悪魔の三本の金の髪|世界の名作・昔話(グリム童話)

グリム童話

あらすじ

生まれたときから「幸運な子」と言われていた一人の若者がいました。

やがて若者は王女と結婚しますが、その運命を気に入らない王さまは、とても難しい命令を下します。

「悪魔の頭から、三本の金の髪を取ってこい。」

若者は恐ろしい悪魔のもとを目指して旅に出ます。

途中で困っている人々と出会いながら、知恵と勇気、そして人とのつながりに助けられて困難を乗り越えていく物語です。

本文

むかしむかし、ある村に一人の男の子が生まれました。

男の子が生まれたとき、その子を見た人々は言いました。

「この子は、とても幸運な星のもとに生まれている。」

「きっと大きくなったら、すばらしい運命が待っているぞ。」

男の子は元気に育ち、やがて立派な若者になりました。

不思議なことに、若者が困ったことに出会っても、最後には思いがけない助けが現れたり、よい方向へ物事が進んだりしました。

「あの子はやっぱり幸運な子だ。」

そんな噂は村の外まで広がっていきました。

そしてとうとう、王さまの耳にも届きました。

「生まれながらに幸運を持つ若者だと?」

王さまは、その話を面白く思いませんでした。

しかも若者は、めぐり合わせによって王女と結婚することになったのです。

王さまはますます気に入りません。

「そんな都合のよい運命があるものか。」

王さまは考えました。

そして、若者を呼び出すと、恐ろしい命令を下しました。

「お前が本当にそれほど幸運な者だというのなら、証明してみせろ。」

「何をすればよいのでしょうか。」

若者が尋ねると、王さまは言いました。

「悪魔のところへ行き、その頭から三本の金の髪を取ってこい。」

若者は驚きました。

悪魔のところへ行くだけでも恐ろしいことです。

ましてや、その頭から髪を三本抜いてくるなど、普通ならできるはずがありません。

けれど若者は逃げませんでした。

「分かりました。行ってまいります。」

そう言って、旅の支度を始めました。

若者は王女に別れを告げ、悪魔の住む場所を目指して歩き始めました。

いくつもの町を通り、山を越え、川を渡りました。

やがて、一つの町へたどり着きました。

そこで人々が困っていました。

「旅の方、もし分かるなら教えてください。」

「どうしたのですか?」

「私たちには、どうしても解決できないことがあるのです。」

若者は先を急いでいました。

けれど、困っている人々をそのままにしておくことはできません。

「私にも今は答えが分かりません。でも、これから遠いところへ行きます。もし答えを知ることができたら、帰りに必ず伝えましょう。」

人々は喜びました。

「ありがとうございます。」

若者は再び旅を続けました。

その先でも、また困っている人たちに出会いました。

「どうか、この問題の答えを見つけてください。」

「分かりました。できるだけのことをしてみます。」

若者は、自分の目的だけを考えることなく、人々の願いを覚えておくことにしました。

そして、さらに遠くへ進みました。

道はだんだん険しくなっていきます。

人の住む町は少なくなり、辺りには深い森が広がっていました。

昼間でも木々が空を覆い、森の中は薄暗く感じられます。

ざわざわ……。

風が吹くたびに、枝が不気味な音を立てました。

「本当に、この先に悪魔がいるのだろうか……。」

若者も少し怖くなりました。

けれど、ここまで来て引き返すわけにはいきません。

若者は勇気を出して進みました。

どれほど歩いたでしょう。

とうとう若者は、悪魔の住む場所へたどり着きました。

そこには、不気味な家が建っていました。

辺りは暗く、しんと静まり返っています。

若者は恐る恐る近づきました。

すると、悪魔の家族が若者を見つけました。

「こんなところへ人間が来るなんて。何をしに来たのです?」

若者は正直に答えました。

「悪魔の三本の金の髪が必要なのです。」

「なんですって?」

「王さまに命じられました。三本の金の髪を持ち帰らなければなりません。」

悪魔の家族は驚きました。

「悪魔に見つかったら、ただでは済みませんよ。」

若者はうなずきました。

「それでも、持って帰らなければならないのです。」

悪魔の家族は、しばらく若者を見つめていました。

そして言いました。

「分かりました。あなたを助けましょう。」

若者は家の中に隠してもらいました。

やがて夜がやってきました。

