あらすじ
むかしむかし、山のふもとの小さな村に、貧しいけれど心の優しい若者が住んでいました。
ある日、若者は山道で傷つき、飛べなくなっている一羽の小鳥を見つけます。
自分の暮らしにも余裕がない若者でしたが、小鳥を放っておくことができず、家へ連れて帰って大切に世話をしました。
やがて元気になった小鳥は、自分が不思議な力を持つ「めっけ鳥」であることを明かし、お礼に一粒の種を若者へ渡します。
その種から育った木には不思議な実がなり、若者の暮らしは少しずつ豊かになっていきました。
ところが、その話を聞いた隣の男は、自分も同じようにお金持ちになろうと考えます。
優しい若者と、それをまねして利益を得ようとした隣の男。それぞれの行動を通して、思いやりの心を描いた昔話です。
本文
むかしむかし、山のふもとの小さな村に、一人の若者が住んでいました。
若者の家は、村のはずれにある古くて小さな家でした。
畑もほんの少ししかありません。
朝早くから畑を耕し、時には山へ薪を拾いに行き、村の人の仕事を手伝いながら暮らしていました。
一生懸命働いても、暮らしはなかなか楽にはなりません。
それでも若者は、不平を言うことはありませんでした。
「今日も食べるものがある。それだけでもありがたい。」
そう言って、毎日を大切に暮らしていました。
そして、自分が貧しくても、困っている人や生き物を見つけると放っておけない若者でした。
ある日のことです。
若者は薪を拾うため、山へ出かけました。
山はよく晴れていて、木々の間から暖かな日の光が差し込んでいます。
若者は集めた薪を背負い、村へ戻る山道を歩いていました。
すると――。
「チチッ……。」
どこからか、小さな鳴き声が聞こえました。
若者は足を止めました。
「なんだろう?」
耳を澄ませます。
「チチ……。」
また聞こえました。
道の脇にある草むらからです。
若者がそっと草をかき分けると、一羽の小鳥が倒れていました。
「おや。」
若者はすぐにしゃがみ込みました。
小鳥は片方の羽を傷つけているようです。
飛ぼうとして羽を動かしますが、すぐに地面へ倒れてしまいました。
「かわいそうに。けがをしているんだね。」
若者は小鳥を両手でそっと包みました。
小鳥は怖がっているのか、小さく震えています。
「大丈夫だよ。」
「何もしないからね。」
若者は小鳥を家へ連れて帰ることにしました。
家に着くと、小さな籠に柔らかな布を敷き、その中へ小鳥を寝かせました。
傷をきれいにして、水を飲ませます。
自分が食べるために取っておいたわずかな穀物も、小鳥に少し分けてやりました。
「早く元気になるといいな。」
それから若者は、毎日小鳥の世話をしました。
朝起きると、まず水を取り替えます。
仕事から帰ってくると、小鳥の様子を確かめました。
「今日はどうだい?」
「少し羽が動くようになったかな?」
小鳥は日に日に元気になっていきました。
最初は籠の中でじっとしていましたが、やがてぴょんぴょんと跳ねるようになり、羽を大きく広げられるようになりました。
そして数日後。
若者が家の戸を開けると、小鳥はぱたぱたと飛び上がりました。
「おお!」
小鳥は部屋の中を一周すると、若者の肩に止まりました。
「もう大丈夫そうだね。」
若者はうれしそうに笑いました。
「山へ帰れるな。」
若者は小鳥を外へ連れていきました。
「さあ、お行き。」
両手を開きます。
ところが、小鳥は飛び立とうとしません。
若者の肩に止まったまま、じっと顔を見ています。
「どうしたんだい?」
その時です。
「助けてくれて、ありがとう。」
若者は目を丸くしました。
「えっ?」
辺りを見回しました。
誰もいません。
「今の声は……?」
「私です。」
若者は、ゆっくり肩の小鳥を見ました。
「と、鳥がしゃべった!」
小鳥は小さく羽を広げました。
「私は、山に住むめっけ鳥です。」
「めっけ鳥?」
若者は聞いたことのない名前に首をかしげました。
「はい。」
めっけ鳥は答えました。
「あなたは何も求めず、傷ついた私を助けてくれました。」
「自分の食べ物まで分けて、毎日大切にしてくれました。」
若者は少し照れくさそうに笑いました。
「けがをしていたんだから、助けるのは当たり前だよ。」
めっけ鳥は、しばらく若者の顔を見つめていました。
「だからこそ、お礼をしたいのです。」
「お礼?」
「少し待っていてください。」
そう言うと、めっけ鳥は空へ飛び立ちました。
ぱたぱたぱた。
若者は空を見上げました。
めっけ鳥は山の方へ飛んでいき、やがて見えなくなりました。
「不思議な鳥だったなあ。」
若者はそうつぶやきました。
それからしばらくすると――。
「チチチッ!」
