あらすじ
むかし、山の中に、いたずら好きのあまんじゃくが住んでいました。
ある夜、あまんじゃくが空を見上げると、そこには数えきれないほどの星が輝いていました。
その美しさに見とれたあまんじゃくは、
「この星を全部、自分のものにしたい。」
と考えます。
そこで山から石を集め、一つ、また一つと積み上げ、空へ向かって高い塔を作り始めました。
けれど、どれほど高く積み上げても星には届きません。
それでも諦められないあまんじゃくは、さらに高く、高く石を積み続けます。
ところが最後には、せっかく積み上げた石の塔まで崩れてしまいました。
地面に転がったあまんじゃくが空を見上げると、星々は何事もなかったように、みんなの頭の上で輝いていました。
本文
むかしむかし、山の中に、あまんじゃくが住んでいました。
あまんじゃくは、いたずらが大好きでした。
誰かが、
「こっちへおいで。」
と言えば、わざと反対へ行きます。
「これは触ってはいけないよ。」
と言われれば、すぐに触りたくなります。
人が大切にしているものを見つければ、
「自分のものにしたい。」
と思うこともありました。
村の人たちは、そんなあまんじゃくにいつも困らされていました。
ある夜のことです。
あまんじゃくは山の上に座り、ぼんやりと空を眺めていました。
その夜は雲一つありませんでした。
しん……。
山の中は静まり返っています。
聞こえてくるのは、時折吹く風の音だけ。
ひゅう……。
あまんじゃくが空を見上げると、そこにはたくさんの星が輝いていました。
一つ。
二つ。
三つ。
とても数えきれません。
小さく光る星。
ひときわ明るく輝く星。
空いっぱいに散らばった星々が、きらきらと瞬いています。
「なんてきれいなんだ。」
あまんじゃくは、しばらく星空に見とれていました。
けれど、眺めているうちに、だんだん別のことを考え始めました。
「あんなにきれいなものが、空にあるなんてもったいない。」
あまんじゃくの目がきらりと光りました。
「そうだ。」
にやりと笑います。
「あの星を全部、自分のものにしよう。」
一つだけではありません。
二つでもありません。
空に輝いている星を、全部です。
「全部取ってしまえば、みんなびっくりするぞ。」
あまんじゃくは立ち上がりました。
けれど、星はずっと高い空にあります。
手を伸ばしてみました。
「よいしょ。」
もちろん届きません。
ぴょんと跳んでみます。
「それっ!」
やっぱり届きません。
あまんじゃくは腕を組みました。
「どうすればいいんだ?」
しばらく考えていると、足元に大きな石があることに気づきました。
あまんじゃくは石を見ました。
そして、空を見ました。
もう一度、石を見ます。
「そうだ!」
あまんじゃくは思いつきました。
「石を積んで高い塔を作ればいいんだ!」
そうすれば、空の星まで手が届くはずです。
あまんじゃくはさっそく山の中から石を集め始めました。
ごろごろ。
大きな石を運びます。
「よいしょ。」
どすん。
まず一つ。
その上に、もう一つ。
「よいしょ。」
どすん。
さらにもう一つ。
一つ。
また一つ。
あまんじゃくは夢中になって石を積み続けました。
やがて石の塔は、あまんじゃくの背よりも高くなりました。
「これならどうだ?」
あまんじゃくは塔の上へ登りました。
そして空へ向かって手を伸ばします。
「もう少し……。」
けれど――。
届きません。
星はまだ、はるか遠くに輝いています。
「おかしいな。」
あまんじゃくは首をかしげました。
「こんなに高くしたのに。」
それでも諦めません。
「だったら、もっと高くすればいい!」
あまんじゃくは再び山を走り回りました。
大きな石。
丸い石。
平たい石。
見つけた石を次々と運びます。
ごろごろ。
どすん。
ごろごろ。
どすん。
石の塔は、どんどん高くなっていきました。
木々よりも高く。
山の上から見ても目立つほど高く。
あまんじゃくは塔のてっぺんまで登りました。
下を見ると、さっきまでいた地面がずいぶん遠くに見えます。
「すごいぞ!」
あまんじゃくは得意になりました。
「今度こそ星に届くだろう。」
空を見上げます。
けれど――。
「まだ遠い……。」
星は、さっきと変わらない場所で輝いていました。
「どうしてだ?」
あまんじゃくは悔しくなりました。
ここまで石を積んだのです。
今さら諦める気にはなれません。
「もっとだ。」
さらに石を積みました。
「もっと高く!」
どすん。
「まだまだ!」
どすん。
塔はますます高くなっていきます。
夜空には薄い雲が流れてきました。
あまんじゃくの塔は、その雲の近くまで伸びているように見えました。
「もう少しだ!」
あまんじゃくは喜びました。
けれど、星はまだ届きそうで届きません。
そこであまんじゃくは、一本のほうきを持ってきました。
「手が届かないなら、これを使えばいい。」
塔の一番上に立ち、長いほうきを空へ向かって伸ばします。
「それっ!」
ぶんっ。
星を払い落とそうとしました。
「こっちへ来い!」
ぶんっ。
「この星も、あの星も、全部おれのものだ!」
何度もほうきを振ります。
けれど――。
星は一つも落ちてきません。
きらきら。
きらきら。
あまんじゃくがどれだけほうきを振っても、星々は遠い空で輝いたままです。
「どうして取れないんだ!」
あまんじゃくは腹を立てました。
「もう少しなのに!」
あまんじゃくは塔の上で足を踏み鳴らしました。
どんっ!
