かまいたち|世界の名作・昔話(日本の妖怪)

怖い話・妖怪の話・怪談

あらすじ

山道を歩いていると、突然、手や足に細い傷ができていることがあります。

いつ傷ついたのか分からない。周りを見ても、誰もいない。

昔の人々は、そんな不思議な傷を、風に乗って現れる妖怪「かまいたち」の仕業だと語りました。

姿を見ることも、近づいてくる気配を感じることも難しい、風のような妖怪の話です。

本文

むかしむかし、山に囲まれた小さな村がありました。

冬になると山から冷たい風が吹き下ろし、村の木々を激しく揺らしました。

ひゅううう……。

ごうっ……。

特に風の強い日は、村人たちは山道を歩くことを嫌がりました。

それには、寒さとは別の理由がありました。

村の山には、「かまいたち」という妖怪がいるといわれていたのです。

かまいたちは、風に乗って現れます。

けれど、その姿をはっきり見た者はほとんどいません。

ただ、風が通り過ぎたあとに、いつの間にか手や足に細い傷が残っているのだといいます。

ある冬の日のこと。

一人の男が用事を済ませるため、山道を歩いていました。

空は灰色の雲に覆われ、山の木々が風に揺れています。

ざわざわ……。

ひゅううう……。

「今日はずいぶん風が強いなあ。」

男は着物の襟を押さえながら、足早に山道を進みました。

道には枯れ葉が舞い、細い枝が風にあおられて揺れています。

そのときでした。

ごうっ!

突然、強い風が男の横を吹き抜けました。

男は思わず目を閉じました。

そして――。

シュッ。

何かが足元を通り過ぎたような音がしました。

「ん?」

男は立ち止まりました。

今、何かがいたような気がします。

けれど辺りを見回しても、誰もいません。

あるのは木々と、風に舞う枯れ葉だけです。

「気のせいか……。」

男が再び歩き出そうとした、そのとき。

足にぴりっとした痛みを感じました。

「いたっ。」

男は慌てて足を見ました。

そこには、細い傷が一本ついていました。

「なんだ、この傷は……。」

転んだ覚えはありません。

枝に引っかけた覚えもありません。

男は来た道を振り返りました。

誰もいません。

ひゅううう……。

冷たい風だけが、山道を吹き抜けていきます。

すると、また。

シュッ。

今度は男のすぐ後ろを、何かが通り過ぎました。

「誰だ!」

男は勢いよく振り返りました。

けれど、やはり誰もいません。

ざわざわと木々が揺れています。

その向こうに、何か小さな影が動いたようにも見えました。

男は目をこらしました。

「……そこにいるのか?」

返事はありません。

しん……。

一瞬だけ、風が止まりました。

山の中が不気味なほど静かになります。

男は息をのみました。

次の瞬間――。

ごうっ!

再び強い風が吹きました。

シュッ!

何かが男のすぐそばを駆け抜けます。

速すぎて、姿は見えません。

「うわっ!」

男は身をかがめました。

風が通り過ぎると、辺りは再び静かになりました。

男はもう山道にとどまる気にはなれませんでした。

「これはまずい……。」

急いで村へ戻ることにしました。

後ろから風が吹くたびに、男は何度も振り返りました。

けれど、最後まで何かの姿を見ることはありませんでした。

村へ戻ると、男はさっそく村人たちに山で起きたことを話しました。

「急に風が吹いてな。そのあと、いつの間にか足にこんな傷ができていたんだ。」

男が傷を見せると、村人たちは顔を見合わせました。

そして、一人の年寄りが言いました。

「それは、かまいたちだ。」

「かまいたち?」

「風に乗ってやってきて、鎌のような爪で人を傷つける妖怪だ。」

男は自分の足に残った細い傷を見つめました。

あのとき聞こえた、

シュッ。

という音。

木々の向こうを通り過ぎた、小さな影。

思い出すと、背中がぞくりとしました。

それから村人たちは、風の強い日に山へ入るときには、これまで以上に気をつけるようになりました。

「今日は風が強いぞ。」

「かまいたちに気をつけろ。」

そんな言葉が、村では聞かれるようになりました。

そして冬の山で強い風が吹くたびに、村人たちは耳をすませました。

ひゅううう……。

ごうっ……。

シュッ。

もし風の中からそんな音が聞こえたら――。

かまいたちが、すぐそばを駆け抜けているのかもしれません。

おしまい。

登場人物

かまいたち
風に乗って素早く現れ、鎌のような爪で人を傷つけるといわれる妖怪。

山道を歩く男
風の強い日に山道を歩き、いつの間にか足に細い傷ができていたことに気づく人物。

村人たち
山に現れるかまいたちについて語り、風の強い日に注意する人々。

教訓

自然の中では、天候や周囲の様子に注意して行動する。

不思議な出来事に出会ったとき、その原因について考えてみることも大切。

昔の人々が自然の不思議をどのように捉え、物語として伝えてきたのかを知ることができる。

親子で話したいポイント

昔の人は、どうして突然できた傷を「かまいたち」の仕業だと思ったのかな?

風が強い日に外を歩くとき、どんなことに気をつけたらいい?

理由の分からない不思議なことが起きたら、どうやって原因を調べてみる?

保育士向け活用ポイント

妖怪文化と、風や天候などの自然現象への興味をつなげやすい題材です。

「風はどうして吹くの?」「風は目に見える?」などの問いから、風の強さや音、物が動く様子を観察する活動へ発展させることができます。

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