まんじゅうこわい

昔話

あらすじ

むかしむかし、ある町で、何人かの男たちが集まって「この世で一番怖いものは何か」と話していました。

へびが怖い、くもが怖い、雷が怖い――。

みんながそれぞれ苦手なものを話す中、一人だけ「俺には怖いものなんてない」と言い張る男がいました。

仲間たちがしつこく聞くと、男は困ったような顔をして、とうとう「実は、まんじゅうが怖い」と打ち明けます。

それを聞いた仲間たちは大笑い。

男を怖がらせてやろうと、町中からたくさんのまんじゅうを買い集めます。

ところが、部屋いっぱいのまんじゅうを前にした男は――。

最後まで聞くと、思わず笑ってしまう、知恵とことばのやり取りが楽しい昔話です。


本文

むかしむかし、ある町に、いつも集まってはおしゃべりをしている男たちがいました。

ある日のこと。

みんなでお茶を飲みながら、あれこれ話しているうちに、一人の男がこんなことを言い出しました。

「なあ。みんなは、この世で何が一番怖い?」

「怖いもの?」

「そうさ。苦手で、見るだけでも逃げ出したくなるようなものだよ。」

すると、一人がすぐに答えました。

「俺は、へびだな。」

「へび?」

「ああ。あの、にょろにょろ動くのがどうにもいけない。」

「なんだ、へびくらいで。」

別の男が笑いました。

「そういうお前は何が怖いんだ?」

「俺か?」

男は少し考えました。

「俺は、くもだな。」

「へびより小さいじゃないか。」

「大きさの問題じゃない。あの足がたくさんあるのを見ると、ぞくぞくするんだ。」

「ははは。へびより、くもの方が怖いのか。」

「じゃあ、お前は?」

「俺は雷だ。」

「雷?」

「あの、ぴかっと光った後の――」

男は両手を広げました。

「ドカーン! ってやつが苦手なんだ。」

「子どもみたいだなあ。」

みんなは笑いました。

へびが怖い。

くもが怖い。

雷が怖い。

暗いところが怖い。

犬が怖い。

高いところが怖い。

次々と話が出てきます。

ところが、その中に一人だけ、黙ってにやにやしている男がいました。

「おい。」

仲間の一人が声をかけました。

「さっきから笑っているけど、お前は何が怖いんだ?」

男は腕を組みました。

「俺?」

「ああ。」

「俺には、怖いものなんてないね。」

みんなは顔を見合わせました。

「何も?」

「何も。」

「へびも?」

「平気だ。」

「くもは?」

「平気。」

「雷は?」

「ちっとも怖くない。」

「暗い山道は?」

「一人で歩ける。」

「お化けは?」

「出てきたら話をしてみたいくらいだ。」

男は胸を張りました。

「俺には怖いものなんてないんだよ。」

それを聞いていた仲間たちは、だんだん面白くなくなってきました。

「そんな人間がいるものか。」

「そうだ。誰にだって、一つくらい怖いものがあるはずだ。」

「ないものはない。」

男は涼しい顔をしています。

「いや、絶対にある。」

「ない。」

「ある。」

「ない。」

そんなやり取りがしばらく続きました。

すると一人が言いました。

「分かった。」

「それじゃあ、何でもいい。無理にでも一つ言ってみろ。」

「そうだ、そうだ。」

「お前が一番苦手なものを教えてくれ。」

男は腕を組みました。

「うーん……。」

目を閉じて、しばらく考えています。

「何かあるだろう?」

「待て待て。今、考えている。」

男は首をひねりました。

そして――。

「あっ。」

急に顔色を変えました。

「どうした?」

「思い出してしまった……。」

さっきまで威張っていた男が、急に小さな声になりました。

「なんだよ。」

「何が怖いんだ?」

男は周りを気にするように、そっと言いました。

「実は……。」

「実は?」

仲間たちが身を乗り出します。

男は、ごくりとつばを飲み込みました。

「まんじゅうが怖い。」

「…………。」

しーん。

しばらく誰も何も言いませんでした。

やがて一人が聞き返しました。

「今、なんて言った?」

「だから……まんじゅうだよ。」

「まんじゅう?」

「そうだ。」

男は本当に嫌そうな顔をしました。

「丸くて……。」

「うん。」

「ふっくらしていて……。」

「うん。」

「中にあんこなんかが入っている、あのまんじゅうだ。」

男は自分で言いながら、ぶるっと体を震わせました。

「だめだ。名前を聞いただけでも怖くなってきた。」

仲間たちは、ぽかんとしています。

