裸の王様|世界の名作・昔話

世界の名作・昔話

あらすじ

むかしむかし、ある国に、おしゃれが大好きな王様がいました。

王様は新しい服を着ることが何よりも好きで、毎日のように立派な服を選んでは楽しんでいました。

そんなある日、お城に二人の仕立て屋がやって来ます。

二人は、「賢い人にしか見えない特別な布で、素晴らしい服を作ることができる」と言いました。

王様はその不思議な服に興味を持ち、たくさんのお金や布を渡して服を作らせることにします。

ところが、仕立て屋たちは何もない織り機の前で、服を作っているふりをしているだけでした。

王様も家来たちも、本当は何も見えていません。

それでも「自分だけ見えないと思われたくない」と考え、誰も本当のことを言うことができませんでした。

やがて王様は、何も身につけていないまま町を歩くことになります。

そんな中、一人の小さな子どもが素直な声で本当のことを口にします。

「正直に話す勇気」「周りに流されず、自分の目で見て考えること」の大切さを伝える世界の名作です。


本文

むかしむかし、ある国に、一人の王様がいました。

王様は、とにかくおしゃれが大好きでした。

立派な服。

きらきら輝く飾り。

美しい色の上着。

王様は毎日のように新しい服を着ることを、何よりも楽しみにしていました。

朝になると、家来たちに尋ねます。

「今日はどの服を着ようか?」

「こちらはいかがでしょう。」

「いや、昨日と似ているな。」

「もっと新しくて、もっと立派な服が着たい。」

王様の部屋には、数えきれないほどの服が並んでいました。

それでも王様は満足しません。

「誰も見たことのないような、素晴らしい服が欲しいものだ。」

そんなある日のことです。

お城に二人の仕立て屋がやって来ました。

二人は王様の前で深々と頭を下げました。

「王様。」

「私たちは、世にも珍しい特別な布を織ることができます。」

王様は目を輝かせました。

「特別な布?」

「どんな布なのだ?」

仕立て屋の一人が答えました。

「それは、とても美しい布でございます。」

もう一人も続けます。

「しかも、この布には不思議な力がございます。」

「ほう。」

王様は身を乗り出しました。

「どんな力だ?」

二人の仕立て屋は顔を見合わせると、にっこり笑いました。

「この布は、賢い人にしか見ることができないのでございます。」

「賢い人にしか見えない?」

王様は驚きました。

「はい。」

「賢くない者には、まったく見えない特別な布なのです。」

王様はすっかり興味を持ちました。

「それは素晴らしい!」

「そんな服を着れば、誰が賢くて、誰がそうでないのかも分かるではないか。」

「ぜひ、その布で私の服を作ってくれ。」

王様は二人に、たくさんのお金と高価な布を渡しました。

二人の仕立て屋は大喜びです。

「お任せください。」

「王様にふさわしい、世界で一番素晴らしい服をお作りいたします。」

さっそく二人は、お城の一室に大きな織り機を用意しました。

カタン、カタン。

カタン、カタン。

二人は朝から晩まで働いているように見えました。

けれど――。

織り機には、何もありません。

糸も。

布も。

何一つありません。

二人は何もない織り機に手を伸ばし、

「この色は素晴らしい。」

「こちらの模様も見事だ。」

などと言いながら、布を織っているふりをしていただけなのです。

しばらくすると、王様は服がどこまでできたのか気になってきました。

「そろそろ様子を見たいものだ。」

けれど、王様はふと考えました。

「待てよ。」

「もし私に布が見えなかったら、どうなる?」

賢い人にしか見えない布です。

もし見えなければ、自分が賢くないということになってしまいます。

王様は少し不安になりました。

そこで、一人の家来を呼びました。

「仕立て屋たちのところへ行って、服がどこまでできているか見てきてくれ。」

「かしこまりました。」

家来はさっそく仕立て屋たちの部屋へ向かいました。

部屋の中から、

カタン、カタン。

と織り機を動かす音が聞こえます。

家来が中へ入ると、仕立て屋たちは楽しそうに言いました。

「ちょうどよいところへいらっしゃいました。」

