あらすじ
むかし、遠い国の王子と結婚することになった一人の王女がいました。
王女は侍女とともに旅へ出ますが、その途中で侍女に裏切られ、王女であることを示す服や持ち物を奪われてしまいます。
侍女は王女になりすまし、本物の王女は身分を隠したまま、がちょう番として働くことになりました。
誰にも本当のことを言えない王女でしたが、やがてその様子を不思議に思った王さまによって、少しずつ真実が明らかになっていきます。
本文
むかしむかし、ある国に一人の王女がいました。
王女は美しいお城で大切に育てられ、やがて遠い国の王子と結婚することになりました。
旅立ちの日。
王女は長い旅のための支度を整え、侍女を一人連れてお城を出ました。
「気をつけて行くのですよ。」
家族に見送られながら、王女は遠い国を目指して進んでいきました。
最初のうちは、何事もなく旅が続きました。
道の両側には森や草原が広がり、鳥たちの声が聞こえてきます。
けれど旅が進むにつれて、人の姿はだんだん少なくなっていきました。
ある日のこと。
王女と侍女は、人里から離れた寂しい道を歩いていました。
辺りには誰もいません。
風が吹くたびに、木々の葉がざわざわと揺れていました。
そのときです。
これまで王女に仕えていた侍女の態度が、突然変わりました。
「その服を私に渡してください。」
王女は驚きました。
「何を言っているのです?」
すると侍女は、さらに強い口調で言いました。
「あなたが持っている、王女であることを示すものもすべて渡しなさい。」
「そんなことはできません。」
王女は拒みました。
けれど、周りには助けを求められる人が誰もいません。
侍女は王女を脅し、とうとう王女の美しい服や、身分を示すものを取り上げてしまいました。
そして、自分が王女の服を身につけました。
「これからは、私が王女です。」
「そんな……。」
本物の王女は言葉を失いました。
侍女は王女をにらみつけました。
「本当のことを誰かに話してはいけません。」
王女は怖くなりました。
自分が王女であることを証明するものは、もう何もありません。
こうして二人は、立場を入れ替えたまま旅を続けることになりました。
やがて、遠い国のお城が見えてきました。
高い塔。
大きな門。
そこでは、王子やお城の人々が王女の到着を待っていました。
けれど王女として迎えられたのは、本物の王女ではありません。
王女の服を着た侍女でした。
「ようこそ、おいでくださいました。」
人々は侍女を丁寧に迎えました。
その後ろに立っている本物の王女を見ても、誰も特別な娘だとは思いません。
王女は黙ったまま、うつむいていました。
やがて王女には、お城で働く仕事が与えられました。
それは、がちょうの世話をする仕事でした。
朝になると、王女はがちょうたちを連れてお城を出ます。
「さあ、行きましょう。」
ガア、ガア。
がちょうたちは王女の後ろをついて、草原へ向かいました。
広い草原に着くと、がちょうたちは元気に草をついばみます。
王女はそのそばに座り、遠くのお城を眺めていました。
本当なら、自分はあのお城で王女として迎えられているはずでした。
けれど今は、誰も自分のことを知りません。
王女の服もありません。
身分を示すものもありません。
「どうして、こんなことになってしまったの……。」
王女は悲しくなりました。
それでも、がちょうたちの世話を投げ出すことはありませんでした。
毎朝きちんと草原へ連れていき、夕方になると一羽ずつ確かめながら、お城へ連れて帰りました。
雨の日も。
風の強い日も。
王女は黙々と仕事を続けました。
がちょうたちは、そんな王女によくなつきました。
ガア、ガア。
王女が歩けば、その後ろをぞろぞろとついてきます。
「あなたたちは、私が誰でも気にしないのね。」
王女はそう言って、少しだけ笑いました。
そんな日々が続くうちに、お城の人々の中にも、王女のことを気にする者が現れました。
「あのがちょう番の娘、どこか普通の娘とは違うような気がする。」
「言葉づかいも丁寧だし、立ち居振る舞いも不思議だ。」
その話は、やがて王さまの耳にも入りました。
王さまも、がちょう番として働く娘のことが気になり始めました。
ある日、王さまは王女の様子を注意深く見ることにしました。
王女はいつものように、がちょうたちを連れて草原へ向かいます。
服装は質素でも、その振る舞いにはどこか気品がありました。
がちょうたちを乱暴に追い立てることもありません。
一羽一羽を気にかけながら、静かに歩いていきます。
王さまは不思議に思いました。
「なぜ、あの娘はがちょう番をしているのだろう。」
王さまは王女から少しずつ話を聞くことにしました。
最初、王女はなかなか本当のことを話そうとしませんでした。
侍女に脅されたことが、ずっと心に残っていたのです。
けれど王さまは、王女の話やこれまでの出来事を一つずつ確かめていきました。
そして、少しずつおかしなことが見つかり始めました。
王女として暮らしている侍女の話と、旅の出来事が合わないのです。
「これはどういうことだ……?」
王さまはさらに詳しく調べました。
やがて、隠されていた真実が明らかになりました。
旅の途中で侍女が王女を脅したこと。
王女の服や身分を示すものを奪ったこと。
そして自分が王女になりすましていたこと。
すべてが明らかになったのです。
「では、この娘こそ……。」
王さまは、がちょう番として働いていた娘を見ました。
「本当の王女だったのか。」
王女は静かにうなずきました。
長いあいだ誰にも言えなかった真実を、ようやく伝えることができたのです。
侍女の嘘は明らかになり、王女は本来の身分を取り戻しました。
質素ながちょう番の服を脱ぎ、再び王女として迎えられます。
けれど、どんな服を着ていても、王女自身は何も変わっていませんでした。
がちょう番として働いていたときも、王女に戻ったあとも、誠実に人や動物と向き合う心は同じでした。
王女はもう一度、お城の外に広がる草原を眺めました。
遠くでは、がちょうたちが元気に歩いています。
ガア、ガア。
その声を聞いた王女は、懐かしそうに微笑みました。
おしまい。
登場人物
王女
遠い国の王子と結婚するため旅に出ますが、侍女に裏切られて身分を奪われます。がちょう番になっても、誠実に過ごし続ける主人公。
侍女
旅の途中で王女を脅し、服や身分を示すものを奪って王女になりすます人物。
王さま
がちょう番として働く王女の様子を不思議に思い、少しずつ真実を明らかにしていく人物。
がちょうたち
王女が毎日草原へ連れていき、大切に世話をする動物たち。
教訓
見た目や服装、立場だけで人を判断しないことが大切。
苦しい状況になっても、自分の誠実さや思いやりを失わない。
隠されていた真実も、いつか明らかになることがある。
親子で話したいポイント
王女はつらい状況でも、どうして毎日がちょうの世話を続けられたのかな?
服や立場が変わったら、その人自身も変わるのかな?
王さまは、どうしてがちょう番の少女を不思議に思ったのだろう?
友達を見るとき、見た目以外のどんなところを大切にしたい?
保育士向け活用ポイント
「見た目や立場だけで人を判断しないこと」や「どんな状況でも相手の本当の姿を見ること」を考える題材として活用できます。
服装や役割が変わっても、その人の優しさや誠実さは変わらないことに注目すると、子ども同士の違いや多様性について考える活動にもつなげられます。


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