外から重い足音が聞こえてきます。

どしん……。

どしん……。

若者は息をひそめました。

「帰ってきた……。」

悪魔です。

ぎいっ……。

扉が開きました。

悪魔が家の中へ入ってきます。

「なんだか人間のにおいがするぞ。」

若者の体がこわばりました。

見つかったらどうなるか分かりません。

けれど悪魔の家族は、何でもないように言いました。

「気のせいでしょう。今日は疲れているのではありませんか。」

悪魔はしばらく辺りを見回していましたが、やがて横になりました。

しばらくすると――。

ぐう……。

ぐう……。

大きないびきが聞こえてきました。

悪魔が眠ったのです。

若者は隠れたまま、じっと待ちました。

すると、悪魔の家族がそっと近づきました。

そして――。

ぷつん。

悪魔の頭から、金色に輝く髪を一本抜きました。

「ううん……。」

悪魔が少し動きます。

若者は息を止めました。

けれど、悪魔は再び眠りました。

しばらくして――。

ぷつん。

二本目。

そして、さらに時間を置いて――。

ぷつん。

三本目。

悪魔の三本の金の髪がそろいました。

朝になると、若者は三本の金の髪を大切にしまいました。

「ありがとうございます。」

「気をつけて帰りなさい。」

若者は悪魔の家をあとにしました。

帰り道、若者は旅の途中で出会った人々のことを忘れていませんでした。

困っていた町へ立ち寄り、自分が旅の中で知ったことを伝えました。

「約束した答えを持ってきました。」

「本当ですか!」

人々はたいそう喜びました。

別の場所でも、若者は困っていた人々に答えを伝えました。

「助かりました。ありがとうございます。」

若者が人を助けるたびに、その人たちも若者の旅を助けてくれました。

そうして若者は、長い旅を終え、とうとう王さまのもとへ帰ってきました。

王さまは若者の姿を見ると目を見開きました。

「まさか……帰ってきたのか?」

若者は手を開きました。

そこには、三本の金色の髪がありました。

「お命じになった、悪魔の三本の金の髪です。」

「本当に持ってきたというのか……。」

王さまは言葉を失いました。

あれほど恐ろしい旅へ送り出したというのに、若者は無事に帰ってきたのです。

若者は、旅の途中で出会った人々のことや、悪魔の家族に助けてもらったことを話しました。

自分一人の力だけで、三本の金の髪を手に入れたわけではありません。

困っている人の話を聞いたこと。

助けてくれる人を信じたこと。

そして、どれほど怖くても途中であきらめなかったこと。

そのすべてが、若者をここまで連れてきたのでした。

若者は王女のもとへ戻りました。

そして二人は、これからも互いに支え合いながら暮らしていきました。

悪魔の三本の金の髪は、若者が恐ろしい旅を乗り越えた証として、大切にされたそうです。

おしまい。

登場人物

若者
生まれたときから幸運になるといわれ、王さまから難しい試練を与えられても、あきらめずに旅を続ける主人公。

王さま
若者の幸運な運命を気に入らず、悪魔の三本の金の髪を持ってくるよう命じる人物。

悪魔
金色に輝く髪を持ち、若者が旅の果てに訪れる恐ろしい相手。

悪魔の家族
危険を承知で若者をかくまい、三本の金の髪を手に入れるために力を貸す存在。

王女
若者と結ばれ、長い旅から戻ってくるのを待つ人物。

教訓

幸運を待つだけではなく、自分で行動することが未来につながる。

自分が困っているときでも、周りの人を思いやる気持ちを忘れない。

難しいことに出会っても、あきらめずに進むことで道が開けることがある。

親子で話したいポイント

若者は自分も大変な旅をしているのに、どうして困っている人たちの話を聞いたのかな?

「運がいい」とは、どんなことだと思う?

若者は一人の力だけで、悪魔の三本の金の髪を手に入れることができたかな?

難しいことでも、あきらめずに挑戦したことはある?

保育士向け活用ポイント

「幸運だから成功した」という見方だけでなく、「自分から行動すること」「周りの人を助けること」「助けてもらうこと」の大切さについて考えられる物語です。

子どもが難しい課題に挑戦するときに、「最初からできなくても、考えたり誰かに助けてもらったりしながら進めばいい」という励ましにつなげることができます。

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