耳なし芳一(みみなしほういち)

日本の昔話

あらすじ

むかしむかし、壇ノ浦の戦いで亡くなった平家の人々を弔う寺に、芳一という盲目の琵琶法師がいました。

芳一は琵琶を弾きながら物語を語る、とても優れた語り手でした。

ある夜、芳一のもとに一人の武士が現れ、琵琶の演奏を頼みます。

芳一は武士についていき、夜ごとに琵琶を弾くようになります。

しかし、芳一の演奏を聞いていたのは、この世の人々ではありませんでした。


本文

むかしむかし、下関にある寺に、芳一という琵琶法師が住んでいました。

芳一は目が見えませんでしたが、琵琶を弾くことがとても上手でした。

なかでも、壇ノ浦の戦いを語る「平家物語」の演奏は見事なものでした。

聞いている人が、まるでその場にいるように感じるほどでした。

ある夜のことです。

芳一が寺で一人でいると、誰かが声をかけました。

「芳一殿、いらっしゃいますか。」

「はい、ここにおります。」

芳一が答えると、武士らしき男が言いました。

「あなたの琵琶を聞きたいという方がおられます。」

「どうか、一緒に来てください。」

芳一は武士に案内され、夜の道を歩いていきました。

やがて、たくさんの人が集まっている場所へ着きました。

「平家物語を聞かせてください。」

芳一は琵琶を手に取り、壇ノ浦の戦いを語り始めました。

ベン、ベン……。

琵琶の音が響きます。

芳一が戦いの様子を語ると、あちらこちらからすすり泣く声が聞こえてきました。

演奏が終わると、

「素晴らしい……。」

という声が聞こえました。

芳一は寺へ戻りました。

ところが次の夜も、武士が迎えに来ました。

その次の夜も同じでした。

毎晩のように出かけていく芳一を、お坊さんたちは不思議に思いました。

「芳一は夜になると、どこへ行っているのだろう。」

そこで、芳一のあとを追ってみることにしました。

すると芳一は、お墓の前に座って琵琶を弾いていました。

そこは、壇ノ浦の戦いで亡くなった平家の人々を弔う場所でした。

芳一の周りには誰もいません。

それでも芳一は、大勢の人を前にしているかのように琵琶を弾いていました。

お坊さんたちは気づきました。

芳一を呼び出していたのは、平家の霊だったのです。

「このままでは芳一が連れていかれてしまう。」

お坊さんたちは芳一を守るため、体中にお経を書くことにしました。

「今夜は誰に呼ばれても、声を出してはいけないよ。」

芳一はうなずきました。

お坊さんたちは芳一の頭から足まで、すき間なくお経を書いていきました。

ところが、一か所だけ書き忘れてしまいました。

それは――

耳でした。

その夜。

いつものように武士がやって来ました。

「芳一殿。」

芳一は何も答えません。

「芳一殿、どこにおられる。」

お経の力で、武士には芳一の姿が見えませんでした。

しかし――

耳だけが見えています。

「おかしい。芳一殿の姿はないのに、耳だけがある。」

芳一は怖くても、じっと黙っていました。

武士はしばらく考えると、芳一の耳をつかみました。

そして、その耳を持って闇の中へ消えていきました。

それでも芳一は声を出しませんでした。

朝になり、お坊さんたちが芳一のところへやって来ました。

そして、ようやく耳にお経を書き忘れていたことに気づきました。

幸い、芳一は命を落とさずにすみました。

この出来事が広まると、芳一は「耳なし芳一」と呼ばれるようになりました。

その後も芳一は琵琶を弾き続け、その見事な演奏は多くの人々に知られるようになったということです。

おしまい。


登場人物

芳一

目の見えない琵琶法師です。

琵琶の名手で、特に平家物語を語ることを得意としています。

お坊さんたち

芳一が夜ごとに出かけていることを不思議に思い、芳一を守ろうとします。

平家の霊

壇ノ浦の戦いで亡くなった平家の人々の霊です。

芳一の琵琶を聞くため、夜ごとに芳一を呼び出します。


教訓

  • 不思議な出来事には、思いがけない理由が隠れていることがある。
  • 困った時には、周りの人の助けが力になる。
  • 昔から語り継がれてきた怪談には、その土地の歴史や文化が残されている。

親子で話したいポイント

  • 芳一は、誰の前で琵琶を弾いていたのかな?
  • お坊さんたちは、どうやって芳一を守ろうとした?
  • どうして耳だけが霊に見えてしまったのかな?
  • 自分だったら、夜に武士が迎えに来たらどうする?

保育士向け活用ポイント

少し怖いお話を楽しめる年長児から小学生くらいに向いている日本の怪談です。

琵琶の音や夜のお寺、姿の見えない平家の霊など、想像しながら楽しめる場面が多くあります。

壇ノ浦の戦いや琵琶、平家物語など、日本の歴史や昔の文化に興味を広げるきっかけにもできます。

怖い話が苦手な子もいるため、読み聞かせに使う場合は子どもの年齢や様子に合わせて楽しむとよいでしょう。

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