あらすじ
むかし、ある町に一人の仕立て屋が暮らしていました。
ある日、仕事の邪魔をしていたハエを一度に七匹退治した仕立て屋は、うれしくなって「一撃で七人」と書いた帯を作ります。
ところが、それを見た人々は大きな勘違いをしました。
「この男は、一度に七人もの人間を倒したのか!」
仕立て屋の噂はどんどん広がり、ついには王さまの耳にまで届きます。
そして仕立て屋は、恐ろしい巨人を退治するという、とんでもない仕事を任されることになってしまいました。
もちろん仕立て屋に、巨人と力比べをして勝てるような腕力はありません。
そこで仕立て屋は、自分の知恵と工夫を使って巨人たちに立ち向かいます。
小さな仕立て屋が、大きな相手を知恵で乗り越えていく物語です。
本文
むかしむかし、ある町に一人の仕立て屋が暮らしていました。
仕立て屋は毎日、小さな仕事場で服を縫っていました。
ちくちく。
ちくちく。
針を動かし、布を縫い合わせていきます。
ある日のこと。
仕立て屋がいつものように仕事をしていると――。
ぶーん。
一匹のハエが飛んできました。
ぶーん。
今度は二匹。
さらに三匹、四匹と集まってきます。
「もう、仕事の邪魔だなあ。」
仕立て屋が手で追い払っても、ハエたちはすぐに戻ってきました。
ぶんぶん。
ぶんぶん。
「ええい!」
仕立て屋は大きく手を振りました。
ぱしん!
すると――。
「おや?」
机の上を見ると、七匹のハエが一度に退治されていました。
仕立て屋は目を丸くしました。
「一度に七匹だ!」
だんだんうれしくなってきました。
「これはすごいぞ。一撃で七匹も倒したんだ!」
仕立て屋は、このことを誰かに知らせたくなりました。
そこで布を取り出し、一本の帯を作りました。
そして、その帯に大きく書きました。
「一撃で七人」
仕立て屋は出来上がった帯を身につけると、胸を張りました。
「よし。これならみんな驚くだろう。」
ところが――。
仕立て屋が考えていた以上に、人々は驚きました。
町を歩いていると、一人の男が帯を見つけました。
「一撃で七人……?」
男は仕立て屋の顔を見ました。
そして、さっと道をあけました。
「どうしたんだ?」
仕立て屋は不思議そうに首をかしげます。
その男は、別の人にこっそり言いました。
「見たか? あの男の帯。」
「ああ。」
「一撃で七人を倒したらしいぞ。」
「七人も?」
仕立て屋が倒したのは、もちろん七匹のハエです。
けれど帯には、ハエとは書かれていません。
「一撃で七人」
それだけです。
そのため人々は、仕立て屋が一度に七人もの人間を倒した、とんでもなく強い男なのだと思い込んでしまったのです。
「小柄なのに、恐ろしい男だ。」
「見た目では分からないものだな。」
噂はあっという間に町中へ広がりました。
そして町を越え、さらに遠くへ。
「一撃で七人を倒す男がいるらしい。」
「ものすごい勇者だそうだ。」
話はどんどん大きくなっていきました。
とうとう、その噂は王さまの耳にまで届きました。
「一撃で七人を倒す男だと?」
王さまは驚きました。
ちょうどそのころ、王さまには困っていることがありました。
恐ろしい巨人たちが現れ、人々を困らせていたのです。
大きな体。
太い腕。
とても普通の人間ではかなわないような相手でした。
王さまは考えました。
「一撃で七人を倒せるほどの男なら、巨人にも勝てるかもしれない。」
そこで仕立て屋は、王さまのもとへ呼ばれました。
「お前が、一撃で七人を倒したという男か。」
王さまが尋ねました。
仕立て屋は、自分の帯を見ました。
「まあ……そう書いてあります。」
「ちょうどよい。」
王さまは言いました。
「恐ろしい巨人たちを退治してもらいたい。」
「えっ?」
仕立て屋の顔がこわばりました。
「巨人……ですか?」
「そうだ。」
仕立て屋は困りました。
自分が倒したのは七人の人間ではありません。
七匹のハエです。
大きな巨人を相手に、本当に戦えるはずがありません。
けれど、ここまで噂が広がってしまった以上、簡単に逃げ出すこともできません。
「どうしよう……。」
仕立て屋は考えました。
巨人と正面から力比べをしたら、どうなるでしょう。
大きな腕でつかまれたら、ひとたまりもありません。
「力では絶対にかなわない。」
仕立て屋は分かっていました。
だからこそ考えました。
「力で勝てないなら、頭を使えばいい。」
仕立て屋は巨人たちのいる場所へ向かいました。
町を離れ。
道を進み。
やがて深い森へ入っていきます。
森の奥へ進むほど、人の気配はなくなっていきました。
ざわざわ……。
風が木々を揺らします。
やがて――。
どしん。
地面が揺れました。
仕立て屋は足を止めました。
どしん。
どしん。
何か大きなものが歩いてきます。
木々の間から姿を現したのは――。
巨人でした。
「大きい……。」
仕立て屋は思わず見上げました。
自分とは比べものにならないほど大きな体です。
巨人の腕は丸太のように太く、力比べをして勝てるようにはとても見えません。
少し怖くなりました。
けれど仕立て屋は逃げませんでした。
巨人は仕立て屋を見下ろしました。
