あらすじ
むかしむかし、山のふもとの小さな家に、仲良く暮らす犬と猫がいました。
力持ちでまっすぐな犬と、体は小さいけれど知恵のある猫。
性格は違っていましたが、二匹はいつも助け合って暮らしていました。
ある日、山道で不思議な「うろこ玉」を拾った二匹は、年老いた亀から、その玉が持ち主に幸せをもたらすものだと聞きます。
ところが、うろこ玉のことを知ったきつねが、こっそり玉を盗んでしまいました。
大切なものを取り戻すため、犬と猫は力と知恵を合わせてきつねを追いかけます。
果たして二匹は、無事にうろこ玉を取り戻すことができるのでしょうか。
本文
むかしむかし、山のふもとに小さな家がありました。
その家には、一匹の犬と一匹の猫が暮らしていました。
犬は体が大きく、力持ち。
重いものでも、
「よいしょ!」
と、ひょいと運んでしまいます。
走るのも大好きで、いつも元気いっぱいでした。
一方の猫は、犬ほど力はありません。
けれど、よく周りを見ていて、何か困ったことが起きるとすぐに考えをめぐらせる、とても賢い猫でした。
二匹の性格はまるで違っていました。
それでも、とても仲良しでした。
犬が重い荷物を運ぶときには、猫が先を歩いて安全な道を探しました。
猫が高いところから下りられなくなると、犬が下で待っていて助けました。
「ぼく一匹だったら、迷っていたかもしれないな」
と犬が言えば、
猫は笑って、
「私一匹だったら、こんな重いものは運べないよ」
と答えました。
二匹はいつも、
「一匹ではできないことも、二匹ならできるね」
と言いながら暮らしていました。
ある日のことです。
犬と猫は、山へ木の実を探しに出かけました。
山道には木漏れ日が差し込み、鳥たちの声が聞こえています。
犬が鼻をくんくんさせながら歩いていると、
「ん?」
道のわきで、何かがきらりと光りました。
「猫、ちょっと来て!」
犬が呼びます。
猫が近づいてみると、落ち葉の間に丸い玉が落ちていました。
犬が前足でそっと転がします。
ころん。
玉の表面には、魚のうろこのような細かな模様がありました。
青や緑、銀色の光が重なり合い、見る角度によって色が変わります。
太陽の光が当たると、
きらり。
まるで水の中で光っているように輝きました。
「きれいだなあ」
犬が目を丸くしました。
猫は玉の周りをゆっくり歩きながら、じっと観察しました。
「でも、ただの玉ではなさそうだよ」
「どうして?」
「こんなもの、今まで見たことがないもの」
二匹が不思議そうに見つめていると、後ろからゆっくりとした声が聞こえてきました。
「おやおや……」
振り返ると、一匹の年老いた亀が歩いてきました。
亀は玉を見るなり、目を細めました。
「それは、うろこ玉ではないか」
「うろこ玉?」
犬と猫が同時に聞き返しました。
亀はゆっくりとうなずきました。
「そうじゃ。昔から山に伝わる、不思議な玉じゃよ」
猫が尋ねました。
「どんな玉なの?」
「持ち主に幸せをもたらすと言われておる」
「幸せを?」
犬は驚いて玉を見ました。
亀は続けます。
「じゃが、珍しいからといって粗末に扱ってはいかん。大切にすることじゃ」
犬と猫は顔を見合わせました。
「じゃあ、ぼくたちで守ろう」
「そうしよう」
二匹はうろこ玉を大切に抱え、家へ持ち帰りました。
家に着くと、柔らかな布で包み、小さな木箱の中へしまいました。
「これなら大丈夫だね」
犬が言いました。
猫もうなずきました。
ところが――。
珍しいものの話というのは、いつの間にか広がっていくものです。
山の鳥が聞き、
「犬と猫が、光る玉を拾ったらしいよ」
と話しました。
それを聞いたたぬきが、
「持っているだけで幸せになる玉なんだって」
と話しました。
さらにその話を聞いた動物が、また別の動物へ伝えました。
いつしか山のあちこちで、
「うろこ玉という宝があるらしい」
という話がささやかれるようになりました。
その話を耳にしたのが、一匹のきつねでした。
「持っているだけで幸せになれる玉……?」
きつねの目が、きらりと光りました。
「それなら、ぜひ欲しいものだ」
ある夜のことです。
空には細い月が浮かんでいました。
犬と猫が家でくつろいでいると、
とん、とん。
戸をたたく音がしました。
「こんな時間に誰だろう?」
犬が戸を開けると、そこにきつねが立っていました。
「こんばんは」
きつねはにこにこと笑っています。
「こんばんは」
犬が答えました。
きつねは何でもないことのように言いました。
「二匹が、とてもきれいな玉を見つけたと聞いたんだ」
猫の耳がぴくりと動きました。
「うろこ玉のこと?」
「そうそう。それだよ」
きつねはにっこり笑いました。
「一度だけ、見せてもらえないかな?」
犬は猫を見ました。
猫は少し考えました。
「見るだけならいいよ」
そして、きつねを家の中へ招きました。
猫は木箱を持ってくると、ふたを開けました。
布の中から、うろこ玉が姿を現します。
月明かりを受けた玉は、青白く美しく輝きました。
「ほう……」
きつねは目を離せなくなりました。
「これは、すごい……」
猫はそんなきつねの様子を見て言いました。
「見るだけだよ。触らないでね」
「もちろん、もちろん」
きつねは笑いました。
けれど、その目はずっと玉を追っています。
そのとき、外で、
ガタン!
