ねずみの嫁入り(ねずみのよめいり)

日本の昔話

あらすじ

むかしむかし、あるところに、仲の良いねずみの夫婦が暮らしていました。

二匹には、それはそれはかわいらしい一人娘がいました。

娘が大きくなったある日、父さんねずみと母さんねずみは考えます。

「大切な娘には、この世で一番立派なお婿さんを迎えてやりたい。」

そこで二匹は、世界で一番強いと思ったお日さまを訪ねます。

ところがお日さまは「雲にはかなわない」と言い、雲は「風にはかなわない」、風は「壁にはかなわない」と言います。

そして、最後に訪ねた壁が教えてくれた、自分より強いものとは――なんと、ねずみでした。

世界で一番立派な相手を探して旅をした夫婦が、身近なところにあった大切なものに気づいていく昔話です。


本文

むかしむかし、あるところに、仲の良いねずみの夫婦が暮らしていました。

二匹の家は、人間の家の床下にある小さな穴の奥にありました。

中には木の実や豆がきれいに並べられ、ふかふかの草で作った寝床もあります。

父さんねずみと母さんねずみは、そこで毎日仲良く暮らしていました。

そして二匹には、一人のかわいい娘がいました。

娘ねずみは、小さなころから明るく元気でした。

「おはよう!」

朝になると元気に飛び起き、家の仕事を手伝います。

困っているねずみを見つければ、

「大丈夫?」

と声をかけました。

食べ物が少ない仲間がいれば、自分の木の実を分けてあげることもありました。

村のねずみたちは、

「本当に優しい娘さんだね。」

「父さんねずみと母さんねずみは幸せ者だ。」

と言いました。

父さんねずみも母さんねずみも、そんな娘がかわいくて仕方ありません。

やがて娘ねずみも大きくなりました。

ある日の夜。

娘が眠ったあと、父さんねずみと母さんねずみは話をしていました。

「母さん。」

「なあに?」

「娘もずいぶん大きくなったな。」

「そうね。」

「そろそろ、お婿さんを探してやらなくちゃいけない。」

母さんねずみもうなずきました。

「大切な娘ですもの。すてきなお婿さんを見つけてあげたいわ。」

父さんねずみは胸を張りました。

「すてきなだけでは足りない。」

「え?」

「こんなにかわいい娘なんだ。」

父さんねずみは言いました。

「どうせなら、この世で一番立派なお婿さんを迎えよう。」

「この世で一番?」

「ああ。」

「一番強くて、一番すごい相手だ。」

母さんねずみも考えました。

「それなら安心ね。」

「よし、決まりだ。」

こうして二匹は、この世で一番立派なお婿さんを探すことになりました。

翌朝。

父さんねずみと母さんねずみは、外へ出ました。

「さて、この世で一番強いものは何だろう?」

二匹は辺りを見回しました。

その時――。

ぱあっ。

朝の光が辺りを照らしました。

二匹が空を見上げると、大きなお日さまが輝いています。

「母さん!」

父さんねずみが言いました。

「お日さまだ!」

「まあ。」

「お日さまなら、この世で一番強いに違いない。」

「そうね。あんなに高い空から、世界中を照らしているんですもの。」

「よし。お日さまに娘のお婿さんになってもらおう。」

二匹は空を見上げ、大きな声で呼びかけました。

「お日さまー!」

「お日さまー!」

すると、お日さまがにっこり笑いました。

「おや、ねずみさんたち。どうしたんだい?」

父さんねずみは丁寧に頭を下げました。

「お日さま。」

「あなたは空高く輝き、世界中を明るく照らしています。」

