あらすじ
森で木を切って暮らしていた若者が、ある日、古い瓶を見つけます。
不思議に思って近づくと、瓶の中から「ここから出してくれ!」という声が聞こえてきました。
かわいそうに思った若者がふたを開けると、中から煙のようなものがあふれ出し、大きな精霊が姿を現します。
ところが、助けてもらったはずの精霊は、突然若者を苦しめようとします。
力ではとてもかなわない相手を前に、若者は慌てずに知恵を働かせ、精霊をもう一度瓶の中へ戻そうとします。
本文
むかしむかし、あるところに、森で木を切って暮らしている若者がいました。
若者は毎日のように森へ入り、木を切って働いていました。
ある日のこと。
朝から仕事を続けていた若者は、少し休もうと森の奥へ歩いていきました。
木々が生い茂り、昼間だというのに辺りは薄暗く感じられます。
さらさら……。
頭の上では、風に揺れた葉が音を立てています。
若者が大きな木のそばを通りかかったときでした。
「……ん?」
何かが光ったような気がしました。
若者は立ち止まり、足元を見回しました。
木の根元に、古びた瓶が落ちています。
土や枯れ葉に半分ほど埋もれ、ずいぶん長いあいだそこにあったようでした。
「こんなところに瓶が……?」
若者はしゃがみ込みました。
瓶を拾おうと手を伸ばした、そのときです。
「ここから出してくれ!」
「うわっ!」
若者は思わず後ろへ飛びのきました。
辺りを見回します。
けれど、誰もいません。
「今の声は……?」
森の中は静かでした。
風が木々の間を通り抜けています。
ざわざわ……。
若者はもう一度、瓶を見ました。
すると――。
「頼む! ここから出してくれ!」
間違いありません。
声は瓶の中から聞こえています。
若者は恐る恐る瓶を持ち上げました。
「誰か、この中にいるのですか?」
「そうだ。ずっと閉じ込められているんだ。早く出してくれ!」
若者は迷いました。
こんな小さな瓶の中に、いったい誰が入っているというのでしょう。
けれど、助けを求める声を聞いて、そのまま置いていくこともできません。
「分かりました。今、開けます。」
若者は瓶のふたに手をかけました。
きゅっ……。
古いふたは固く閉まっています。
若者が力を込めると――。
ぽんっ。
ふたが外れました。
その瞬間。
しゅううううう……。
瓶の中から黒っぽい煙のようなものが立ちのぼりました。
「な、なんだ……?」
煙は止まりません。
次から次へと瓶からあふれ出し、若者の頭よりも高く広がっていきます。
もくもく……。
もくもく……。
若者は瓶を持ったまま、呆然と見上げました。
やがて煙は一つに集まり、大きな人のような形になっていきました。
そこに現れたのは、恐ろしいほど大きな精霊でした。
「お前が、私を出したのか。」
低い声が森の中に響きました。
若者は驚きながらもうなずきます。
「はい。助けてほしいと言っていたので……。」
精霊は若者を見下ろしました。
「そうか。」
そして言いました。
「助けてくれてありがとう。」
その言葉を聞いて、若者は少し安心しました。
「困っていたのなら、出られてよかったですね。」
ところが――。
精霊の顔つきが変わりました。
「だが、私は今からお前を困らせる。」
若者は耳を疑いました。
「え?」
「お前をただで帰すつもりはない。」
「待ってください。私はあなたを助けたのですよ?」
「そんなことは関係ない。」
精霊は大きな体で、じりじりと若者に近づいてきました。
若者は後ずさりしました。
力で戦っても、勝てるはずがありません。
逃げようとしても、すぐに追いつかれてしまうでしょう。
どくん、どくん。
若者の心臓が激しく鳴りました。
けれど、若者は必死に気持ちを落ち着かせました。
「慌てるな……。何か方法があるはずだ。」
そして、手に持った小さな瓶を見ました。
若者はあることを思いつきました。
「ちょっと待ってください。」
「なんだ?」
若者は不思議そうな顔をして、精霊を見上げました。
「どうしても信じられないことがあります。」
精霊は眉をひそめました。
「何がだ?」
「あなたは、さっきまで本当にこの瓶の中にいたのですか?」
「もちろんだ。」
精霊は答えました。
若者は首をかしげました。
「でも、こんなに小さな瓶ですよ?」
そう言って、若者は瓶を持ち上げました。
「あなたはこんなに大きい。どう考えても、この中に入れるとは思えません。」
精霊はむっとしました。
「私を疑っているのか?」
「だって、どうやって入っていたのです?」
「そんなことは簡単だ。」
精霊は自慢げに胸を張りました。
若者はわざと困ったような顔をしました。
「それなら、もう一度やって見せてください。本当にこの瓶に入れるのなら、信じます。」
「よく見ていろ。」
精霊の体が、再び煙のように揺らぎ始めました。
しゅうううう……。
大きな体が少しずつ細くなっていきます。
煙は渦を巻きながら、瓶の口へ吸い込まれていきました。
するする……。
しゅううう……。
やがて最後の煙まで、すっかり瓶の中へ入りました。
瓶の中から声がします。
「どうだ。分かっただろう!」
その瞬間――。
ぱしっ!
若者は素早くふたを閉めました。
そして、ぎゅっと力を込めて閉じました。
「な、何をする!」
瓶の中から精霊の声が響きます。
「出せ!」
若者は瓶をしっかり握ったまま答えました。
「いいえ。もう出しません。」
「出せ! 今すぐここから出せ!」
瓶がかすかに震えます。
がたがた……。
けれど、ふたはしっかり閉まっています。
精霊はもう外へ出ることができません。
若者は大きく息を吐きました。
「危なかった……。」
さっきまで精霊が立っていた場所には、もう誰もいません。
森には再び静けさが戻っていました。
さらさら……。
風に揺れる木の葉の音だけが聞こえています。
若者は瓶を見つめました。
瓶の中からは、まだ小さな声が聞こえてきます。
「出してくれ……。」
けれど若者は、もうふたに手をかけませんでした。
瓶をしっかりと閉じたまま、若者は森をあとにしました。
その後ろでは、木々が風に揺れています。
ざわざわ……。
森の奥深くには、またいつもの静けさが広がっていきました。
おしまい。
登場人物
若者
森で古い瓶を見つけ、中に閉じ込められていた精霊を助ける主人公。危険な状況になっても落ち着いて考え、知恵を使って危機を切り抜けます。
精霊
古い瓶の中に閉じ込められていた不思議な存在。若者に助けられますが、瓶から出ると態度を変え、若者を困らせようとします。
教訓
困ったときや怖いことが起きたときほど、慌てずに考えることが大切。
力ではかなわない相手や難しい問題でも、知恵や工夫によって解決できることがある。
誰かを助ける優しさは大切ですが、危険を感じたときには自分の身を守ることも大切。
親子で話したいポイント
若者はどうして精霊を瓶の中へ戻すことができたのかな?
もし若者が慌てて逃げ出していたら、どうなっていたと思う?
困ったときに落ち着いて考えるためには、どうしたらいいかな?
誰かを助けるときにも、気をつけたほうがよいことはあるかな?
保育士向け活用ポイント
精霊を瓶へ戻す場面を使い、謎解きや知恵比べを楽しむ物語として活用できます。
「怖い」「困った」と感じたときに、すぐに行動するのではなく、一度立ち止まって考えることの大切さについて話し合う活動にもつなげられます。
また、困っている相手を助ける優しさと、自分の安全を守ることの両方について考えるきっかけにもできます。


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