北風と太陽|世界の名作・昔話(イソップ童話)

世界の名作・昔話

あらすじ

むかしむかし、空の上で北風と太陽が「どちらが強いのか」と言い争っていました。

北風は「強い風を吹かせれば、どんなものでも動かすことができる」と自信満々です。

一方、太陽は「本当の強さは、力だけではない」と考えていました。

そんなとき、二人は道を歩いている一人の旅人を見つけます。

そこで、「旅人の上着を先に脱がせたほうが勝ち」という勝負をすることになりました。

北風は力いっぱい風を吹かせますが、旅人は上着をますます強く押さえてしまいます。

次に太陽が暖かな光を降り注ぐと、旅人は自分から上着を脱ぎました。

「力で無理に動かそうとするのではなく、相手の気持ちを考えることの大切さ」を伝えるイソップ童話の名作です。


本文

むかしむかし、空の上で北風と太陽が話をしていました。

その日は青い空がどこまでも広がり、白い雲がゆっくりと流れていました。

北風は空を勢いよく駆け回りながら、自慢そうに言いました。

「やっぱり、私が一番強い。」

太陽は不思議そうに尋ねました。

「どうしてそう思うんだい?」

北風は胸を張りました。

「私は強い風を吹かせることができる。」

「木を揺らすこともできるし、雲を吹き飛ばすことだってできる。」

「だから、私が一番強いに決まっている。」

すると太陽は、にっこり笑いました。

「たしかに、北風の力はとても強いね。」

「でも、本当の強さは力だけではないと思うよ。」

北風はむっとしました。

「なんだって?」

「それなら、どちらが強いか勝負しようじゃないか。」

そのときです。

北風は、地上の道を一人の旅人が歩いていることに気づきました。

旅人は帽子をかぶり、厚い上着を着て、のんびりと道を歩いています。

北風は言いました。

「ちょうどいい。」

「あの旅人の上着を脱がせたほうが勝ちにしよう。」

太陽は旅人を見下ろしてから、静かにうなずきました。

「いいですよ。」

「では、やってみよう。」

最初は北風の番です。

北風は大きく息を吸い込みました。

「こんな勝負、簡単だ。」

「それっ!」

ビューッ!

強い風が旅人に向かって吹きつけました。

「うわっ!」

旅人は驚きました。

帽子が飛ばされそうになり、慌てて片手で押さえます。

「急に風が強くなったな。」

北風は得意そうです。

「どうだ!」

「もっと強く吹けば、上着なんてすぐに飛んでいくぞ。」

北風はさらに力を込めました。

ビュウウウウ!

木々の枝が大きく揺れます。

道の上の落ち葉も、

カサカサカサッ!

と勢いよく舞い上がりました。

旅人は体を小さくしました。

「ううっ、寒い!」

冷たい風が上着の隙間から入り込んできます。

旅人は上着の前をぎゅっと閉じました。

北風は首をかしげます。

「あれ?」

「どうして脱がないんだ?」

そこで、もっと強く吹くことにしました。

「これならどうだ!」

ビューーーーン!

さっきよりも強い風が吹きつけます。

旅人は風に飛ばされないよう、前かがみになって歩きました。

そして、上着を両手でしっかりと押さえました。

「寒い、寒い!」

「絶対に上着を脱ぐものか。」

北風が強く吹けば吹くほど、旅人は上着をしっかりと体に巻きつけます。

「まだまだ!」

北風は何度も風を吹かせました。

ビュウウウ!

ビューッ!

