あらすじ
むかし、腕に自信を持つ三人の医者がいました。
三人は旅をしながら、「自分こそ一番すぐれた医者だ」と言い合い、それぞれの技術を競うようになります。
難しいことができると自慢する三人でしたが、競争に夢中になるうちに、医者の仕事で本当に大切なことを見失いそうになります。
技術の高さだけではなく、人の体を預かる責任や、相手を大切にすることについて考えさせられる、少しユーモラスな物語です。
本文
むかしむかし、三人の医者がいました。
三人とも、自分の腕にはたいそう自信を持っていました。
ある日のこと、三人は一緒に旅をすることになりました。
町から町へと歩きながら、三人は医者の仕事について話していました。
ところが、いつの間にか話は自慢話になっていきます。
「私は難しいことだって、見事にやってのけられるぞ。」
一人目の医者が胸を張りました。
すると二人目も負けてはいません。
「それくらいなら私にもできる。私の腕前のほうが上だろう。」
三人目も笑って言いました。
「二人ともたいしたことはないな。私こそ一番の医者だ。」
三人は顔を見合わせました。
「それなら、誰が一番すごい医者なのか比べてみようではないか。」
こうして三人は、自分たちの腕を競うことになりました。
旅の途中で患者に出会うと、三人は張り切りました。
「ここは私に任せなさい。」
「いや、私のほうがうまくできる。」
「見ていろ。私ならもっと難しいことだってできるぞ。」
初めのうちは、三人とも患者を助けようとしていました。
けれど、競争が続くうちに、少しずつ気持ちが変わっていきました。
「誰が一番うまくできるか。」
「誰が一番驚かれることをするか。」
「誰が一番すごい医者だと思われるか。」
いつの間にか、そんなことばかり考えるようになっていたのです。
あるとき、一人の患者を前にして、三人はまた言い争いを始めました。
「私にやらせろ。」
「いや、ここは私だ。」
「二人では無理だ。私ならできる。」
患者は不安そうに三人を見ています。
けれど三人は、自分たちの話に夢中です。
そのとき、一人の医者が患者の顔を見ました。
患者は心配そうな顔をして、じっとこちらを見つめていました。
医者は、はっとしました。
「ちょっと待て。」
ほかの二人が振り返ります。
「どうした?」
医者は言いました。
「私たちは、いったい何を競っているんだ?」
「何って、誰が一番腕のよい医者かだろう。」
「そうだ。だから難しいことができるところを見せるんじゃないか。」
けれど一人の医者は首を横に振りました。
「うまくできることと、安全にできることは同じではない。」
二人は黙りました。
「私たちが失敗したら、困るのは誰だ?」
その言葉に、三人は患者を見ました。
患者はまだ、不安そうな顔をしています。
しん……。
さっきまでにぎやかだった三人の間が、急に静かになりました。
「……患者だ。」
一人が答えました。
「そうだ。私たちは自分の腕を見せるために医者をしているわけではない。」
三人は、これまでの自分たちの姿を思い返しました。
誰が一番すごいか。
誰が一番難しいことができるか。
そんなことばかりに夢中になり、目の前にいる人のことを忘れかけていたのです。
「では、どうする?」
一人が尋ねました。
「三人で考えよう。」
「三人で?」
「そうだ。それぞれ得意なことが違うのだから、一番安全な方法を考えればいい。」
三人は初めて、競争するのをやめました。
一人が患者の様子をよく見ます。
もう一人が、自分の知っていることを話します。
三人目も二人の意見を聞きながら考えました。
「それなら、こうするのがよさそうだ。」
「いや、こちらのほうが安全ではないか?」
「なるほど。では、その方法でやってみよう。」
今度は、誰も「自分が一番だ」とは言いませんでした。
三人で相談しながら、目の前の患者のことを考えました。
やがて仕事を終えると、患者はほっとした顔をしました。
「ありがとうございました。」
その言葉を聞いて、三人の医者は顔を見合わせました。
一人が照れくさそうに言いました。
「どうやら、一番を決める必要はなかったようだな。」
「そうだな。」
「三人とも得意なことが違うのだからな。」
それから三人は、以前のように自分の腕を自慢することが少なくなりました。
難しいことに出会えば、誰か一人が勝手に決めるのではなく、三人で考えます。
「これは君の得意なことだろう。」
「ここは私が手伝おう。」
「では、私はこちらを見よう。」
そうして三人は、お互いの力を認めながら旅を続けていきました。
ある日、道を歩きながら一人が言いました。
「ところで、結局誰が一番腕のよい医者なんだ?」
残りの二人は立ち止まりました。
そして三人は顔を見合わせると、大きな声で笑いました。
おしまい。
登場人物
三人の医者
それぞれ自分の技術に自信を持ち、誰が一番すぐれた医者なのかを競う三人。やがて、技術を競うことよりも患者を大切にすることに気づきます。
患者たち
三人の医者が旅の途中で出会う人々。三人が自分たちの仕事の目的を考え直すきっかけになります。
教訓
どれほど技術があっても、それを使うときには責任が必要。
人を助ける仕事では、自分の評価よりも相手の安全や安心を大切にする。
競争することに夢中になり、本来の目的を見失わないことが大切。
それぞれの得意なことを生かし、力を合わせることで、よりよい方法が見つかることもある。
親子で話したいポイント
上手にできることと、安全にできることは同じかな?
三人の医者は、どうして競争をやめたのだろう?
競争するときには、どんなことに気をつけたらいい?
一人で頑張るより、友達と力を合わせたほうがうまくいったことはある?
人を助ける仕事には、どんな仕事があるかな?
保育士向け活用ポイント
「上手にできること」だけではなく、「安全に行うこと」「相手の気持ちを考えること」の大切さについて考える教材として活用できます。
子ども同士が競争する場面では、勝ち負けだけに目を向けるのではなく、それぞれの得意なことを認めたり、協力したりすることにも価値があると伝えるきっかけになります。
また、医者をはじめとした「人を助ける仕事」について考えるキャリア教育の導入にもつなげられます。


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