めっけ鳥が戻ってきました。
くちばしには、小さな種を一粒くわえています。
めっけ鳥は若者の前へ降りると、その種を手のひらに落としました。
「この種を、庭に植えてください。」
若者は種を眺めました。
小さな、小さな種です。
見たところ、どこにでもありそうな種でした。
「これを?」
「はい。」
「分かった。植えてみるよ。」
若者は庭に小さな穴を掘り、種を植えました。
土を優しくかぶせ、水をやります。
「これでいいかな?」
めっけ鳥はうなずきました。
「明日の朝、見てみてください。」
そう言うと、めっけ鳥は山へ飛んでいきました。
若者は少し不思議に思いましたが、その日はいつものように仕事をして眠りました。
そして翌朝。
「さて、昨日の種はどうなったかな。」
若者が庭へ出ると――。
「えっ?」
思わず立ち止まりました。
昨日まで何もなかった場所に、大きな木が立っていたのです。
「なんだ、これは!」
若者は驚いて木を見上げました。
太い幹が空へ伸び、青々とした葉が風に揺れています。
しかも、その枝には見たこともない実がたくさんなっていました。
赤く輝く実。
黄金色に輝く実。
朝日に照らされると、まるで宝石のようにきらきらしています。
若者は恐る恐る一つ取ってみました。
「きれいだなあ。」
その実を村へ持っていくと、商人が驚きました。
「これは珍しい。」
「こんなに美しい実は見たことがない。」
商人は、若者が思っていたよりもずっと高い値段で買ってくれました。
若者はそのお金で米や味噌を買いました。
古くなっていた家の屋根も直すことができました。
それでも、木にはまだたくさんの実がなっています。
若者は木を見上げながら考えました。
「これを全部自分のものにしたら、ずいぶんお金持ちになれるだろうな。」
けれど、すぐに首を振りました。
「いや。」
「自分が暮らしていける分があれば十分だ。」
若者は必要な分だけ実を取りました。
残った実は、暮らしに困っている村の人たちへ分けることにしました。
「うちにもいただけるのかい?」
「ああ。たくさんあるからね。」
「ありがとう。」
村の人たちは大喜びでした。
食べ物に困っていた家にも実を届けました。
年老いて仕事ができなくなった人にも分けました。
子どもたちにも少しずつ渡しました。
若者の家の庭には、いつしか村の人たちの笑い声が集まるようになりました。
そんな様子を、じっと見ている男がいました。
若者の隣に住む男です。
男は、若者の家に突然大きな木が生えたことを不思議に思っていました。
しかも、その実を売ると高い値段になるらしい。
「どうしてあいつだけ……。」
男は面白くありませんでした。
そこで若者に尋ねました。
「おい。その木はどうしたんだ?」
若者は隠すことなく話しました。
山道で傷ついた小鳥を見つけたこと。
家へ連れて帰って世話をしたこと。
その鳥がめっけ鳥だったこと。
そして、お礼にもらった種を植えたら、不思議な木が育ったこと。
話を聞いた男の目が輝きました。
「なるほど。」
男は心の中で考えました。
――鳥を助ければ、種がもらえる。
――種を植えれば、金になる実ができる。
――それなら自分も同じことをすればいい。
次の日。
男は山へ向かいました。
「めっけ鳥はどこだ。」
男は山道を歩き回りました。
けれど、傷ついた鳥など簡単に見つかるものではありません。
しばらくすると、一羽の小鳥が木の枝に止まっているのを見つけました。
「いたぞ。」
男はにやりと笑いました。
それが本当にめっけ鳥なのかどうかも分かりません。
けれど男は、鳥を捕まえようとしました。
鳥は驚いて飛び立ちます。
「待て!」
男は追いかけました。
やがて鳥が低い枝へ止まったところを、男は無理やり捕まえました。
「捕まえたぞ。」
小鳥は男の手の中で羽をばたつかせています。
「さあ。」
男は言いました。
「私にも、あの種をよこせ。」
小鳥は何も答えません。
「聞こえないのか?」
「隣の若者にはやったんだろう。」
「私にも宝物を出せ!」
男は小鳥を握ったまま、何度も言いました。
けれど、何も起こりません。
種も出てきません。
不思議な木も現れません。
「どういうことだ!」
男は腹を立てました。
「同じ鳥を捕まえたのに、なぜ私には何もくれないんだ!」
その時――。
「あなたは、なぜ私を捕まえたのですか?」
男は驚きました。
手の中の鳥が話したのです。
「お前、めっけ鳥なのか?」
「そうです。」
男は喜びました。
「やっぱりそうか!」
「だったら早く種をよこせ。」
めっけ鳥は静かに男を見ました。
「若者は、私が何者なのか知らずに助けてくれました。」
「お礼が欲しかったからではありません。」