「ご覧ください。」

「なんと美しい布でしょう!」

家来は織り機を見ました。

「……。」

何もありません。

家来は目をぱちぱちさせました。

もう一度、よく見ます。

右から見ても。

左から見ても。

やっぱり何もありません。

家来の背中に、じわりと汗が浮かびました。

「どうされました?」

仕立て屋が尋ねます。

「この美しい色が見えませんか?」

「こちらの素晴らしい模様も。」

家来は慌てました。

「見えない……。」

「まったく何も見えない。」

けれど、その言葉を口にすることができません。

「もし『見えません』と言ったら、私は賢くないと思われてしまう。」

「王様にも、役に立たない家来だと思われるかもしれない。」

家来はしばらく黙っていました。

そして――。

「す、素晴らしい!」

大きな声で言いました。

「なんて美しい布でしょう!」

仕立て屋たちはにっこり笑いました。

「そうでしょう。」

「王様にも、きっとお気に召していただけます。」

家来はお城へ戻りました。

王様がすぐに尋ねます。

「どうだった?」

家来は答えました。

「それはもう、見事な布でございました。」

「今まで見たこともないほど美しい色と模様です。」

王様は安心しました。

「そうか!」

「それは楽しみだ。」

しばらくして、王様はとうとう自分でも見てみたくなりました。

「よし。」

「今度は私が見に行こう。」

王様は家来たちを連れて、仕立て屋の部屋へ向かいました。

「王様、お待ちしておりました。」

仕立て屋たちは王様を迎えました。

「ご覧ください。」

「王様のための服が、もうすぐ完成いたします。」

王様は織り機を見ました。

そして――。

何も言えなくなりました。

何も見えないのです。

「これは……。」

王様は何度も目をこすりました。

けれど、やはり何もありません。

「どういうことだ?」

王様の胸がどきどきしてきました。

「私には何も見えない。」

「まさか、私は賢くないのか?」

王様は周りを見ました。

家来たちは、口々に言っています。

「なんて美しいのでしょう。」

「王様によくお似合いになるでしょうな。」

王様はますます不安になりました。

「みんなには見えているのか?」

「見えないのは私だけなのか?」

王様は本当のことを言うことができませんでした。

そして、にっこり笑って言いました。

「うむ。」

「本当に素晴らしい服だ。」

「これほど美しい服は見たことがない。」

二人の仕立て屋は深々と頭を下げました。

「ありがとうございます。」

やがて、服が完成したという日がやってきました。

その日は、王様が町の人々の前を歩く日でもありました。

仕立て屋たちは何も持っていない手を広げました。

「王様。」

「こちらが完成した服でございます。」

「とても軽く、まるで何も着ていないように感じられるでしょう。」

王様は何も見えません。

けれど、今さら「服がない」とは言えませんでした。

「う、うむ。」

「たしかに、とても軽そうだ。」

仕立て屋たちは、王様が着ている服を脱がせました。

そして、何もない空中から服を取るふりをします。

「まずはこちらを。」

「次に、この上着を。」

「最後にこちらを整えて……。」

二人は王様に服を着せているふりをしました。

「完成でございます!」

家来たちは王様を見ました。

もちろん、何も着ていません。

けれど誰も本当のことを言えません。

「まあ!」

「なんてお似合いなのでしょう!」

「さすが王様です!」

王様は鏡の前に立ちました。

そこには、服を着ていない自分の姿が映っています。

けれど王様は胸を張りました。

「うむ。」

「よく似合っている。」

こうして王様は、その「特別な服」を着たつもりで町へ出ることになりました。

王様が通る道には、大勢の人が集まっていました。

「王様だ!」

「新しい服を着ているらしいぞ。」

人々は王様の姿を見ました。

そして、みんな驚きました。

「えっ……?」

「服なんて……。」

何も見えません。

けれど、「賢い人にしか見えない服」だと聞いています。

一人の男が思いました。

「私には何も見えない。」