「なんだ、お前は?」
仕立て屋は胸を張りました。
そして、あの帯を見せました。
「一撃で七人」
巨人は文字を読みました。
「一撃で七人だと?」
巨人は少し驚いたようです。
「お前のような小さな男が?」
仕立て屋は平気な顔をしていました。
「見た目だけで決めないほうがいいよ。」
巨人は仕立て屋の力を試そうとしました。
けれど仕立て屋は、まともに力比べをしようとはしません。
「どうすれば、巨人に自分のほうが強いと思わせられるだろう。」
仕立て屋は頭を働かせました。
巨人が力を見せれば、それをよく見ます。
巨人が何かを自慢すれば、その自慢を利用する方法を考えます。
仕立て屋は巨人と同じことをするのではなく、自分にできる別の方法で対抗しました。
巨人はだんだん不思議に思い始めました。
「この小さな男……本当はものすごく強いのではないか?」
仕立て屋は、自分が力ではかなわないことを決して忘れませんでした。
だから正面から戦わず、巨人たちの力や性格を利用しました。
ときには相手をうまく困らせ。
ときには巨人たちをだまし。
危険な場面でも、知恵を使って切り抜けていきました。
「力で押してくるなら、こっちは頭で勝負だ。」
大きな巨人たちは、自分たちよりはるかに小さな仕立て屋に振り回されていきました。
仕立て屋自身も、怖くないわけではありません。
巨人が近づけば、地面が揺れます。
どしん。
どしん。
大きな手が伸びてくれば、思わず逃げ出したくなることもありました。
それでも仕立て屋は、そのたびに考えました。
「落ち着け。何か方法があるはずだ。」
そして一つずつ、難しい場面を切り抜けていきました。
やがて仕立て屋は、巨人たちを退治することに成功しました。
けれど、王さまから与えられた難しい仕事は、それだけではありませんでした。
「次は、これをやってもらおう。」
また別の危険な仕事が与えられます。
「今度はこれか……。」
仕立て屋は困りました。
けれど、やはり力だけで解決しようとはしませんでした。
相手をよく見て。
周りの様子を確かめて。
自分にできることを考える。
「大きな体がなくても、できることはある。」
仕立て屋は知恵を働かせ、次々に難しい仕事を成し遂げていきました。
その話を聞くたびに、王さまは驚きました。
「また成功したのか?」
「はい。」
仕立て屋は答えました。
最初は「一撃で七人」という噂を聞いただけだった王さまも、仕立て屋が本当にいくつもの困難を乗り越えていく姿を見るうちに、その力を認めるようになりました。
そして最後には、王さまは仕立て屋に言いました。
「お前は本当に勇気のある男だ。」
仕立て屋は、自分の小さな手を見ました。
巨人のような大きな手ではありません。
強い腕を持っているわけでもありません。
けれど、その手は毎日針を動かし、細かな仕事をしてきた手です。
そして仕立て屋には、困ったときに考える頭がありました。
怖くても一歩を踏み出す勇気がありました。
仕立て屋は、あの日作った帯を見ました。
「一撃で七人」
すべては七匹のハエから始まったのでした。
仕立て屋は少し笑うと、胸を張って歩いていきました。
おしまい。
登場人物
仕立て屋
町で服を作って暮らしていた主人公。一度に七匹のハエを退治し、「一撃で七人」と書いた帯を身につけたことで、とても強い男だと勘違いされます。巨人のような大きな相手にも、力ではなく知恵と工夫を使って立ち向かいます。
王さま
「一撃で七人を倒す男」という噂を聞き、仕立て屋に巨人退治などの難しい仕事を与える人物。仕立て屋が次々と困難を乗り越える姿を見て、その勇気を認めるようになります。
巨人たち
仕立て屋が立ち向かう大きく力の強い相手。仕立て屋は正面から力比べをするのではなく、巨人たちの力や性格を利用しながら知恵で対抗します。
教訓
体の大きさや力の強さだけが、その人の「強さ」を決めるわけではない。
困ったときには、力任せに進むのではなく、考え方や工夫によって解決できることもある。
自分が得意なことや持っている力を知り、それを生かすことも大切。
親子で話したいポイント
町の人たちは、どうして仕立て屋をとても強い人だと思ったのかな?
仕立て屋は、どうして大きな巨人に立ち向かうことができたのだろう?
力が強いこと以外には、どんな「強さ」があると思う?
自分が得意なことは何かな?
困ったときに、工夫してうまくいったことはある?
保育士向け活用ポイント
「力の強さだけが、その人の価値ではない」というテーマを考える題材として活用できます。
子どもたちに「強い人ってどんな人?」と問いかけ、「力が強い」「走るのが速い」だけではなく、「よく考えられる」「困っている友達に声をかけられる」「最後まで挑戦できる」など、さまざまな強さがあることへ話を広げられます。
また、「自分の得意なことは何だろう?」と考える活動にもつなげやすく、一人ひとりの違いや得意なことを認め合うきっかけとしても活用できます。


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