そのときです。
かたっ。
足元の石が、わずかに動きました。
けれど、怒っているあまんじゃくは気づきません。
「もう一度だ!」
ぶんっ!
ぐらっ。
今度は塔全体が少し揺れました。
「ん?」
あまんじゃくは足元を見ました。
積み上げた石の間に、小さな隙間ができています。
「まあ、大丈夫だろう。」
あまんじゃくは気にしませんでした。
「あと一つくらい石を積めば、きっと届く!」
あまんじゃくはさらに上へ石を置こうとしました。
すると――。
ぐらり。
「え?」
塔が大きく傾きました。
がたっ。
ごろっ。
下のほうから石が一つ転がり落ちました。
ごろごろごろ……。
「ま、待て!」
あまんじゃくが慌てて石にしがみつきます。
けれど、もう遅すぎました。
がらがらがらっ!
積み上げていた石が、一気に崩れ始めました。
「うわあああ!」
ごろごろ。
がらがら。
石が山の斜面を転がっていきます。
あまんじゃくも一緒になって、ころころと転がりました。
「いたたたた……!」
やがて石の音が止まりました。
しん……。
辺りには、また山の静けさが戻ってきました。
あまんじゃくは地面に寝転んだまま、しばらく動きませんでした。
「あんなに頑張って積んだのに……。」
石の塔は、すっかり崩れてしまいました。
あまんじゃくは仰向けになりました。
そして、空を見上げました。
そこには――。
きらきら。
きらきら。
さっきと何も変わらない星空が広がっていました。
あまんじゃくが取ろうとしていた星も。
ほうきで落とそうとした星も。
全部、空の上で静かに輝いています。
遠くの村からも。
山の向こうからも。
旅をしている人からも。
きっと同じ星を見ることができるのでしょう。
あまんじゃくは、しばらく黙って星空を眺めました。
「全部、自分のものにしようなんて思わなければよかったかな……。」
ぽつりとつぶやきました。
風が吹きました。
ひゅう……。
崩れた石のそばで、あまんじゃくはもう一度空を見上げました。
誰の手の中にもない星々が、夜空いっぱいに輝いていました。
おしまい。
登場人物
あまんじゃく
山の中に住む、いたずら好きな小鬼。美しい星空を見て、空の星をすべて自分のものにしようと考え、石を積み上げて高い塔を作ります。
星
夜空に輝く存在。あまんじゃくがどれほど高い塔を作っても手に入れることはできず、最後まで空の上で変わらず輝き続けます。
教訓
何でも自分だけのものにしようと欲ばりすぎると、それまで積み上げてきた大切なものまで失ってしまうことがある。
誰か一人が独り占めするより、みんなで楽しむことで価値が生まれるものもある。
欲しいと思ったときにも、本当に自分だけのものにする必要があるのか、一度立ち止まって考えることが大切。
親子で話したいポイント
あまんじゃくは、どうして星を全部自分のものにしたくなったのかな?
石の塔をどんどん高くしても星に届かなかったのは、どんな気持ちだったと思う?
星を一人で見るのと、家族や友達と一緒に見るのでは、どんな違いがあるかな?
みんなで一緒に使ったり、楽しんだりすると楽しいものには何がある?
誰かと何かを分けたとき、どんな気持ちになったことがある?
保育士向け活用ポイント
「共有すること」「順番を守ること」「みんなで楽しむこと」を考える題材として活用できます。
あまんじゃくが星を全部自分のものにしようとする展開から、「園にある玩具を全部一人で使ったらどうなる?」「みんなで使うにはどうしたらいい?」など、子どもたちの日常に置き換えて考えることができます。
また、石を一つずつ積み上げる場面から、積み木を使った高さ比べや協同製作にも発展させられます。友達と力を合わせて一つの高い塔を作ることで、物語とは違った「みんなで作る楽しさ」を体験できます。
星が印象的に登場するため、七夕や星空をテーマにした製作、夜空の観察、星を使った表現遊びなどにもつなげやすいお話です。


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