かもとりごんべえ

日本の昔話

あらすじ

むかしむかし、山あいの村に、ごんべえという男が住んでいました。

ごんべえは、沼にやって来る鴨を捕まえて暮らしていたため、村の人たちから「かもとりごんべえ」と呼ばれていました。

ある寒い朝、ごんべえはたくさんの鴨を一度に捕まえようと、長い縄にいくつものわなを仕掛けます。

ところが、縄につながった鴨たちはいっせいに羽ばたき、ごんべえまで空高く連れ去ってしまいました。

空を飛び、見知らぬ土地へ運ばれたごんべえを待っていたのは、次から次へと起こる思いがけない出来事でした。

欲張ってたくさん捕まえようとしたことから始まる、愉快で不思議な昔話です。

本文

むかしむかし、山に囲まれた小さな村に、ごんべえという男が住んでいました。

ごんべえは毎朝早く起きると、村はずれにある大きな沼へ出かけていきました。

その沼には、秋から冬になるとたくさんの鴨が飛んできたのです。

ごんべえは鴨を捕まえるのがとても上手でした。

そのため村の人たちは、ごんべえのことを、

「かもとりごんべえ」

と呼んでいました。

ある冬の朝のことです。

空にはまだ薄暗い色が残り、草には白い霜が降りていました。

ごんべえはいつものように沼へ向かいました。

吐く息は真っ白です。

「今日は冷えるなあ。」

ごんべえが沼へ着くと、水面にはたくさんの鴨が浮かんでいました。

一羽。

二羽。

三羽。

それどころではありません。

沼いっぱいに、たくさんの鴨が集まっています。

ごんべえは目を輝かせました。

「これはすごいぞ。」

いつもなら一羽か二羽捕まえれば十分です。

けれど、その日は欲が出ました。

「どうせなら、一度にたくさん捕まえてやろう。」

ごんべえは長い縄を取り出しました。

そして縄に、いくつものわなをつけていきました。

一つ。

二つ。

三つ。

まだまだ。

ごんべえは次々と仕掛けを作ります。

「これだけあれば、ずいぶん捕まえられるぞ。」

準備ができると、ごんべえは鴨たちに気づかれないように、そっとわなを仕掛けました。

それから草むらに身を隠します。

しばらく待っていると――。

一羽の鴨が、わなの近くへやって来ました。

続いてもう一羽。

さらにもう一羽。

やがて、たくさんの鴨が縄につながりました。

ごんべえは笑いをこらえます。

「よしよし。」

「これは大漁だ。」

空が少しずつ明るくなってきました。

朝日が山の向こうから顔を出します。

その時です。

一羽の鴨が羽を広げました。

ばさっ。

すると隣の鴨も、

ばさっ。

その隣も、

ばさばさっ。

あっという間に、縄につながった鴨たちがいっせいに羽ばたき始めました。

ばさばさばさばさっ!

「お、おい!」

ごんべえは慌てて縄をつかみました。

「逃がすものか!」

ところが――。

鴨が一羽なら、ごんべえの力でも押さえられたでしょう。

二羽でも、何とかなったかもしれません。

けれど、縄につながっていたのはたくさんの鴨です。

鴨たちが力を合わせて羽ばたくと、縄がぐんっと引っ張られました。

「うわっ!」

ごんべえの体が前へ引かれます。

「待て、待て!」

ごんべえは縄から手を離そうとしました。

けれど慌てた拍子に、縄が腕や体に絡まってしまいました。

そして――。

ふわっ。

「え?」

ごんべえの足が地面から離れました。

「うわあああ!」

たくさんの鴨たちは、そのまま空へ飛び上がっていきました。

ごんべえをぶら下げたままです。

「降ろしてくれー!」

けれど、鴨たちは止まりません。

ばさばさ。

ばさばさ。

どんどん高く飛んでいきます。

村の屋根が小さくなりました。

田んぼも畑も、まるで小さな四角い布のように見えます。

山も越えていきます。

「こんなことになるなんて!」

ごんべえは必死に縄へしがみつきました。

冷たい風がびゅうびゅうと顔に当たります。

やがて、ごんべえの村は見えなくなってしまいました。

どれほど飛んだでしょう。

腕は痛くなり、手もかじかんできました。

「もうだめだ……。」

その時。

鴨たちは、ある町の上までやって来ました。

下を見ると、大きな屋敷や家々が並んでいます。

「よし。」

ごんべえは覚悟を決めました。

「この辺で縄を離すしかない。」

鴨たちが少し低く飛んだ瞬間――。

ごんべえは縄から手を離しました。

「えいっ!」

ひゅうううう……。

ごんべえの体が落ちていきます。

「うわあああ!」

どさっ!

