ほら吹き男(ほらふきおとこ)

日本の昔話

あらすじ

むかしむかし、ある村に、何でも大げさに話す太郎という男がいました。

小さな山を越えただけなのに「山を十個も越えた」、小川を渡っただけなのに「川を百本も渡った」、犬に出会っただけなのに「恐ろしい獣と戦った」と話すので、村の人たちはいつも「また太郎のほらが始まった」と笑っていました。

太郎自身も、みんなをだましてやろうと思っているわけではありません。

ただ、話を面白くすることが大好きだったのです。

そんなある日、村の近くで山崩れが起こり、大きな岩が道をふさいでしまいます。

いつものように「任せてくれ!」と胸を張る太郎。

村人たちは半信半疑でしたが、今度の太郎は話をするだけではありませんでした。

村のみんなと力を合わせ、本当に大きな仕事へ挑みます。

大げさな話が大好きだった太郎が、本当に何かをやり遂げる喜びに気づいていく昔話です。


本文

むかしむかし、山に囲まれた小さな村に、太郎という男が住んでいました。

太郎は体が丈夫で、畑仕事もきちんとする働き者でした。

朝になれば畑へ出て、日が暮れるまで汗を流します。

困っている人がいれば手を貸すこともあり、村の人たちから嫌われているわけではありませんでした。

ただ、一つだけ困ったところがありました。

それは――。

話を始めると、何でも大げさになってしまうことでした。

ある日の夕方。

太郎が大きな荷物を背負って、村へ戻ってきました。

「おお、太郎。」

畑仕事を終えた村人が声をかけました。

「今日はどこへ行っていたんだい?」

すると太郎は、待ってましたとばかりに荷物を下ろしました。

「聞きたいか?」

「町へ行ってきたんだろう?」

「まあ、そうなんだが……。」

太郎は急に真剣な顔をしました。

「今日は、とんでもない旅だった。」

「とんでもない旅?」

村人たちが集まってきます。

太郎は胸を張りました。

「まず俺は、山を十個も越えた。」

「十個?」

「ああ。」

太郎は大きくうなずきました。

「一つ目の山を越え、二つ目を越え、三つ目を越え……十個目の山を越えた時には、さすがの俺も膝が震えていたよ。」

「そんなに山を越えたのか?」

「それだけじゃない。」

太郎は人差し指を立てました。

「その先には、大きな川があった。」

「どのくらい大きいんだ?」

「向こう岸が見えないくらいだ。」

「そんな川、この辺りにあったか?」

「まあ、最後まで聞け。」

太郎は続けました。

「その川を渡ったと思ったら、また川。」

「また?」

「その次も川。」

「いったい、いくつあったんだ?」

太郎は腕を組みました。

「百本だな。」

「百本!」

「そうだ。」

村人たちは顔を見合わせました。

太郎はどんどん調子に乗っていきます。

「ようやく百本目の川を渡ったところで――」

声を低くしました。

「今度は、恐ろしい獣が現れた。」

「獣?」

「そうだ。」

太郎は両手を大きく広げました。

「こんなに大きなやつだ。」

「熊か?」

「熊なんてもんじゃない。」

「じゃあ、何だ?」

「目はぎらぎら。」

太郎は目を見開きます。

「口を開ければ、鋭い牙がずらり。」

両手を爪のように曲げました。

「そいつが俺を見るなり――」

「見るなり?」

「うおおおおお!」

突然の大声に、近くにいた子どもたちがびくっとしました。

「飛びかかってきた!」

「それでどうした?」

「もちろん戦ったさ。」

太郎は腰を落とし、獣と戦う真似を始めました。

「右から来たから、さっとかわす!」

「おお!」

「左から来たから、またかわす!」

「それで?」

「最後は俺が、こうだ!」

太郎は空中へ拳を突き出しました。

「どーん!」

集まった村人たちから拍手が起こりました。

「それで獣は?」

「山の向こうまで吹っ飛んでいった。」

「本当か?」

「もちろんだとも。」

太郎は得意そうに鼻を鳴らしました。

ところが、そこへ一人のおじいさんがやってきました。

「太郎。」

「なんだい?」

「お前さん、今日は東の町へ行っていたんだろう?」

「ああ。」

「東の町まで、山は一つしかないぞ。」

「……。」

「それに、途中にあるのは小さな小川が一本だけだ。」

「……まあな。」

「獣というのは?」

太郎は少し黙りました。

「……犬だ。」

「犬?」

「大きめの犬だった。」

「戦ったのか?」

「いや。」

「じゃあ、どうした?」

「向こうから歩いてきたから、道を譲った。」

しーん。

次の瞬間――。

「わはははは!」

村人たちが一斉に笑い出しました。

「山一つが十個になったぞ!」

「小川一本が百本!」

「犬が恐ろしい獣になった!」

太郎も一緒になって笑いました。

「いいじゃないか。」

「その方が面白いだろう?」

「太郎の話を聞いていると、何が本当なのか分からなくなるよ。」

「話は楽しい方がいいんだ。」

太郎はまったく気にしていません。

また別の日。

太郎が畑から戻ってくると、村人たちが集まっていました。

「どうしたんだ?」

