あらすじ
むかし、ある国の王さまには十二人の美しい娘がいました。
十二人の王女たちは、毎晩同じ部屋で眠ります。夜になると部屋にはしっかり鍵がかけられ、誰も出入りできないはずでした。
ところが朝になると、十二人の靴はどれも踊り続けたかのように、すっかりすり減っているのです。
「娘たちは、夜中にいったいどこへ行っているのだ?」
王さまは、この不思議な出来事の秘密を突き止めようとします。
やがて一人の兵士が王女たちを見張ることになり、夜の城に隠された秘密の扉を発見します。
その先に広がっていたのは、地上からは想像もできない美しい森と、不思議な地下の宮殿でした。
本文
むかしむかし、ある国に一人の王さまがいました。
王さまには、十二人の娘がいました。
十二人の王女たちはとても仲がよく、夜になると大きな一つの部屋で眠っていました。
十二台のベッドが、ずらりと並んでいます。
夜になると王女たちは部屋へ入り、扉にはしっかりと鍵がかけられました。
これなら、夜中に誰かが部屋へ入ることも、王女たちが外へ出ることもできないはずです。
ところが――。
毎朝、不思議なことが起こりました。
王女たちの部屋へ使用人が入ると、十二人の靴がすっかりすり減っているのです。
「またです……。」
靴の底を見ると、まるで一晩中踊り続けていたようにぼろぼろになっています。
新しい靴を用意しても同じでした。
次の日の朝には、またすり減っています。
王さまは首をかしげました。
「いったいどういうことなのだ?」
夜には部屋へ鍵をかけています。
窓から出た様子もありません。
それなのに毎朝、十二足の靴だけがぼろぼろになっているのです。
王さまは娘たちに尋ねました。
「お前たちは、夜中にどこへ行っているのだ?」
けれど王女たちは答えません。
十二人は顔を見合わせるだけでした。
王さまはますます気になりました。
「どうしても秘密を知りたい。」
そこで王さまは国中に知らせを出しました。
「十二人の王女が、夜になるとどこへ行っているのか。その秘密を突き止めた者には褒美を与える。」
多くの者が挑戦しました。
けれど、誰も秘密を突き止めることができません。
夜の城は静まり返り、王女たちの部屋にも変わった様子はありません。
それなのに朝になると――。
やはり靴はぼろぼろになっているのです。
そんなある日。
一人の兵士が城へやってきました。
兵士は王さまの話を聞くと、言いました。
「私に王女さまたちを見張らせてください。」
王さまは兵士を見ました。
「これまでにも多くの者が挑戦したが、誰にも秘密は分からなかったぞ。」
「それでも、やってみます。」
兵士は落ち着いて答えました。
こうして兵士は、十二人の王女たちの秘密を探ることになりました。
その夜。
城の中が静かになりました。
王女たちも、いつものように十二人そろって部屋へ入ります。
扉が閉められました。
兵士は近くでじっと様子をうかがいました。
しん……。
夜が深くなるにつれ、城の中から人の声が消えていきます。
聞こえるのは、ときおり風が窓を揺らす音だけ。
兵士は眠ったふりをしながら、王女たちの部屋の様子を注意深く見張っていました。
しばらくすると――。
かすかな音がしました。
ごそっ。
兵士は目を開けました。
王女たちが起きています。
けれど、大きな声で話す者はいません。
十二人は静かに身支度を始めました。
美しい服に着替え、髪を整え、そして靴を履きます。
「こんな夜中に、どこへ行くつもりだ?」
兵士は息をひそめました。
やがて一番上の王女が、部屋の中のある場所へ近づきました。
兵士はじっと見ています。
すると――。
ぎいっ……。
そこに、今まで見えなかった秘密の扉が現れました。
「こんなところに扉が……。」
兵士は驚きました。
王女たちは慣れた様子で扉を開け、その向こうへ入っていきます。
そこには地下へ続く階段がありました。
こつ。
こつ。
こつ。
王女たちは一人ずつ、階段を降りていきます。
兵士も気づかれないように、そのあとを追いました。
暗い階段は、どこまでも下へ続いています。
城の地下に、これほど深い場所があるとは思えませんでした。
こつ……。
こつ……。
王女たちの足音が、暗闇の中に響きます。
兵士は少し距離を取りながら、慎重についていきました。
やがて階段の先に、淡い光が見えてきました。
「なんだ、あれは……?」
兵士が外へ出ると、思わず立ち止まりました。
そこには、不思議な森が広がっていたのです。
地上の城の地下にあるとは思えないほど、広い森でした。
木々は美しく輝き、枝が風に揺れるたび、きらきらと光っています。
さらさら……。
十二人の王女たちは、その森の中を進んでいきました。
