜が流れてきます。
家へ持ち帰って切ろうとすると、なんと瓜の中から小さな女の子が現れました。
二人はその子を瓜子姫と名付け、大切に育てます。
やがて美しく心優しい娘に成長した瓜子姫。
ところがある日、おじいさんとおばあさんが留守にしている家へ、いたずら好きの天邪鬼(あまのじゃく)がやってきて――。
本文
むかしむかし、山のふもとの小さな村に、おじいさんとおばあさんが暮らしていました。
二人の家は、田畑の向こうに山が見える静かなところにありました。
おじいさんは畑へ出て働き、おばあさんは家の仕事をしながら、二人で仲良く暮らしていました。
けれど、二人には子どもがいませんでした。
夕方、仕事を終えて一緒にご飯を食べていると、おじいさんがときどき言いました。
「この家に元気な子どもがいたら、もっとにぎやかだろうなあ」
すると、おばあさんも、
「そうですねえ。笑い声が聞こえる家になったら、どんなに楽しいでしょう」
と答えました。
そんなある夏の日のことです。
朝から強い日差しが照りつけていました。
おばあさんは洗濯物を抱え、近くの川へ出かけました。
川辺には涼しい風が吹き、水がさらさらと流れています。
おばあさんが洗濯をしていると――。
どんぶらこ。
どんぶらこ。
川上から、何か大きなものが流れてきました。
「おや?」
おばあさんは手を止めました。
どんぶらこ。
どんぶらこ。
近づいてきたのは、とても大きな瓜でした。
「まあ、なんて立派な瓜でしょう」
おばあさんは川へ手を伸ばし、瓜を拾い上げました。
ずっしりと重く、近くへ寄せると甘い香りがします。
「これはおいしそうだこと」
おばあさんはにっこり笑いました。
「おじいさんと一緒にいただきましょう」
大きな瓜を抱え、家へ帰りました。
「おじいさん、おじいさん!」
「どうした?」
「川でこんなものを拾いましたよ」
おばあさんが見せると、おじいさんも驚きました。
「これは大きな瓜だ!」
二人はさっそく食べてみることにしました。
おばあさんが包丁を用意し、おじいさんが瓜を押さえます。
「では、切ってみましょうか」
そのときです。
ことん。
瓜が小さく動きました。
「ん?」
二人は顔を見合わせました。
ことん。
ことん。
今度は確かに、瓜の中から音がします。
「おじいさん……」
「ああ。何か入っているぞ」
二人が驚いて見ていると――。
ぱかっ。
瓜が二つに割れました。
そして、その中から現れたのは――。
「おぎゃあ、おぎゃあ」
小さな女の子でした。
「まあ!」
「なんと!」
おじいさんもおばあさんも、目を丸くしました。
瓜の中にいたのは、かわいらしい赤ん坊です。
おばあさんがそっと抱き上げると、女の子は泣きやみました。
そして、二人の顔を見てにっこり笑いました。
「なんてかわいらしい子でしょう」
おじいさんも嬉しそうに言いました。
「きっと、わしらのところへ来てくれたんだ」
二人はその女の子を大切に育てることにしました。
瓜から生まれたので、名前は「瓜子姫」とつけました。
それからというもの、静かだった家には毎日のように笑い声が響くようになりました。
瓜子姫は、おじいさんとおばあさんの愛情をたくさん受けながら、すくすくと育っていきました。
やがて、美しい娘になりました。
けれど瓜子姫が村の人たちに好かれていたのは、美しいからだけではありません。
とても優しく、よく働く娘だったのです。
朝になると、
「おばあさん、お水をくんできますね」
と家の仕事を手伝います。
畑から疲れて帰ってきたおじいさんには、
「お疲れさまでした」
とお茶を用意しました。
そして瓜子姫には、もう一つ得意なことがありました。
機織りです。
とん、とん。
からり。
とん、とん。
からり。
瓜子姫が機を織る音は、毎日のように家の中から聞こえてきました。
細い糸が、少しずつ美しい布へ変わっていきます。
赤や青の糸を組み合わせ、花や鳥のような美しい模様を織り上げることもありました。
「まあ、きれいな布だこと」
村の人たちは感心しました。
「瓜子姫は本当に働き者だねえ」
おじいさんとおばあさんも、そんな瓜子姫をとても大切にしていました。
ある日のことです。