「けがをしていた私を、ただ心配してくれたのです。」
男は黙りました。
「あなたはどうですか?」
めっけ鳥は尋ねました。
「私が困っていたから捕まえたのですか?」
男は答えられません。
「それとも、宝物が欲しかったからですか?」
男は手の中の鳥を見ました。
自分は鳥を助けようとしたわけではありません。
むしろ、宝を手に入れるために、元気な鳥を無理やり捕まえました。
男はゆっくり手を開きました。
「……すまなかった。」
めっけ鳥は手のひらから飛び立ち、近くの枝へ止まりました。
男はうつむきました。
「私は、金持ちになりたいことばかり考えていた。」
めっけ鳥は何も言わず、しばらく男を見つめていました。
そして羽を広げると、山の奥へ飛んでいきました。
男は一人、山道に残りました。
それから男は、少しずつ自分の行いを変えるようになりました。
最初から若者のようになれたわけではありません。
それでも、困っている人を見つければ声をかけるようになりました。
道に落ちている荷物を拾えば、持ち主を探しました。
仕事に困っている人がいれば、自分にできる範囲で手を貸しました。
ある日、男が畑仕事をしていると、隣の若者が声をかけました。
「ずいぶん変わったね。」
男は少し恥ずかしそうに笑いました。
「めっけ鳥に教えられたよ。」
「宝物ばかり探していたけれど、目の前にいる人のことを全然見ていなかった。」
若者は笑いました。
「それに気づけたなら、よかったじゃないか。」
二人は並んで畑を眺めました。
若者の家の庭では、今日も不思議な木が風に揺れています。
その枝には、美しい実がたくさんなっていました。
若者はそれからも、必要な分だけを取り、残った実を村のみんなと分けました。
隣の男も、できることがあれば手伝うようになりました。
やがて村では、困った時には自然と誰かが手を差し伸べるようになっていきました。
ある日の夕暮れ。
若者が庭の木を見上げていると、
「チチチッ。」
懐かしい声が聞こえました。
木の一番高い枝に、一羽の小鳥が止まっています。
「めっけ鳥。」
若者が笑うと、小鳥も楽しそうに鳴きました。
隣の男もやってきて、空を見上げました。
二人が見守る中、めっけ鳥は夕焼けの空へ高く舞い上がりました。
そして山の向こうへ、小さくなって消えていきました。
おしまい。
登場人物
- 若者
山のふもとの村で貧しい暮らしをしている青年。自分にも余裕がない中、傷ついた小鳥を放っておけず、大切に世話をします。めっけ鳥から不思議な種をもらった後も欲張らず、得たものを村の人たちと分け合います。 - めっけ鳥
山に住む不思議な鳥。傷ついていたところを若者に助けられ、お礼として不思議な種を渡します。隣の男には、若者との行動の違いを静かに問いかけます。 - 隣の男
若者が不思議な木によって暮らしを豊かにしたことを知り、自分も同じように宝を手に入れようとします。めっけ鳥を無理やり捕まえますが、何も得られず、自分の行いを振り返ることになります。 - 村の人たち
若者から不思議な木の実を分けてもらい、その優しさを受け取ります。やがて村全体に助け合う関係が広がっていきます。
教訓
- 見返りを求めずにした優しい行いが、思いがけない形で自分や周りの人へ返ってくることがある。
- 誰かの幸せを形だけまねするのではなく、その人がどのような気持ちで行動したのかを考えることが大切。
- 自分が得たものを独り占めせず、周りの人と分け合うことで、幸せを広げていくことができる。
親子で話したいポイント
- 若者は、自分も貧しかったのに、どうして小鳥を助けたのかな?
- 若者と隣の男は、めっけ鳥に対してどんなところが違っていた?
- もし自分が不思議な木を持っていたら、実をどうしたい?
- 隣の男は、めっけ鳥と話した後、どうして少しずつ変わっていったのかな?
- 誰かを助けたり、誰かに助けてもらったりしたことはある?
保育士向け活用ポイント
- 傷ついた小鳥を助ける場面から、「命を大切にすること」「困っている相手を思いやること」について考えられる物語です。
- 若者と隣の男の行動を比べることで、「何をしたか」だけでなく、「どんな気持ちでしたのか」という行動の背景にも目を向けられます。
- 若者が不思議な木の実を村の人たちへ分ける展開から、分け合うことや助け合うことについて話し合う活動につなげられます。
- めっけ鳥、不思議な種、一晩で育つ大きな木、美しい実など、子どもがイメージを膨らませやすい要素が多く、絵画や製作、劇遊びにも発展させやすい物語です。


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