そして次の瞬間――。

「わはははは!」

部屋中に大きな笑い声が響きました。

「まんじゅうが怖い?」

「そんなやつ、初めて聞いたぞ!」

「へびでも、お化けでもなく、まんじゅう?」

男はむっとした顔をしました。

「笑うなよ。」

「だって、おかしいじゃないか。」

「何が怖いんだよ、あんなもの。」

「怖いものは怖いんだ。」

男は立ち上がりました。

「もういい。」

「どうした?」

「まんじゅうの話をしていたら気分が悪くなってきた。」

「そんなに?」

「ああ。」

男は青い顔をしたふりをして言いました。

「俺は隣の部屋で休ませてもらうよ。」

「絶対に、まんじゅうなんか持ってくるなよ。」

「分かった、分かった。」

「本当にだぞ。」

「はいはい。」

男は隣の部屋へ入っていきました。

すーっ。

ふすまが閉まりました。

残された仲間たちは、しばらく黙っていました。

やがて一人が、にやりと笑いました。

「なあ。」

「なんだ?」

「面白いことを思いついた。」

みんなが顔を寄せます。

「あいつ、まんじゅうが怖いって言ったよな?」

「ああ。」

「それなら――。」

男は声をひそめました。

「部屋いっぱいに、まんじゅうを置いてやろうじゃないか。」

「なるほど!」

「それは面白い。」

「びっくりするぞ。」

「泣いて逃げるかもしれないな。」

仲間たちは大喜びです。

「よし。買ってこよう。」

男たちは町へ飛び出していきました。

「まんじゅうをください!」

「こっちのも!」

「あれも!」

「その大きいのも!」

町のまんじゅう屋を回って、次々と買い集めます。

白いまんじゅう。

茶色いまんじゅう。

小さなまんじゅう。

大きなまんじゅう。

こしあんのまんじゅう。

つぶあんのまんじゅう。

栗の入ったまんじゅう。

蒸したての、ほかほかしたまんじゅうまであります。

「これだけあれば十分だろう。」

「いや、もっとだ。」

「どうせなら、逃げ場がないくらい置いてやろう。」

仲間たちは、両手いっぱいにまんじゅうを抱えて戻ってきました。

そして、男が休んでいる部屋へそっと近づきます。

「静かにな。」

「起こすなよ。」

ふすまを少しだけ開けます。

男は部屋の奥で横になっていました。

どうやら眠っているようです。

仲間たちは音を立てないように、まんじゅうを置いていきました。

一つ。

二つ。

三つ。

十個。

二十個。

どんどん増えていきます。

枕元にも。

布団の横にも。

部屋の隅にも。

男の周りは、まんじゅうだらけになりました。

「よし。」

「これなら目を覚ましたら腰を抜かすぞ。」

仲間たちは隣の部屋へ戻りました。

そして、ふすまの隙間から男の様子をうかがいます。

しばらくすると――。

「うーん……。」

男が目を覚ましました。

むくり。

体を起こします。

そして、周りを見ました。

「…………。」

目の前には、まんじゅう。

右を見ても、まんじゅう。

左を見ても、まんじゅう。

後ろにも、まんじゅう。

男の顔がみるみる変わりました。

「あ……。」

仲間たちは笑いをこらえます。

「ああ……!」

男が頭を抱えました。

「ま、まんじゅうだ!」

「怖い!」

隣の部屋で、仲間たちは肩を震わせています。

「怖い、怖い!」

男は布団の上で震えました。

「こんなにたくさん……!」

「誰だ!」

「こんな恐ろしいものを持ってきたのは!」

仲間たちは、とうとう我慢できなくなりました。

「くくく……。」

「本当に怖がってるぞ。」

「あんなに偉そうにしていたのにな。」

男はさらに大きな声を出しました。

「ああ、怖い!」

「この白いまんじゅうが怖い!」

そう言うと――。

ぱくっ。

「……ん?」

仲間たちは目を丸くしました。

男が白いまんじゅうを一つ食べたのです。

「怖い、怖い。」

もぐもぐ。

「この栗まんじゅうも怖い。」

ぱくっ。

もぐもぐ。

「おい。」

仲間の一人がつぶやきました。

「食べてないか?」

「食べてるな。」

男は止まりません。

「怖いなあ。」

ぱくっ。

「こいつも怖い。」

ぱくっ。

「こっちも怖い。」

ぱくっ。

「うま……いや、怖い怖い。」

仲間たちの顔から笑いが消えていきました。

男はまんじゅうを一つ食べては、

「ああ、怖い。」

もう一つ食べては、

「こいつも怖い。」

と言っています。

山のようにあったまんじゅうが、どんどん減っていきます。

