あらすじ
むかし、ある国の王さまが重い病気になってしまいました。
どんな薬を飲んでも、どんな医者に診てもらっても、王さまはなかなか元気になりません。
そんなとき、「命の水を飲めば、王さまを救うことができるかもしれない」という話を聞いた三人の王子は、その不思議な水を探す旅へ出ることになりました。
二人の兄は、自分が命の水を持ち帰って王さまのあとを継ごうと考えます。
けれど末の王子が願っていたのは、ただ父親を助けることでした。
旅の途中、困っている小さな老人に出会った末の王子は、足を止めて手を差し伸べます。
その親切が、誰も知らなかった「命の水」への道を開くことになります。
本文
むかしむかし、ある国に一人の王さまがいました。
王さまには三人の息子がいました。
ところがある日、王さまは重い病気になってしまいました。
王さまは日に日に弱っていきます。
国中から医者が集められ、さまざまな薬が用意されました。
けれど――。
どんな薬を飲んでも、王さまは元気になりません。
「どうしたら父上を助けられるのだろう。」
三人の王子は心配していました。
そんなある日のこと。
不思議な話が城へ届きました。
「この世のどこかに、『命の水』と呼ばれる水があるそうです。」
「命の水?」
「はい。その水を飲めば、どんな病気でも治るといわれています。」
三人の王子は顔を見合わせました。
本当にそんな水があるのかどうか、誰にも分かりません。
けれど、このまま何もしなければ王さまはますます弱ってしまいます。
「私が探しに行きます。」
一番上の兄が言いました。
すると二番目の兄も言いました。
「いや、私も行こう。」
末の王子も立ち上がりました。
「僕も行きます。父上を助けたいのです。」
こうして三人の王子は、命の水を探す旅へ出ることになりました。
けれど、二人の兄には別の思いもありました。
「もし私が命の水を持ち帰れば、父上はきっと私を一番高く評価するだろう。」
「王さまのあとを継ぐのも、命の水を見つけた者になるかもしれない。」
二人は、命の水を自分のためにも利用しようと考えていました。
一方、末の王子は違いました。
「何としても、父上を助けなくては。」
そのことだけを考えていました。
三人はそれぞれ命の水を探して旅を続けました。
山を越え。
谷を渡り。
森の中を進みます。
けれど、どこへ行けば命の水が見つかるのか、誰にも分かりません。
ある日のこと。
旅を続けていた末の王子は、道の途中で小さな老人を見つけました。
老人は何かに困っている様子です。
王子は足を止めました。
「どうしました?」
老人は王子を見上げました。
「少し困っておりましてな。」
王子は急いでいました。
一日でも早く命の水を見つけなければ、父親の病気がどうなるか分かりません。
それでも、目の前で困っている老人をそのままにしておくことはできませんでした。
「僕にできることがあれば手伝います。」
王子は老人のそばへ行き、手を貸しました。
「これで大丈夫ですか?」
「ええ。助かりました。」
老人はにっこりと笑いました。
その瞬間――。
ふわり。
老人の姿が変わりました。
「えっ?」
王子は驚いて目を見開きました。
そこにいたのは、ただの老人ではありません。
不思議な小人だったのです。
「あなたは……?」
小人は王子を見つめて言いました。
「私は、あなたがどんな人なのか見ていました。」
「僕を?」
「そうです。あなたは急いでいるにもかかわらず、困っている私を見捨てなかった。」
王子は首を振りました。
「困っている人がいたから、手伝っただけです。」
すると小人はうれしそうに笑いました。
「だからこそ、あなたを助けましょう。」
王子は驚きました。
「僕を?」
「あなたは、命の水を探しているのでしょう。」
「どうしてそれを……?」
小人は答えず、静かにある方向を指さしました。
「この先へ進みなさい。」
そこには、深い森へ続く道がありました。
「この道を進めば、命の水がある場所へたどり着くことができます。」
王子の顔が明るくなりました。
「本当ですか?」
「ただし、道は簡単ではありません。よく注意して進むのですよ。」
「分かりました。」
王子は深く頭を下げました。
「ありがとうございます。」
そして、小人に教えられた道を進み始めました。
森の中へ入ると、辺りは少しずつ暗くなっていきました。
ざわざわ……。
風が木々を揺らします。
