あらすじ
いつも食事をほんの少ししか食べない女がいました。
家族は「ずいぶん小食だな」と不思議に思っていました。
ところが、女の髪の奥には、もう一つの大きな口が隠れていたのです。
夜になると髪が蛇のように動き、頭の後ろにある口へ食べ物を運んでいきます。
その不気味な姿から、この妖怪は「二口女」と呼ばれるようになりました。
本文
むかしむかし、ある家に、とても小食な女が住んでいました。
食事の時間になっても、女はほんの少ししか食べません。
「あなたは、本当に少ししか食べないね。」
家族がそう言っても、女はにっこり笑うだけでした。
ところが、その家では、いつからか不思議なことが起こるようになりました。
たくさん炊いたはずのご飯が、いつの間にか減っているのです。
戸棚にしまっておいた食べ物も、少しずつなくなっていました。
「おかしいな……。」
「誰かが夜中に食べているのだろうか。」
家族は首をかしげました。
けれど、いくら考えても分かりません。
そこである晩、家の者は眠ったふりをして、こっそり様子をうかがうことにしました。
夜が更け、家の中はしんと静まり返りました。
女も布団の中で眠っています。
しばらくすると――。
さら……。
さらさら……。
小さな音が聞こえてきました。
家の者が暗闇の中で目をこらすと、眠っている女の髪が、ひとりでに動いていました。
「……なんだ?」
長い髪が、するすると伸びていきます。
まるで何匹もの蛇のようにうねりながら、髪は女の頭の後ろへ集まっていきました。
そして――。
後ろ頭の髪が、ゆっくりと左右に分かれました。
その奥に、大きな口が現れたのです。
「……!」
家の者は息をのみました。
口が、ぱくりと開きます。
すると髪の毛が食べ物をつかみ、次々とその口へ運び始めました。
「ぺちゃ、ぺちゃ……。」
「むしゃ、むしゃ……。」
暗く静かな部屋の中に、食べ物をかむ音だけが響きます。
髪はまた食べ物をつかみます。
そして、後ろ頭の口へ運びます。
ぱくり。
むしゃ、むしゃ……。
家の者は恐ろしくて、声を出すこともできません。
目の前で眠っている女には、確かにもう一つの口があったのです。
やがて食べ物がなくなると、口は静かに閉じました。
髪もするすると元の場所へ戻っていきます。
部屋は再び、何事もなかったかのように静かになりました。
それからというもの、家族は夜になると、食べ物をきちんとしまうようになったといいます。
おしまい。
登場人物
二口女
頭の後ろにもう一つの口を持つとされる妖怪。
家族
家から食べ物がなくなることを不思議に思い、二口女の秘密に気づく人々。
教訓
見た目だけでは、相手の本当の姿は分からない。
食べ物を大切にする。
不思議なことが起こっても、落ち着いて考えることが大切。
親子で話したいポイント
二口女はどうして食べ物を隠れて食べていたのかな?
食べ物を大切にするには、どんなことができる?
自分が知らないことを知るには、どうしたらいい?
保育士向け活用ポイント
食育や「食べ物を大切にする」ことを考える活動の導入に活用できます。
「もし体にもう一つ口があったら?」など、妖怪の不思議な体の特徴から想像を広げる創作活動にもつなげられます。


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