幸い、ごんべえが落ちたのは柔らかな場所でした。

「いたたた……。」

ごんべえはゆっくり体を起こしました。

辺りを見回すと、そこは大きな畑の中でした。

「助かった……。」

けれど、知らない土地です。

ごんべえは空を見上げました。

鴨たちはもう遠くへ飛び去っています。

「欲張ったばかりに、とんでもない目にあったなあ。」

ごんべえはため息をつきました。

さて、どうやって村へ帰ろうか。

そう考えながら歩いていると、大きな木が見えてきました。

ごんべえは少し休もうと、その木のそばへ向かいました。

ところが。

木の近くへ行くと、何やら上の方から声が聞こえてきます。

「おーい!」

「誰かー!」

ごんべえが顔を上げると、木の高いところに一人の男がいました。

「どうしたんだ?」

「降りられなくなったんだ!」

どうやら木へ登ったものの、怖くなって降りられなくなったようです。

ごんべえは言いました。

「今、助けてやる!」

ごんべえは木に登りました。

枝から枝へと慎重に進み、男のところまでたどり着きました。

「ほら、ゆっくり降りれば大丈夫だ。」

ごんべえは男を励ましながら、一緒に下へ降りました。

「ありがとう!」

男は大喜びです。

「命の恩人だ。」

ごんべえは頭をかきました。

「いやいや、大したことじゃないよ。」

ところが、男はどうしてもお礼をしたいと言います。

食事をごちそうになり、しばらく休ませてもらうことになりました。

その晩、ごんべえは事情を話しました。

「鴨をたくさん捕まえようとしたら、逆に空まで連れていかれてしまってね。」

男は目を丸くしました。

「そんなことがあるのか!」

そして大笑いしました。

「はっはっはっ!」

ごんべえもつられて笑いました。

「自分でも笑うしかないよ。」

次の日。

ごんべえは村へ帰る道を教えてもらいました。

けれど、遠い知らない土地まで飛ばされてしまったため、帰り道はとても長いものでした。

山を越え。

川を渡り。

何日も歩き続けました。

途中で道に迷いそうになったり、雨に降られたりもしました。

それでもごんべえは、

「今度から、一度にたくさん捕まえようなんて考えないぞ。」

と言いながら、歩き続けました。

そしてようやく――。

見覚えのある山が見えてきました。

「あっ!」

ごんべえは立ち止まりました。

「帰ってきた!」

村へ着くと、人々が驚きました。

「ごんべえ!」

「どこへ行っていたんだ!」

「何日も帰ってこないから、みんな心配していたぞ!」

ごんべえは村の人たちを集め、鴨に空まで連れていかれた話をしました。

村人たちは最初はぽかんとして聞いていましたが、やがて大笑いしました。

「鴨を捕まえるつもりが、鴨に捕まったようなものじゃないか!」

「まったくだ!」

ごんべえも笑いました。

「欲張ると、ろくなことがないな。」

それからのごんべえは、沼へ鴨を捕りに行っても、一度にたくさん捕まえようとはしなくなりました。

必要な分だけ。

無理をしないように。

寒い朝。

沼の上を鴨の群れが飛んでいくたびに、ごんべえは空を見上げました。

そして、あの日空高く運ばれたことを思い出しては、

「もう空の旅はこりごりだ。」

と笑ったそうです。

おしまい。

登場人物

  • ごんべえ
    鴨を捕まえるのが上手な男。「かもとりごんべえ」と呼ばれています。一度にたくさんの鴨を捕まえようとしたことで、思いがけず空へ連れ去られてしまいます。
  • 鴨たち
    ごんべえが仕掛けた縄につながった鴨の群れ。いっせいに飛び立ち、ごんべえまで空へ運んでしまいます。
  • 木の上の男
    ごんべえが見知らぬ土地で出会った人物。木から降りられなくなっていたところを、ごんべえに助けてもらいます。
  • 村人たち
    帰ってこないごんべえを心配し、戻ってきたごんべえの不思議な体験を聞いて驚きます。

教訓

  • 一度にたくさん手に入れようと欲張ると、思いがけない失敗につながることがある。
  • 困った出来事に巻き込まれても、落ち着いて行動することで道が開けることがある。
  • 自分が困っている時でも、誰かを助ける気持ちを忘れないことが大切。

親子で話したいポイント

  • ごんべえは、どうして一度にたくさんの鴨を捕まえようと思ったのかな?
  • 鴨と一緒に空へ飛んだ時、ごんべえはどんな気持ちだったと思う?
  • ごんべえは、どうすれば鴨に連れていかれずにすんだかな?
  • 知らない土地で木の上の男を助けたごんべえを、どう思う?
  • 「欲張る」というのは、どんなことだと思う?

保育士向け活用ポイント

  • 鴨に引っ張られて空を飛んでしまうという大胆な展開があるため、子どもが想像を膨らませながら楽しめる昔話です。
  • 「たくさんほしい」という気持ちから始まる出来事を通して、欲張ることや必要な分を考えることについて話し合えます。
  • 空から村や山を見る場面を使い、「空を飛べたら何が見えるかな?」と想像遊びや描画活動につなげることもできます。
  • ごんべえが見知らぬ土地でも困っている人を助ける場面から、「自分が大変な時でも人を助けられるか」といった対話に広げることができます。

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