「いや、昨日の夜、雨が降っただろう?」

「ああ。」

「畑のそばに大きな水たまりができたんだ。」

すると太郎は言いました。

「水たまり?」

「俺が今朝見た時には、湖になっていたぞ。」

「湖?」

「ああ。」

「魚が百匹くらい泳いでいた。」

「また始まった。」

「本当だって。」

「じゃあ、その魚はどうした?」

「全部、鳥がくわえて飛んでいった。」

「そんなわけあるか!」

村人たちは大笑いです。

そんな太郎の話を、子どもたちも楽しみにするようになりました。

「太郎さん、今日はどんなことがあったの?」

「今日はな――」

太郎は子どもたちを集めます。

「畑を耕していたら、土の中から俺より大きな大根が出てきた。」

「そんな大根あるの?」

「あるとも。」

「どのくらい?」

「村のみんなで引っ張っても抜けないくらいだ。」

「すごい!」

子どもたちは目を輝かせます。

もちろん、そんな大根はありません。

それでも太郎の話を聞いていると、目の前に大きな大根が現れたような気がしてくるのです。

「太郎の話は、本当だと思って聞いちゃいけない。」

大人たちは笑いました。

「でも、聞いていると面白いんだよな。」

「そうそう。」

「次は何を言い出すのか楽しみになる。」

太郎は、そんな毎日を送っていました。

ところが、ある日のことです。

夜から降り続いた激しい雨が、朝になってようやく止みました。

村人たちが家から出てみると、山の方から大きな声が聞こえてきました。

「大変だ!」

一人の男が走ってきます。

「どうした!」

「山の道がふさがっている!」

「何だって?」

村人たちは急いで山へ向かいました。

村から町へ行くには、山沿いの一本道を通らなければなりません。

そこへ着いた村人たちは、息をのみました。

「これは……。」

雨で山の斜面が崩れたのでしょう。

土や木の枝と一緒に、大きな岩がいくつも道へ転がり落ちていました。

中でも一番大きな岩は、大人が何人も並んだほどの大きさです。

完全に道をふさいでいました。

「これでは通れないぞ。」

「町へ行けない。」

「米や薬を買いに行くこともできないじゃないか。」

「どうする?」

村人たちは困ってしまいました。

岩を押してみる者もいました。

「よいしょ!」

びくともしません。

何人かで押してみます。

「せーの!」

ぐぐぐっ。

やはり動きません。

「だめだ。」

「こんな大きな岩、どうやって動かすんだ。」

その時――。

「任せてくれ!」

聞き慣れた声がしました。

振り返ると、太郎が胸を張って立っています。

村人たちは顔を見合わせました。

「太郎……。」

「今度は何だ?」

「まさか、『俺なら一人で山の向こうまで投げ飛ばせる』なんて言うんじゃないだろうな。」

太郎は少し考えました。

「それも面白そうだが。」

「やっぱり!」

「待て待て。」

太郎は笑いました。

「今日は、ほらを吹いている場合じゃない。」

太郎は大きな岩を見上げました。

「これは本当に困ったことだ。」

村人たちは驚きました。

「太郎が『本当に』と言ったぞ。」

「珍しいな。」

「俺だって、いつでもほらを吹いているわけじゃない。」

太郎は岩の周りを歩き始めました。

前から眺めます。

横へ回ります。

地面を見ます。

そして言いました。

「一人で押しても無理だ。」

「そんなことは分かってるよ。」

「だったら、みんなでやればいい。」

「みんなで?」

「ああ。」

太郎は村の方を指さしました。

「太い縄を持ってこよう。」

「それから丸太も必要だ。」

「丸太?」

「岩の下に入れて転がせば、ただ押すより動かしやすくなるかもしれない。」

村人たちは顔を見合わせました。

「やってみるか。」

「このままじゃ、どのみち道は通れない。」

みんなで村へ戻り、太い縄や丈夫な丸太を集めました。

男たちだけではありません。

年寄りは道具を用意しました。

女たちは食べ物や水を運びました。

子どもたちは小さな石や枝を拾いました。

太郎は声を張り上げました。

「よし!」

「みんなでやるぞ!」

岩に縄をかけます。

下へ丸太を差し込みます。

「せーの!」

村人たちが一斉に縄を引きました。

「よいしょ!」

ぐぐぐっ。

「動いたか?」

「いや、まだだ!」

「もう一度!」

「せーの!」

「よいしょおおお!」

岩は――。

ほんの少しだけ動きました。

「動いた!」

「本当だ!」

「もう一度だ!」

太郎は汗をぬぐいました。

「いけるぞ!」

「今日中に山の向こうまで飛ばしてやろう!」

村人が笑いました。

「またほらが始まったぞ。」

「ははは!」

けれど、みんなの顔には笑顔が戻っていました。

「よし、もう一度!」

太郎の大きな声に合わせて、村人たちは力を合わせました。

何度も。

何度も。

岩を少し動かしては、丸太を入れ直します。

疲れたら休みます。

水を飲んで、また始めます。

一日では終わりませんでした。

次の日も作業しました。