「おい!」

とうとう仲間たちは部屋へ飛び込みました。

「何をしているんだ!」

男は口いっぱいにまんじゅうをほおばったまま振り返りました。

「何って?」

「まんじゅうを食べてるじゃないか!」

「だって怖いからな。」

「怖いなら、どうして食べるんだ!」

男はごくんと飲み込みました。

そして、にっこり笑いました。

「怖いものは、なくしてしまうのが一番だろう?」

「なに?」

「だから全部食べて、なくしているところだ。」

仲間たちはようやく気づきました。

「お前……。」

「最初から、まんじゅうが食べたかっただけだな!」

男は笑いました。

「さて、どうだろうね。」

「この野郎!」

「だましたな!」

男は最後のまんじゅうを手に取りました。

「俺は『まんじゅうが怖い』とは言ったけど――」

ぱくっ。

「食べられないとは言ってないだろう?」

仲間たちは、すっかりやられたと気づきました。

「ちくしょう!」

「まんまとだまされた!」

けれど、あまりに見事に引っかかってしまったので、だんだんおかしくなってきました。

「はははは!」

「確かに、食べられないとは言ってないな!」

「やられた、やられた!」

みんなで大笑いしました。

ところが、一人が言いました。

「待てよ。」

「なんだ?」

「このまま終わったら、なんだか悔しいじゃないか。」

「そうだな。」

男たちは、まんじゅうを食べ終えた男を囲みました。

「おい。」

「なんだい?」

「今度こそ、本当に怖いものを教えろ。」

「本当に?」

「ああ。」

「もうだまされないぞ。」

男は腕を組みました。

「うーん。」

しばらく考えています。

仲間たちはじっと待ちました。

やがて男は、おなかをさすりながら言いました。

「そうだなあ。」

「今、一番怖いものか……。」

「なんだ?」

男は真面目な顔で答えました。

「熱いお茶が怖い。」

「…………。」

仲間たちは顔を見合わせました。

「熱い……お茶?」

「ああ。」

男はうなずきました。

「まんじゅうをこんなに食べた後だからな。」

「熱いお茶なんか出されたら――」

男はにやりと笑いました。

「怖くて怖くて、飲んでしまいそうだ。」

「あっ!」

仲間たちは、ようやく気づきました。

「またか!」

「今度はお茶まで飲むつもりだな!」

男はおなかを抱えて笑いました。

「はははは!」

仲間たちも、とうとう一緒になって笑い出しました。

「もう、お前にはかなわないよ!」

その日の部屋には、いつまでも楽しそうな笑い声が響いていました。

おしまい。


登場人物

  • まんじゅうが怖い男
    「自分には怖いものがない」と言いながら、最後には「まんじゅうが怖い」と打ち明ける男。仲間たちのいたずらを逆手に取り、たくさんのまんじゅうを食べてしまいます。
  • 仲間たち
    男が「まんじゅうが怖い」と言ったことを面白がり、町中からまんじゅうを買い集めて驚かせようとします。しかし、男の言葉にまんまと乗せられてしまいます。

教訓

  • 相手の言葉をそのまま受け取るのではなく、「本当にそうなのかな?」と考えてみることも大切。
  • 同じ言葉でも、言い方や使い方によって意味や受け取られ方が変わる。
  • 知恵やユーモアを使った言葉のやり取りには、人を笑わせる面白さがある。

親子で話したいポイント

  • 男は、本当にまんじゅうが怖かったのかな?
  • 仲間たちは、どうして男の話を信じてしまったのだろう?
  • 男は、いつからまんじゅうを食べるつもりだったと思う?
  • 最後に「熱いお茶が怖い」と言ったのは、どうしてかな?
  • 自分だったら「○○が怖い」と言って、何を持ってきてもらいたい?

保育士向け活用ポイント

  • 「まんじゅうが怖い」という言葉と実際の行動の違いから、「本当に怖いのかな?」と予想しながら楽しめる物語です。
  • 同じ「怖い」という言葉を繰り返しながら展開が変化するため、言葉の意味や使い方のおもしろさに触れるきっかけになります。
  • 「怖い、怖い」と言いながらまんじゅうを食べていく場面は、読み手が声色や表情を変えることで、子どもたちと一緒に笑いながら楽しめます。
  • 最後の「熱いお茶が怖い」というオチまで含め、年長児から小学生に向けた落語的な語りや劇遊びにも発展させやすい物語です。

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