「きっと、この世で一番強くて立派な方なのでしょう。」

「そこでお願いがあります。」

「私たちの娘のお婿さんになっていただけませんか?」

お日さまは驚きました。

「私が?」

「はい。」

ところが、お日さまは少し困ったように笑いました。

「ありがたい話だけれど、私はこの世で一番強いわけではないよ。」

父さんねずみと母さんねずみは顔を見合わせました。

「えっ?」

「お日さまより強い方がいるのですか?」

「いるとも。」

「誰です?」

お日さまは空を見ました。

「雲だよ。」

「雲?」

「ああ。」

「私はどれほど明るく世界を照らしていても、雲がやってくれば――」

その時です。

もくもく。

大きな雲が流れてきました。

お日さまの前を、すっぽり覆います。

辺りが急に暗くなりました。

「ほらね。」

雲の向こうから、お日さまの声が聞こえます。

「雲が私を隠してしまえば、私の光は地上へ届かなくなる。」

「なるほど!」

父さんねずみは感心しました。

「では、雲の方がお日さまより強いのですね。」

「そういうことになるかな。」

父さんねずみと母さんねずみは、今度は雲を追いかけました。

「雲さーん!」

「待ってくださーい!」

もくもくと空を流れる雲に、二匹は呼びかけます。

「なんだい?」

雲が答えました。

父さんねずみは言いました。

「お日さまから聞きました。」

「あなたは、お日さまの光さえ隠してしまうそうですね。」

「まあね。」

「それなら、あなたこそ世界で一番強い方です!」

母さんねずみも頭を下げました。

「ぜひ、私たちの娘のお婿さんになってください。」

ところが雲は、

「いやいや。」

と笑いました。

「私も世界で一番強くはないよ。」

「ええっ!」

「あなたより強い方がいるのですか?」

「いるとも。」

「誰です?」

その時――。

ひゅううう……。

風が吹き始めました。

雲の体が、ゆっくりと動きます。

ひゅううううっ!

「おっとっと。」

雲はどんどん流されていきます。

「見ただろう?」

雲が言いました。

「風だよ。」

「風?」

「ああ。」

「私はどんなに大きく広がっていても、風が吹けば好きな場所にいられない。」

「右へ流され、左へ流され、どこまでも飛ばされてしまう。」

父さんねずみは目を丸くしました。

「なるほど。」

母さんねずみもうなずきます。

「では、風さんの方が強いのね。」

二匹は今度は風を探しました。

けれど、風は姿が見えません。

「風さーん!」

「どこですかー!」

すると――。

ひゅう。

二匹のひげが揺れました。

「ここだよ。」

「どこ?」

ひゅうううっ!

「うわっ!」

父さんねずみの帽子が飛びそうになりました。

「ここだよ、ここ。」

風の声が辺りから聞こえてきます。

父さんねずみは帽子を押さえながら言いました。

「風さん!」

「あなたは雲を吹き飛ばしてしまうそうですね。」

「まあね。」

「それなら、あなたこそ世界で一番強い方でしょう。」

「私たちの娘のお婿さんになっていただけませんか?」

風は、

「はははは!」

と笑いました。

「私も世界で一番ではないよ。」

「またですか!」

父さんねずみは驚きました。

「風さんより強いものなんてあるんですか?」

「あるとも。」

風はびゅうびゅうと吹きながら答えました。

「壁だ。」

「壁?」

「そうさ。」

風はますます強く吹きました。

びゅうううううっ!