という音がしました。
「何だ?」
犬が振り返りました。
猫も一瞬、戸のほうへ目を向けます。
その隙でした。
きつねはさっと前足を伸ばすと、うろこ玉をくわえました。
「あっ!」
猫が叫びます。
きつねはそのまま家の外へ飛び出しました。
「待て!」
犬もすぐに追いかけました。
けれど、きつねは素早く森の中へ走り去ってしまいました。
暗い森に、きつねの姿が消えていきます。
「しまった……」
犬は悔しそうに地面を見つめました。
「ぼくがもっとちゃんと見ていれば……」
猫は犬のそばへ来ました。
「犬のせいじゃないよ」
「でも、大切な玉を取られてしまった」
犬はしょんぼりしています。
猫は森を見ました。
そして地面に鼻を近づけます。
「まだ諦めるのは早いよ」
「え?」
「きつねが走っていった跡が残っている」
月明かりの下には、小さな足跡が続いていました。
「追いかけよう」
犬は顔を上げました。
「うん!」
二匹はすぐに森へ入りました。
森の中は、昼間とはまるで違っていました。
木々の間から細い月の光が差し込んでいます。
ザワザワ……。
風が吹くと、枝や葉が揺れました。
けれど猫は足跡を見失いません。
「こっちだよ」
犬も鼻を使って、きつねの匂いを追いました。
「確かに、この先だ」
二匹は力を合わせて進んでいきました。
しばらくすると、猫が急に足を止めました。
「しっ」
犬も立ち止まります。
大きな木の向こうから、誰かの声が聞こえてきました。
「ふふふ……」
二匹がそっとのぞいてみると、木の根元にきつねが座っていました。
前足には、うろこ玉があります。
きつねは玉を眺めながら、嬉しそうにつぶやいていました。
「これで私は幸せになれるぞ」
犬は飛び出そうとしました。
けれど猫が、そっと前足で止めます。
「待って」
「でも、玉が」
「今飛び出したら、また逃げられるよ」
犬は足を止めました。
確かにきつねは素早く、森の道にも慣れています。
猫は少し考えました。
そして犬の耳元で、小さな声で言いました。
「私がきつねの気を引くよ」
「その間に?」
「犬が玉を取り戻して」
犬はうなずきました。
「分かった」
猫は何食わぬ顔をして木の陰から出ました。
「きつねさん」
「な、何だ!」
きつねは慌ててうろこ玉を抱え込みました。
猫は落ち着いた声で言います。
「そんなに慌てなくてもいいよ」
「玉を取り返しに来たんだろう?」
「それより、少し気になっていることがあってね」
「気になること?」
猫はうろこ玉を見ながら首をかしげました。
「その玉、本当に幸せをくれるのかな?」
きつねは胸を張りました。
「もちろんだ。あの亀だって、そう言ったんだろう?」
「そうなんだけど……」
猫はわざと考え込むような顔をしました。
「何だ?」
「うろこ玉は、持つ者を選ぶって聞いたことがあるんだ」
「持つ者を選ぶ?」
きつねの顔が少し不安そうになります。
猫は続けました。
「本当に玉に選ばれた者が持つと、今よりもっと強く輝くらしいよ」
「本当か?」
きつねは慌ててうろこ玉を目の前へ持ち上げました。
「どうだ? 光っているか?」
きつねは玉ばかり見ています。
そのとき――。
「今だ!」
犬が木の陰から飛び出しました。
「わっ!」
驚いたきつねの前足から、うろこ玉が転がり落ちました。
犬はすぐに玉をくわえます。
「取り戻した!」
「しまった!」
きつねは悔しそうに犬と猫を見ました。
けれど犬は、きつねへ飛びかかりませんでした。
うろこ玉を猫へ渡すと、静かに尋ねました。
「どうして盗んだんだい?」
きつねは黙っています。