おじいさんとおばあさんは、二人で山へ出かけることになりました。
「瓜子姫、今日はしばらく家を留守にするからね」
「はい」
「一人でも大丈夫かい?」
「大丈夫です。機を織って待っています」
おじいさんは戸口で、もう一度瓜子姫に言いました。
「いいかい。わしらが帰るまで、知らない者が来ても決して戸を開けてはいけないよ」
おばあさんも言いました。
「誰かに呼ばれても、外へ出てはいけませんよ」
瓜子姫はしっかりとうなずきました。
「分かりました」
二人が山へ向かうと、瓜子姫は家の戸を閉めました。
やがて家の中から、いつもの音が聞こえ始めます。
とん、とん。
からり。
とん、とん。
からり。
瓜子姫は一人で機を織っていました。
外では鳥が鳴き、風が木の葉を揺らしています。
穏やかな昼下がりでした。
ところが――。
家から少し離れた木の陰から、その様子をじっと見ている者がいました。
天邪鬼(あまのじゃく)です。
人を困らせたり、いたずらをしたりするのが好きな、不思議な存在でした。
天邪鬼は以前から、村で評判の瓜子姫のことを知っていました。
「みんな、瓜子姫、瓜子姫と言っている」
木の陰から家を眺めながら、天邪鬼はつぶやきました。
「どんな娘なのか、見てやろう」
そして、そろりそろりと家へ近づいていきました。
家の中では、瓜子姫が何も知らずに機を織っています。
とん、とん。
からり。
すると――。
とん、とん。
戸をたたく音がしました。
瓜子姫の手が止まりました。
「誰ですか?」
外から声がします。
「瓜子姫さん、こんにちは」
聞いたことのない声でした。
瓜子姫は、おじいさんとおばあさんの言葉を思い出しました。
――知らない者が来ても、戸を開けてはいけないよ。
瓜子姫は戸を閉めたまま尋ねました。
「どなたですか?」
「わたしだよ。ちょっと遊びに来たんだ」
瓜子姫は首をかしげました。
「あなたのことは知りません」
「そんなこと言わないで、少しだけ戸を開けておくれよ」
瓜子姫は答えました。
「ごめんなさい。おじいさんとおばあさんに、知らない人が来ても戸を開けてはいけないと言われています」
外にいた天邪鬼は、むっとしました。
「少しくらいいいじゃないか」
「いけません」
「顔を見るだけだよ」
「それでも開けません」
何度言っても、瓜子姫は戸を開けません。
天邪鬼は家の周りをうろうろ歩き始めました。
ざっ。
ざっ。
窓の近くを通るたび、影がすっと動きます。
瓜子姫は機織りをやめました。
家の中が急に静かになりました。
外では風が吹いています。
ざわざわ……。
木の枝が揺れました。
瓜子姫は少し不安になりました。
けれど、戸へは近づきません。
「絶対に開けない」
小さな声で自分に言い聞かせました。
外では天邪鬼が考えていました。
「どうしたら中へ入れるだろう……」
しばらくすると、天邪鬼は何かを思いついたようでした。
今度は、先ほどとは違う声で戸の外から呼びかけました。
「瓜子姫や」
瓜子姫は驚きました。
さっきよりも柔らかな声です。
天邪鬼は、瓜子姫がいつも話す声や、家族の話し方をまねようとしていたのです。
「瓜子姫、戸を開けておくれ」
瓜子姫はじっと耳を澄ませました。
何かがおかしい。
声は似ているようで、どこか違います。
言葉の間の取り方も、いつもとは違っていました。
何より、おじいさんとおばあさんなら、まだ山から帰ってくる時間ではありません。
瓜子姫は戸から離れたまま言いました。
「あなたは、おじいさんでもおばあさんでもありませんね」
外が静かになりました。
瓜子姫は続けました。
「さっき来た人でしょう?」
返事はありません。
しん……。
風まで止まったように感じました。
瓜子姫は息をひそめました。
そのとき――。
戸の向こうから低い声が聞こえました。
「……気づいたか」
瓜子姫はどきりとしました。
「誰なのです?」
すると天邪鬼は、もう声をまねるのをやめました。
「わたしは天邪鬼さ」
瓜子姫は戸をしっかり押さえました。
「やっぱり知らない人です。戸は開けません」
「ちぇっ」
天邪鬼は悔しそうな声を出しました。
「少しくらい、だまされてくれてもいいじゃないか」
「いけません」