けれど、旅人は上着を脱ぐどころか、ますます強く抱え込んでしまいました。

やがて北風は、すっかり疲れてしまいました。

「はあ……はあ……。」

風が少しずつ弱くなります。

北風は悔しそうに言いました。

「どうしてだ。」

「こんなに力いっぱい吹いたのに、ちっとも上着を脱がない。」

太陽は言いました。

「では、今度は私の番だね。」

北風は少し不満そうでしたが、場所を譲りました。

太陽は旅人を見下ろしました。

そして、雲の間から優しく光を降り注ぎました。

ぽかぽか。

ぽかぽか。

さっきまで吹き荒れていた冷たい風がやみ、暖かな日差しが旅人を包みます。

旅人は顔を上げました。

「ああ。」

「風がやんだ。」

旅人の表情がほっと緩みました。

「暖かくて気持ちがいいな。」

旅人は再び、のんびりと道を歩き始めました。

北風は空の上から見ています。

「そんな優しい光で、本当に上着を脱がせられるのか?」

太陽は何も言わず、旅人を照らし続けました。

ぽかぽか。

ぽかぽか。

旅人は気持ちよさそうに歩いています。

しばらくすると、太陽は少しだけ光を強くしました。

旅人の体が、だんだん暖かくなってきます。

「今日はずいぶん暖かくなったな。」

旅人は上着の前を少し開けました。

北風は驚きました。

「あっ。」

太陽は急ぎません。

旅人が歩くのに合わせるように、暖かな光を送り続けます。

やがて旅人の額に、じんわりと汗が浮かんできました。

旅人は額をぬぐいました。

「ふう。」

「暑くなってきたな。」

そして――。

「もう上着はいらないな。」

旅人は立ち止まりました。

するり。

自分から上着を脱いだのです。

脱いだ上着を腕にかけると、旅人はまた気持ちよさそうに歩いていきました。

北風は目を丸くしました。

「脱いだ……。」

「私はあんなに力いっぱい吹いたのに。」

北風は、旅人の後ろ姿を見つめました。

自分が強く吹けば吹くほど、旅人は上着を離そうとしませんでした。

けれど太陽は、無理に上着を取ろうとはしませんでした。

暖かな光を送り続けただけです。

それなのに、旅人は自分から上着を脱ぎました。

北風はしばらく黙っていました。

そして、太陽に言いました。

「なるほど。」

「強い力を使えば、何でも思い通りになるわけではないんだな。」

太陽は静かに笑いました。

北風はもう一度、地上を見下ろしました。

旅人は上着を腕にかけ、気持ちよさそうに道を歩いています。

北風は小さくうなずきました。

それから北風は、いつでも力いっぱい吹くのではなく、ときには木の葉をそっと揺らすような優しい風も吹かせるようになりました。

太陽も変わらず、暖かな光で世界を照らし続けました。

空の上では、北風と太陽がそれぞれの力を生かしながら、世界を見守っていきました。

おしまい。


登場人物

北風

強い風を吹かせることができる存在です。最初は「力が強ければ何でも動かせる」と考えていましたが、旅人の上着を脱がせる勝負を通して、力だけでは相手を動かせないことに気づきます。

太陽

暖かな光で世界を照らす存在です。旅人に無理やり上着を脱がせようとはせず、優しく暖めることで、旅人が自分から上着を脱ぐようにします。

旅人

道を歩いていたところ、北風と太陽の勝負の相手となった人物です。北風が強く吹くと上着をしっかりと押さえ、太陽に暖められると自分から上着を脱ぎます。


教訓

  • 相手を無理に動かそうとするよりも、相手の気持ちを考えて関わることが大切。
  • 強い力だけが、本当の強さとは限らない。
  • 優しい働きかけによって、相手が自分から行動できることもある。
  • 自分のやり方がうまくいかないときには、別の方法を考えてみることも大切。

親子で話したいポイント

  • どうして旅人は、北風が強く吹くほど上着をしっかり押さえたのかな?
  • 太陽は、どうやって旅人に上着を脱いでもらったのかな?
  • 北風と太陽の「強さ」には、どんな違いがあったと思う?
  • お友だちに何かお願いするとき、どんな伝え方をするといいかな?
  • 優しく言ってもらったことで、「やってみよう」と思ったことはあるかな?

保育士向け活用ポイント

  • 子どもへの言葉掛けや援助のあり方について考えるきっかけになる作品です。
  • 北風のように力で動かそうとする関わりと、太陽のように相手が自分から動きたくなるような関わりを比較しながら、「子どもの主体性」について考えることができます。
  • 「早くして」「今すぐやって」と行動を急がせるのではなく、子どもが自分で気づき、動き出せるような環境や言葉掛けについて考える教材として活用できます。
  • 「叱る・命令する」だけではなく、「待つ・寄り添う・認める」といった関わりが、子どもの行動にどのような影響を与えるのかを話し合う園内研修にも活用できます。
  • 子ども同士の関わりでも、「やって!」と強く言うのではなく、相手の気持ちを考えながらお願いする方法について考えるきっかけになります。
  • 保育者自身にとっても、大人が望む行動を子どもにさせることを目的にするのではなく、子ども自身が納得して行動できるような関わりを考えるきっかけになる作品です。

保育士向けリンク

子どもの主体性とは?保育者が「待つ」ことの意味|子どもの育ちを信じる保育へ | 保育の知見/キャリア情報局 ~保育の学び.COM~

インクルーシブ保育とは?すべての子どもが安心して過ごせる環境をつくるために保育者が考えること | 保育の知見/キャリア情報局 ~保育の学び.COM~

子どもの主体性とは?保育者が「待つ」ことの意味|子どもの育ちを信じる保育へ | 保育の知見/キャリア情報局 ~保育の学び.COM~

コメント

タイトルとURLをコピーしました