細い道はどこまでも続いていました。
「この先に、本当に命の水があるのだろうか……。」
不安になることもありました。
けれど王子は、小人の言葉を信じました。
「父上が待っている。」
王子は歩き続けました。
険しい道を越え、さらに奥へ。
どれほど進んだでしょう。
やがて王子は、不思議な場所へたどり着きました。
そこには、澄みきった水が湧いていました。
水面が光を受け、きらきらと輝いています。
王子は息をのみました。
「もしかして……。」
そっと水に近づきます。
これこそ、王子が探し続けていた命の水でした。
「見つけた……!」
王子は大切に水をくみました。
こぼさないように、しっかりと持ちます。
「これで父上を助けられる。」
王子の心に浮かんだのは、褒美のことでも、王さまのあとを継ぐことでもありませんでした。
病気で苦しんでいる父親の顔でした。
王子は急いで城へ戻ることにしました。
来た道をたどり、森を抜けます。
山を越え。
谷を渡り。
長い道のりを進みました。
そしてようやく――。
遠くに懐かしい城が見えてきました。
「帰ってきた!」
王子は城へ急ぎました。
「父上!」
王子は王さまのもとへ向かいました。
王さまは以前よりも弱っていました。
「戻ったのか……。」
「はい。父上、命の水を見つけました。」
「命の水を……?」
王子は持ち帰った水を王さまに差し出しました。
王さまは、その水をゆっくりと飲みました。
すると――。
少しずつ王さまの顔色が変わっていきました。
それまで力なく横になっていた王さまが、ゆっくりと体を起こしました。
「これは……。」
王子は心配そうに見つめます。
「父上?」
王さまの表情に、少しずつ元気が戻ってきました。
「体が……楽になってきた。」
「本当ですか?」
王子の顔がぱっと明るくなりました。
命の水のおかげで、王さまは少しずつ元気を取り戻していきました。
王さまは末の王子の手を取りました。
「ありがとう。」
王子は笑いました。
「父上が元気になってくれれば、それでいいのです。」
王さまは、そんな息子を静かに見つめました。
王子はふと、旅の途中で出会った小人のことを思い出しました。
もしあのとき、急いでいるからと通り過ぎていたら。
もし困っている老人に手を貸さなかったら。
命の水への道を知ることはできなかったかもしれません。
けれど王子は、そんなことを考えて老人を助けたわけではありませんでした。
ただ、困っている人をそのままにしておけなかったのです。
王子は元気を取り戻していく父親のそばで、うれしそうに微笑みました。
おしまい。
登場人物
王さま
重い病気になってしまった三人の王子の父親。どんな薬を飲んでも元気にならず、命の水を必要とします。
末の王子
父親を救うために命の水を探す主人公。旅の途中でも困っている人を見過ごさず、その優しさによって命の水への道を知ることになります。
二人の兄
末の王子の兄たち。父親を助けるだけではなく、命の水を見つけることで自分が王さまのあとを継ぎたいと考えています。
小人
末の王子が旅の途中で出会う不思議な存在。老人の姿で困っていたところを王子に助けてもらい、そのお礼として命の水への道を教えます。
教訓
困っている人に手を差し伸べる優しさが、思いがけない形で自分を助けることがある。
見返りを求めるのではなく、相手を思って行動することが大切。
大切な人を思う気持ちは、困難な道を進む力になる。
親子で話したいポイント
末の王子は急いでいたのに、どうして老人を助けたのかな?
もし王子が老人をそのままにしていたら、どうなっていただろう?
「見返りを求めない親切」って、どんなことだと思う?
困っている人を見つけたら、自分にはどんなことができるかな?
家族が困っているとき、自分にできることは何だろう?
保育士向け活用ポイント
思いやりや助け合いについて考える題材として活用できます。
特に、末の王子が自分も急いでいる中で困っている人に気づく場面から、「困っている友達に気づく」「声をかける」「自分にできることを考える」といった具体的な行動へつなげやすい物語です。
「大丈夫?」「手伝おうか?」「一緒にやろう」など、園生活の中で使える言葉を子どもたちと考えたり、実際の友達との関わりを振り返ったりする活動にも活用できます。


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