あらすじ
むかしむかし、一本の大きなりんごの木がありました。
その木は、一人の少年のことが大好きでした。
少年が小さい頃から大人になるまで、木はいつも少年に寄り添い、必要なものを与え続けます。
時が流れるにつれて、少年の暮らしも願いも少しずつ変わっていきました。
それでも木は、いつまでも少年のことを思い続けます。
そして長い年月の果てに、少年と木はもう一度、静かな時間をともに過ごします。
「愛すること」「相手を思いやること」「与えることと受け取ること」について考えさせられる世界的な名作です。
本文
むかしむかし、
一本の大きなりんごの木がありました。
太い幹を持ち、空へ向かってたくさんの枝を伸ばした、大きな木でした。
春には若葉を広げ、
夏には涼しい木陰をつくり、
やがて枝には、たくさんのりんごが実りました。
その木のところへ、毎日のように遊びに来る一人の男の子がいました。
男の子は木が大好きでした。
そして木も、男の子がやって来るのを楽しみにしていました。
男の子は木の幹に手をかけ、
よいしょ、よいしょと登っていきます。
高い枝まで登ると、
葉っぱの間から空を眺めました。
疲れたときには、枝にもたれてひと休み。
おなかがすけば、実ったりんごを食べました。
暑い日には、木陰で寝転がりました。
風が吹くと、
さわさわ、さわさわ。
葉っぱが気持ちよさそうに揺れます。
男の子は木のそばで、何時間も遊びました。
木にとっても、それは幸せな時間でした。
「今日も来てくれた。」
木は、男の子と過ごす毎日を楽しみにしていました。
けれど、月日は少しずつ流れていきます。
小さかった男の子も、だんだん大きくなりました。
遊びたいことも増えました。
会いたい人も増えました。
いつしか、以前のように毎日木のところへ来ることはなくなりました。
木は静かに待っていました。
春が過ぎ、
夏が過ぎ、
秋が来て、
冬になりました。
そして、また春が来ました。
ある日のこと。
久しぶりに男の子がやって来ました。
木はうれしくなりました。
「久しぶりだね。」
けれど、男の子は昔のように木へ登ろうとはしませんでした。
少し悲しそうな顔をしています。
「どうしたの?」
男の子は言いました。
「お金が欲しいんだ。」
木にはお金がありません。
けれど、枝にはたくさんのりんごが実っています。
木は考えました。
そして言いました。
「それなら、私のりんごを取っていくといいよ。」
「町へ持っていって売れば、お金になるでしょう。」
男の子は木に登りました。
昔のように枝から枝へと移りながら、りんごを集めていきます。
やがて、たくさんのりんごを抱えて帰っていきました。
木は、少し寂しくなりました。
けれど、男の子の役に立てたことをうれしく思いました。
それから、また長い時間が過ぎました。
男の子はなかなか戻ってきません。
木は風に枝を揺らしながら、ずっと待っていました。
そして、ある日。
男の子が再びやって来ました。
もう、すっかり大人になっています。
木はうれしくなりました。
けれど、男の子はまた困った顔をしていました。
「今度はどうしたの?」
男の子は言いました。
「家が欲しいんだ。」
「家族と暮らすための家が欲しい。」
木は考えました。
そして、自分の枝を見上げました。
「それなら、私の枝を使うといいよ。」
「枝を切って、家を作ればいい。」
男の子は木の枝を切りました。
一本。
また一本。
大きく広がっていた枝は、少しずつなくなっていきました。
男の子は、その枝を持って帰りました。
木は前のような姿ではなくなりました。
風が吹いても、たくさんの葉を揺らすことはできません。
それでも木は、男の子が家を作れたことをうれしく思いました。
また、長い年月が過ぎました。
男の子は、さらに年を重ねていました。
ある日、久しぶりに木のところへ戻ってきました。
木は静かに男の子を迎えました。
「今度は何が欲しいの?」
男の子は遠くを見ながら言いました。
「ここではない、遠いところへ行きたいんだ。」
「船に乗って旅をしたい。」
木には、もうりんごもありません。
家を作れるような枝も残っていません。
けれど、太い幹が残っていました。
木は言いました。
「それなら、私の幹を使って船を作るといいよ。」
男の子は木の幹を切りました。
そして、その木で船を作りました。
船に乗った男の子は、遠くへ旅立っていきました。
木のあった場所には、小さな切り株だけが残りました。
辺りは、とても静かになりました。
もう、葉っぱが風に揺れる音もしません。
鳥が枝にとまることもありません。
それでも木は、男の子のことを忘れませんでした。
長い長い時間が流れました。
季節が何度も巡りました。
そしてある日。
ゆっくりとした足取りで、一人の老人がやって来ました。
あの男の子でした。
木は、すぐに分かりました。
男の子はすっかり年を取り、昔のように走ることも、木に登ることもできません。
木は言いました。
「ごめんなさい。」
「もう、あなたにあげられるものは何もありません。」
「りんごもないし、枝もありません。」
「幹も、もうありません。」
男の子は静かに首を振りました。
「もう、何もいらないよ。」
「ただ、少し疲れたんだ。」
「座って、ゆっくり休みたい。」
木はうれしくなりました。
「それなら、ここに座ってください。」
「古い切り株なら、休むのにちょうどいいでしょう。」
男の子は、ゆっくりと腰を下ろしました。
そこは、子どものころから何度も遊んだ木のあった場所でした。
風が静かに吹いていました。
男の子は何も言わず、そこに座っていました。
木も、何も言いませんでした。
二人はただ、久しぶりに一緒の時間を過ごしました。
それだけで、木はうれしかったのでした。
おしまい。
登場人物
大きな木
少年が幼いころから成長を見守り、少年が必要とするものを与え続けるりんごの木です。
少年
幼いころは木と遊び、成長するにつれてさまざまなものを求めるようになる人物です。長い年月を経て老人となり、再び木のもとへ戻ってきます。
教訓
- 大切な人を思う気持ちは、長い時間が過ぎても続くことがある。
- 愛情とは、相手の幸せを願う気持ちでもある。
- 与えることだけでなく、相手とのつながりや一緒に過ごす時間も大切。
- 人との関係は、成長や時間とともに少しずつ変化していく。
親子で話したいポイント
- 木はどうして少年にいろいろなものを渡したのかな?
- 少年が大きくなるにつれて、欲しいものはどのように変わったかな?
- 大切な人が喜ぶと、自分もうれしくなることはある?
- 誰かに何かをしてもらったとき、どんなふうに感謝を伝えたい?
- 本当に大切なものとは何だろう?
保育士向け活用ポイント
子ども一人ひとりの成長段階を理解し、その子に必要な環境や関わりを考えることは、日々の保育を振り返る視点にもつながります。
愛着形成や信頼関係について考える教材になります。
子どもは、安心できる大人との関係の中で、自分らしく成長していきます。
保育者は「何かをしてあげる」だけではなく、子どもの存在そのものを受け止め、必要なときにそばにいる姿勢も大切です。
一方で、子どもの主体性を育てるためには、すべてを先回りして与えるのではなく、自分で考えたり挑戦したりする姿を見守り、必要な場面で支えることも重要です。
木と少年の関係を通して、「援助すること」「見守ること」「相手を思うこと」の違いやバランスについて考えるきっかけになります。


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