その次の日も続きました。

「あと少しだ!」

太郎は誰よりも汗を流して働きました。

いつものように話を大きくするだけではありません。

縄を引き、

土を掘り、

丸太を運び、

疲れた人がいれば代わりました。

そして数日後。

「せーの!」

「よいしょおおお!」

ごろっ。

大きな岩が、とうとう道の端へ動きました。

「やった!」

「道が開いたぞ!」

村中に歓声が響きました。

子どもたちは飛び跳ねました。

大人たちは肩をたたき合いました。

太郎も地面へ座り込み、大きく息を吐きました。

「いやあ……。」

「これは大変だった。」

村人の一人が笑いました。

「太郎。」

「なんだ?」

「今日の話は、どのくらい大きくするんだ?」

太郎は首をかしげました。

「そうだなあ。」

「『山より大きな岩を、一人で持ち上げた』くらいにしておくか。」

「またか!」

みんなが笑いました。

けれど太郎も笑った後、動かした岩を眺めました。

「でもな。」

「ん?」

「今日は、本当の話のままでいいかもしれない。」

村人たちは太郎を見ました。

「一人じゃ、あの岩は動かなかった。」

太郎は言いました。

「みんなで何日もかけて、やっと動かしたんだ。」

「それだけで十分すごいよ。」

村人たちは少し驚き、それから笑いました。

「ああ。」

「そうだな。」

「たまには本当のことも言えるじゃないか。」

「たまには余計だ。」

それからも太郎は、相変わらず話をするのが大好きでした。

ある日には、

「昨日の魚は、俺の腕より大きかった。」

と言い、

別の日には、

「山で鳥と話をしてきた。」

と言いました。

村の子どもたちは、

「また太郎さんのほらだ!」

と笑います。

すると太郎も、

「そう思うなら、続きを聞いてみろ。」

と言って、ますます面白い話を聞かせました。

けれど、誰かが本当に困っている時には、もう話だけで終わることはありませんでした。

「太郎、手を貸してくれ。」

「任せろ。」

そう言って、すぐに立ち上がります。

ある夕方。

村の子どもたちが太郎の周りに集まりました。

「太郎さん。」

「なんだ?」

「あの大きな岩を動かした時の話をしてよ。」

「いいぞ。」

太郎は腕を組みました。

「むかし、むかし――」

「そんな昔じゃないよ!」

子どもたちが笑いました。

太郎も笑います。

「俺が山より大きな岩と戦った時のことだ。」

「ほらだ!」

「まだ始まったばかりだぞ。」

「本当はみんなで動かしたんでしょ?」

一人の子どもが言いました。

太郎はにやりと笑いました。

「ああ。」

「それだけは本当だ。」

夕暮れの村に、太郎と子どもたちの楽しそうな笑い声が響きました。

おしまい。


登場人物

  • 太郎
    何でも大げさに話してしまう村の男。小さな出来事でも大冒険のように語ることが得意で、村人たちをいつも笑わせています。山崩れで道がふさがれた時には、話だけではなく、自ら汗を流して村人たちと岩を動かします。
  • 村人たち
    太郎の大げさな話を「また始まった」と笑いながら楽しんでいる人々。山道がふさがれた時には、太郎と一緒に力を合わせて道を開きます。
  • 村の子どもたち
    太郎のほら話を楽しみにしている子どもたち。太郎の話が本当かほらなのかを考えながら、想像を膨らませて楽しんでいます。

教訓

  • 想像力や言葉には、人を楽しませたり、笑顔にしたりする力がある。
  • 楽しい作り話と、相手を困らせるための嘘には違いがある。
  • 本当に困った場面では、言葉だけではなく、実際に行動することが大切。
  • 一人では難しいことでも、みんなで力を合わせれば乗り越えられることがある。

親子で話したいポイント

  • 太郎は、どうしていつも話を大げさにしていたのかな?
  • 「山を十個」「川を百本」「恐ろしい獣」という話は、本当はどんな出来事だった?
  • 太郎のほら話と、人を困らせる嘘にはどんな違いがあると思う?
  • 大きな岩を動かす時、太郎はいつもの太郎とどこが違っていたかな?
  • 自分なら、どんな出来事を大げさで面白い冒険のお話にしてみたい?

保育士向け活用ポイント

  • 太郎の「山を十個越えた」「川を百本渡った」などの表現から、子どもたちが自由に想像を広げる言葉遊びへつなげられます。
  • 「本当の出来事」と「太郎が大げさにした話」を比べることで、事実と作り話の違いについて考える活動にも活用できます。
  • 「楽しい作り話」と「相手を困らせる嘘」の違いを話し合うことで、言葉の使い方について考えるきっかけになります。
  • 山道の岩を村人全員で動かす場面から、協力することや、自分にできる役割を見つけることについて考えられます。
  • 太郎役が大げさな身振りや表情を使いやすく、「山を十個」「川を百本」など自由に内容を増やせるため、4〜5歳児の劇遊びや即興の物語づくりにも発展させやすい題材です。

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