木の枝が揺れます。

草が大きくなびきます。

父さんねずみと母さんねずみも、飛ばされないように地面へしがみつきました。

けれど――。

目の前にある大きな壁は、びくともしません。

「どれだけ強く吹いても、あの壁は動かない。」

風は言いました。

「だから、私より壁の方が強いのさ。」

「なるほど……。」

父さんねずみは感心しました。

「では、今度こそ間違いない。」

母さんねずみもうなずきました。

「壁さんこそ、世界で一番強い方ね。」

二匹は大きな壁のところへ向かいました。

その壁は、長い間そこに立っている、とても立派な壁でした。

雨の日も。

風の日も。

暑い日も。

寒い日も。

どっしりと立っています。

父さんねずみは壁を見上げました。

「大きいなあ。」

母さんねずみも言いました。

「これなら、どんなものにも負けそうにないわ。」

二匹は声をそろえました。

「壁さーん!」

しばらくすると、低い声が返ってきました。

「なんだい?」

父さんねずみは丁寧に頭を下げました。

「壁さん。」

「お日さまは雲にかなわず、雲は風にかなわず、風はあなたにかなわないと言いました。」

「ということは――」

父さんねずみは胸を張りました。

「あなたこそ、この世で一番強い方ですね!」

「そこでお願いがあります。」

母さんねずみが続けます。

「私たちの大切な娘のお婿さんになってください。」

すると壁は――。

「ははははは!」

大きな声で笑いました。

父さんねずみと母さんねずみは驚きました。

「どうして笑うのです?」

「いやいや。」

壁は言いました。

「私だって、この世で一番強いわけではないよ。」

「えええっ!」

父さんねずみは思わず大声を上げました。

「あなたより強いものがいるんですか?」

「もちろん。」

「いったい誰です?」

壁は答えました。

「ねずみだよ。」

二匹は、ぽかんとしました。

「……ねずみ?」

「そう。」

「私たちと同じ?」

「ああ。」

壁は笑いました。

「私は雨にも負けない。」

「強い風が吹いても、簡単には倒れない。」

「けれど、ねずみにはかなわない。」

「どうしてです?」

「ほら。」

壁は自分の下の方を見せました。

そこには――。

小さな穴が開いていました。

「ねずみは私をかじって、穴を開けてしまう。」

「どれほど頑丈な私でも、ねずみには困っているのさ。」

父さんねずみと母さんねずみは、穴をじっと見つめました。

「……。」

「……。」

そして、お互いの顔を見ました。

「母さん。」

「なあに?」

「ずいぶん遠くまで探しに来たな。」

「そうね。」

「お日さまに聞いて。」

「雲に聞いて。」

「風に聞いて。」

「最後は壁に聞いた。」

「ええ。」

父さんねずみは頭をかきました。

「それで、最後に出てきたのが……ねずみか。」

母さんねずみは、くすっと笑いました。

「私たちと同じねずみだったわね。」

二匹は顔を見合わせ――。

「ははははは!」

一緒に笑いました。

「世界で一番立派な相手を探して、ずいぶん遠回りしたものだ。」

父さんねずみは言いました。

けれど、母さんねずみは少し考えました。

「でも、お父さん。」

「なんだい?」

「強ければ、それだけで本当に娘は幸せなのかしら?」

父さんねずみは黙りました。

「お日さまは立派だった。」

「雲もすごかった。」

「風も強かった。」

「壁も丈夫だった。」

母さんねずみは続けます。

「でも、娘と一緒に毎日暮らして、困った時には助け合って、笑ったり話したりする相手でしょう?」

「……そうだな。」

父さんねずみは、ようやくうなずきました。

「世界で一番強いことより、娘を大切にしてくれることの方が大事かもしれない。」

「ええ。」

二匹は村へ帰ることにしました。

長い旅を終え、ねずみの村へ戻ると、娘ねずみが待っていました。

「父さん! 母さん!」

「ただいま。」

「お婿さんは見つかったの?」

父さんねずみと母さんねずみは顔を見合わせました。

「それがな。」

父さんねずみは旅の話をしました。

お日さまを訪ねたこと。

お日さまより雲が強かったこと。

雲より風が強かったこと。

風より壁が強かったこと。

そして――。

「壁より強かったのが、ねずみだったんだ。」

「えっ?」

娘ねずみは驚き、それから笑いました。

「ずっと遠くまで探しに行ったのに?」

「ああ。」

「最後はねずみだった。」

三匹は大笑いしました。

その時です。

「こんにちは。」

家の外から声がしました。

見ると、近所に住む若いねずみが立っていました。

「お帰りになったと聞いたので。」

若いねずみは、父さんねずみと母さんねずみに頭を下げました。

この若いねずみは、とても働き者でした。

朝早くから食べ物を集め、年老いたねずみが重い荷物を持っていれば、

「僕が持ちますよ。」

と手伝います。

小さな子ねずみが転べば、

「大丈夫?」

とすぐに駆け寄ります。

そして何より、娘ねずみと昔から仲が良く、いつも楽しそうに話をしていました。

母さんねずみは、その様子をじっと見ました。

父さんねずみも若いねずみを見ます。