瓜子姫はきっぱり答えました。
しばらくすると、
ざっ、ざっ、ざっ……。
家から遠ざかっていく足音が聞こえました。
瓜子姫はすぐには戸を開けませんでした。
耳を澄ませ、しばらく待ちました。
外から何も聞こえなくなっても、そのまま家の中で待ち続けました。
夕方になり、山の向こうが赤く染まり始めたころです。
「瓜子姫ー!」
遠くから、聞き慣れたおじいさんの声がしました。
「ただいま帰りましたよ」
今度はおばあさんの声です。
瓜子姫は耳を澄ませました。
間違いありません。
いつもの二人の声でした。
戸を開けると、おじいさんとおばあさんが立っていました。
「おじいさん! おばあさん!」
二人の顔を見た瓜子姫は、ほっとしました。
おばあさんは心配そうに尋ねました。
「何かあったのですか?」
瓜子姫は昼間の出来事をすべて話しました。
知らない者が戸をたたいたこと。
何度も中へ入ろうとしたこと。
声をまねて、だまそうとしたこと。
そして、それが天邪鬼だったこと。
「そうだったのか」
おじいさんは瓜子姫の話を聞き終えると、ほっと息をつきました。
「怖かっただろう」
「少し怖かったです」
瓜子姫は答えました。
「でも、おじいさんとおばあさんとの約束を思い出しました」
おばあさんは瓜子姫の手を握りました。
「よく戸を開けずに待っていましたね」
おじいさんもうなずきました。
「無事で本当によかった」
瓜子姫は二人の顔を見て、ようやくいつもの笑顔になりました。
その晩、三人は一緒に温かいご飯を食べました。
外では夜の風が木々を揺らしています。
けれど家の中には明かりが灯り、おじいさんとおばあさん、そして瓜子姫の楽しそうな声が響いていました。
それからも瓜子姫は、毎日機を織り、おじいさんとおばあさんを手伝いながら、三人で仲良く暮らしたということです。
おしまい。
登場人物
- 瓜子姫(うりこひめ)
大きな瓜の中から生まれた女の子。おじいさんとおばあさんに大切に育てられ、優しく働き者の娘へ成長します。機織りがとても得意です。 - おじいさん
瓜子姫を自分の子どものように大切に育てます。家を留守にするときには、知らない者に戸を開けないよう瓜子姫に伝えます。 - おばあさん
川を流れてきた大きな瓜を拾い、その中から生まれた瓜子姫を愛情いっぱいに育てます。 - 天邪鬼(あまのじゃく)
人を困らせたり、いたずらをしたりする不思議な存在。留守番をしている瓜子姫の家へやってきて、中へ入ろうとします。
教訓
- 知らない人に声をかけられたときには、すぐに信用せず、自分の身を守る行動を取ることが大切です。
- 家族との約束には、自分を危険から守るための大切な意味が込められていることがあります。
- 怖いと感じる場面でも、教えてもらったことを思い出し、落ち着いて行動することが自分を守ることにつながります。
親子で話したいポイント
- 瓜子姫は、どうして戸を開けなかったのかな?
- 知らない人から「戸を開けて」と言われたら、どうしたらいい?
- 知っている人のような声がしても、「何かおかしい」と思ったらどうする?
- 瓜子姫は、一人で留守番をしているときにどんな気持ちだったと思う?
- 家族と決めている「自分を守るための約束」には、どんなものがあるかな?
保育士向け活用ポイント
瓜から女の子が生まれる場面、機織り、天邪鬼とのやり取りなど場面の変化が分かりやすく、劇遊びや表現遊びにも展開しやすい作品です。
「知らない人についていかない」「知らない人に戸を開けない」など、防犯について考える導入教材として活用できます。
単に「知らない人は怖い」と伝えるのではなく、「困ったときにどう行動するか」「誰に助けを求めるか」を子どもたちと考える活動につなげることができます。
天邪鬼が声をまねる場面から、「知っている人のように見えたり聞こえたりしても、不安なときは大人に確認する」という話にも発展させられます。
「瓜子姫はなぜ約束を守ったのか」「もし自分だったらどうするか」など、年中〜年長児の話し合い活動にも向いています。


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