「見せてほしいと言われたから、ぼくたちは見せたんだよ」
猫もじっときつねを見ました。
しばらくすると、きつねはうつむきました。
「……幸せになりたかったんだ」
「幸せに?」
「その玉を持っていれば、何もしなくても幸せになれると思った」
犬と猫は顔を見合わせました。
猫は言いました。
「でも、誰かの大切なものを奪って手に入れた幸せで、本当にうれしいかな?」
きつねは答えませんでした。
猫の言葉を聞きながら、うつむいています。
やがて、小さな声で言いました。
「……ごめんなさい」
犬はきつねを見ました。
「もう、人のものを取ったりしない?」
「しないよ」
きつねは素直に謝りました。
犬と猫は、うろこ玉を持って家へ帰りました。
その夜、二匹はもう一度、玉を木箱の中へしまいました。
きらり。
ふたを閉める直前、うろこ玉が小さく光りました。
「取り戻せてよかったね」
犬が言いました。
猫もうなずきます。
「犬がいたから取り戻せたんだよ」
「でも、猫の作戦がなかったら無理だったよ」
二匹は顔を見合わせて笑いました。
それからも、うろこ玉は二匹の家で大切に守られました。
けれど犬と猫が本当に大切にしていたのは、不思議な玉ではありませんでした。
犬が困ったときには猫が考え、猫だけではできないことがあれば犬が力を貸す。
そんなふうに、二匹はこれからも助け合いながら、仲良く暮らしていったということです。
おしまい。
登場人物
- 犬
力持ちで正直な性格。少し慌てることもありますが、友だちを大切にし、必要なときには勇気を出して行動します。 - 猫
体は小さいものの、周囲をよく見て冷静に考える賢い動物。きつねからうろこ玉を取り戻すため、知恵を使って作戦を考えます。 - きつね
幸せをもたらすといううろこ玉が欲しくなり、犬と猫から盗んでしまいます。二匹に問いかけられ、自分の行動を振り返ります。 - 亀
うろこ玉について犬と猫に教える、物知りな年老いた亀です。
教訓
- 本当に大切なものは、珍しい物や宝物だけではなく、困ったときに助け合える仲間との信頼にもあります。
- どれほど欲しいものでも、人から奪って手に入れてよいものではありません。
- それぞれの得意なことを生かし、力と知恵を合わせることで、一人では難しいことも乗り越えられます。
親子で話したいポイント
- 犬と猫は、どうして仲良く助け合うことができたのかな?
- きつねは、どうしてうろこ玉を盗んでしまったのだろう?
- 欲しいものを友だちが持っていたら、どうしたらいいかな?
- 犬と猫、それぞれの得意なことは何だった?
- 自分と友だちで、得意なことが違うと感じたことはあるかな?
保育士向け活用ポイント
- 「友だちとの協力」「相手のものを大切にすること」「それぞれの得意なこと」を考える読み聞かせ教材として活用できます。
- 犬は力、猫は知恵という分かりやすい役割があるため、子どもたち自身の得意なことについて話し合う活動にもつなげられます。
- 「きつねはどうすればよかったのか」を考えることで、友だちのものが欲しくなったときの伝え方や貸し借りについて考えるきっかけになります。
- 登場人物がはっきりしており、うろこ玉を取り戻す場面にも動きがあるため、役割遊びや劇遊びにも展開しやすい作品です。
- 友だちとの関係が深まる年中〜年長児の時期に、「一緒に考える」「助けを求める」「得意なことを生かす」といったテーマで活用できます。


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