「お前さん。」

「はい?」

「娘のことを、どう思っている?」

若いねずみは驚きました。

「えっ?」

顔がみるみる赤くなります。

娘ねずみも、

「お父さん!」

と慌てました。

若いねずみはしばらくもじもじしていましたが、やがて勇気を出して言いました。

「大切に思っています。」

「もし許していただけるなら、これからもずっと一緒にいたいです。」

父さんねずみは母さんねずみを見ました。

母さんねずみは、にっこり笑っています。

父さんねずみは若いねずみに尋ねました。

「お前さんは、お日さまより強いか?」

「え?」

「雲より強いか?」

「い、いえ。」

「風より?」

「もちろん弱いです。」

「壁より?」

若いねずみは困った顔をしました。

「たぶん……弱いと思います。」

父さんねずみは笑いました。

「それでいい。」

「え?」

「娘を大切にしてくれるなら、それで十分だ。」

娘ねずみの顔がぱっと明るくなりました。

母さんねずみもうなずきました。

「世界で一番強い必要なんてなかったのね。」

こうして娘ねずみと若いねずみは、夫婦になることになりました。

結婚の日。

ねずみの村では、盛大なお祝いが開かれました。

木の実。

豆。

お米。

小さなお菓子。

たくさんのごちそうが並びます。

ねずみたちは歌い、踊り、新しい夫婦の門出を祝いました。

「おめでとう!」

「幸せにね!」

娘ねずみと若いねずみは、みんなに囲まれて幸せそうに笑っています。

父さんねずみは、その姿を眺めながら言いました。

「母さん。」

「なあに?」

「わしらは世界で一番立派な婿を探していたんだよな。」

「そうね。」

「でも、ずっと近くにいたんだな。」

母さんねずみは笑いました。

「近すぎて、気づかなかったのね。」

父さんねずみもうなずきました。

「一番強いかどうかなんて、もうどうでもいい。」

「娘があんなに笑っているんだから。」

二匹の目の前で、娘ねずみと若いねずみが楽しそうに話しています。

その笑顔を見ながら、父さんねずみと母さんねずみも幸せそうに笑いました。

それから娘ねずみと若いねずみは、互いに助け合いながら仲良く暮らしました。

父さんねずみと母さんねずみも、時々あの長い婿探しの旅を思い出しては、

「お日さままで訪ねたのに、答えはすぐ近くにあったな。」

と笑ったそうです。

おしまい。


登場人物

  • 父さんねずみ
    大切な娘には世界で一番立派なお婿さんを迎えたいと考え、母さんねずみと一緒に旅へ出ます。さまざまな相手を訪ねるうちに、強さだけが大切なのではないと気づきます。
  • 母さんねずみ
    娘の幸せを願う優しい母親。旅の最後に、「強ければ娘は本当に幸せなのか」と考え、相手を思いやる心の大切さに気づきます。
  • 娘ねずみ
    明るく優しく、周囲のねずみたちから愛されている娘。最後には、昔から仲の良かった若いねずみと結婚します。
  • 若いねずみ
    娘ねずみの近くに住む、働き者で心優しいねずみ。仲間を助け、娘ねずみを大切に思っています。
  • お日さま
    世界を明るく照らす存在ですが、自分の光を隠す雲の方が強いと教えます。
  • 雲
    お日さまの光を隠しますが、風が吹けば流されてしまうと話します。
  • 風
    雲を吹き飛ばすほどの力を持っていますが、どれだけ吹いても動かない壁にはかなわないと話します。
  • 壁
    風にも負けない頑丈な存在ですが、自分に穴を開けるねずみにはかなわないと教えます。

教訓

  • 見た目の立派さや力の強さだけで、その人の価値を決めることはできない。
  • 誰にでも得意なことと苦手なことがあり、「絶対に一番強い存在」を決めることは難しい。
  • 幸せに暮らすためには、強さよりも相手を大切にする気持ちや優しさが大切。
  • 遠くに特別なものを探さなくても、本当に大切なものが身近にあることもある。

親子で話したいポイント

  • お日さま、雲、風、壁、ねずみは、それぞれ誰にかなわなかったかな?
  • 父さんねずみと母さんねずみは、どうして最初「一番強いお婿さん」を探したのだろう?
  • 最後に二匹が「強さだけではない」と気づいたのはなぜかな?
  • 若いねずみのどんなところが、娘ねずみのお婿さんにぴったりだった?
  • 自分の身近な人の「すてきなところ」を探してみよう。

保育士向け活用ポイント

  • 「お日さま→雲→風→壁→ねずみ」と強さが次々に移っていく繰り返しの構成を楽しめるため、子どもたちが次の展開を予想しながら参加できる読み聞かせに適しています。
  • 「次は誰が強いと思う?」と問いかけることで、考える力や想像力を引き出すことができます。
  • 「一番」を決めるだけではなく、それぞれに得意なことや良いところがあることを話し合うことで、友だちの個性を認める活動につなげられます。
  • お日さま、雲、風、壁、ねずみと役が多く、動きやせりふにも特徴があるため、4〜5歳児の劇遊びや発表会にも取り入れやすい題材です。

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