兵士も木々の陰に身を隠しながら、あとを追います。
しばらく進むと、今度は大きな宮殿が見えてきました。
明るい光が窓からあふれています。
宮殿の中からは――。
♪ ♪ ♪
美しい音楽が聞こえてきました。
「こんなところに宮殿まで……。」
王女たちは迷うことなく宮殿へ入っていきました。
兵士もそっと中をのぞきました。
そこには広く美しい大広間がありました。
たくさんの明かりが輝き、音楽が流れています。
そして王女たちを待っていたのは、十二人の若者たちでした。
王女たちは、それぞれ若者と手を取りました。
音楽が始まります。
♪ ♪ ♪
くるり。
くるり。
十二人の王女たちは楽しそうに踊り始めました。
兵士は物陰から、その様子をじっと見つめていました。
「なるほど……。」
これでようやく分かりました。
毎朝、十二人の靴がぼろぼろになっていた理由。
王女たちは毎晩、秘密の階段を降り、この地下の宮殿までやってきて踊っていたのです。
踊りはなかなか終わりません。
くるくる。
くるくる。
王女たちは何度も大広間を回ります。
夜が深くなっても音楽は続きました。
やがて――。
「そろそろ戻りましょう。」
王女たちは踊るのをやめました。
十二足の靴は、すっかりすり減っています。
王女たちは宮殿を出て、再び不思議な森を通りました。
そして秘密の階段を上り、城の部屋へ戻っていきました。
兵士も気づかれないように、そのあとを追いました。
こつ。
こつ。
こつ。
最後の王女が部屋へ戻ると、秘密の扉は静かに閉じられました。
何事もなかったかのように、十二人はベッドへ入ります。
しばらくすると、部屋は静かになりました。
兵士はすべてを見届けました。
そして朝。
王さまの前へ向かいました。
「秘密が分かりました。」
王さまは驚きました。
「本当か?」
「はい。」
兵士は昨夜見たことを、最初から話しました。
王女たちの部屋に隠された秘密の扉。
地下へ続く長い階段。
不思議な森。
その奥に建つ宮殿。
そして、十二人の王女たちが若者たちと夜通し踊っていたこと。
王さまは信じられないような顔をしました。
「城の地下に、そんな場所があるというのか?」
「はい。私は自分の目で確かめました。」
王さまは十二人の娘たちを呼びました。
そして兵士が見たことを話しました。
王女たちは驚き、互いの顔を見合わせました。
これまで誰にも知られなかった秘密が、とうとう明らかになったのです。
王さまは兵士を見ました。
「よく秘密を見つけた。」
兵士は深く頭を下げました。
その夜。
王女たちの部屋は、いつものように静まり返っていました。
けれど、もう秘密の扉の向こうで何が起きているのかを知らない者はいません。
城の地下深く。
あの不思議な宮殿では、今夜もどこからか音楽が聞こえていたのかもしれません。
♪ ♪ ♪
おしまい。
登場人物
十二人の王女
王さまの十二人の娘たち。夜になると部屋に隠された秘密の扉を通り、地下にある不思議な宮殿へ向かいます。そこで若者たちと踊り続けるため、毎朝靴がすり減っています。
兵士
王女たちの秘密を探る人物。夜の城で眠らずに王女たちを観察し、気づかれないようにあとを追って地下の宮殿を発見します。
王さま
十二人の王女の父親。毎朝娘たちの靴がすり減っていることを不思議に思い、その秘密を突き止めようとします。
教訓
分からないことがあるときには、思い込みだけで決めつけず、自分の目でよく確かめることが大切。
小さな変化や違いに気づくためには、落ち着いて観察することが役立つ。
目に見えているものだけが、すべてとは限らないこともある。
親子で話したいポイント
兵士はどうして王女たちの秘密を見つけることができたのかな?
王女たちは、どうして毎晩地下の宮殿へ行っていたのだろう?
「よく見る」ことで、今まで気づかなかったものを発見したことはある?
もし秘密の扉を見つけたら、その向こうにはどんな世界があってほしい?
夜の不思議な宮殿で踊れるなら、どんな音楽や踊りを楽しみたい?
保育士向け活用ポイント
十二人の王女が音楽に合わせて踊る場面から、ダンスやリズム遊び、劇遊びの導入として活用しやすい物語です。
「秘密の扉を開けたらどんな世界がある?」と子どもたちに想像してもらい、絵画や制作、表現遊びへ発展させることもできます。
また、毎朝すり減っている靴から兵士が秘密を探っていく展開を生かし、「何が変わったかな?」「どこが違うかな?」といった間違い探しや観察遊びにつなげることで、細かな変化に気づく力を楽しみながら育てる活動にも活用できます。


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