「でも、そんなことを言ったら、賢くないと思われるかもしれない。」

隣にいた人も同じことを考えていました。

そして誰かが言いました。

「き、きれいな服ですね!」

すると、別の人も続きました。

「本当に!」

「なんて立派な服でしょう!」

「王様によくお似合いです!」

次々に声が上がります。

「素晴らしい!」

「美しい!」

王様は胸を張って歩きました。

けれど、心の中では不安でいっぱいでした。

「やはり、みんなには見えているのだろうか……。」

そのときです。

人混みの中から、小さな声が聞こえました。

「あれ?」

一人の子どもが、王様を不思議そうに見ています。

子どもは首をかしげました。

そして、大きな声で言いました。

「王様、お洋服を着てないよ!」

その瞬間――。

町中がしんと静まり返りました。

王様も。

家来たちも。

町の人たちも。

誰も何も言いません。

子どもは不思議そうに、もう一度王様を見ました。

「だって、本当に何も着てないよ。」

しばらくすると、人混みの中から小さな声が聞こえました。

「……たしかに。」

別の人も言いました。

「本当だ。」

「私にも服なんて見えない。」

「私もだ。」

「私も見えない!」

ざわざわ。

ざわざわ。

それまで黙っていた人たちが、次々と本当のことを口にし始めました。

「王様は何も着ていない!」

王様の顔が真っ赤になりました。

恥ずかしくてたまりません。

王様は、これまでのことを思い返しました。

自分にも最初から服は見えていませんでした。

家来たちも。

町の人たちも。

みんな本当は同じだったのです。

ただ、「見えない」と言うことが怖くて、誰も本当のことを口にできませんでした。

王様は、小さな子どもを見ました。

子どもはただ、自分の目に見えたことを素直に話しただけでした。

王様は静かに言いました。

「そうか……。」

「私は、人の目ばかり気にしていたのだな。」

そして、子どもの前まで行くと、少し恥ずかしそうに笑いました。

「教えてくれてありがとう。」

子どもはきょとんとしながら、王様を見上げました。

それから王様は、おしゃれだけを気にするのではなく、人の話にも耳を傾けるようになりました。

家来たちも、王様の顔色ばかりを見るのではなく、自分の考えを少しずつ話すようになりました。

町の人たちも、「みんなが言っているから」というだけでなく、自分の目で見て、自分で考えることを大切にするようになりました。

そして王様も、ときどきあの日のことを思い出しては、小さな子どもの素直な一言を忘れないようにしたのでした。

おしまい。


登場人物

王様

おしゃれが大好きで、新しい服を着ることを何より楽しみにしている王様です。「賢い人にしか見えない服」が自分には見えないことを恥ずかしく思い、本当のことを言えませんでしたが、子どもの素直な言葉をきっかけに自分の行動を振り返ります。

二人の仕立て屋

「賢い人にしか見えない特別な服を作ることができる」とうそをつき、何もない織り機で服を作っているふりをする二人です。

家来たち

本当は何も見えていませんが、「賢くないと思われたくない」という気持ちから、素晴らしい服が見えているふりをしてしまいます。

子ども

王様の姿を見て、「王様、お洋服を着てないよ!」と素直に口にします。その一言をきっかけに、町の人たちも自分が本当に見えているものを話し始めます。


教訓

  • 周りと違っていても、自分が見たことや感じたことを正直に伝える勇気は大切。
  • 「みんながそう言っているから」と合わせるだけではなく、自分の目で見て考えることが大切。
  • 本当のことを言うのが難しい場面でも、一人の素直な言葉が周りを動かすことがある。
  • 人からどう思われるかを気にしすぎると、自分自身が本当に感じていることを見失ってしまうことがある。

親子で話したいポイント

  • 王様や家来たちは、どうして「服が見えない」と言えなかったのかな?
  • 子どもは、どうして「王様、お洋服を着てないよ!」と言えたのかな?
  • 町の人たちは、子どもの言葉を聞いてどうして本当のことを話し始めたのかな?
  • 周りのみんなと自分の考えが違ったことはある?
  • 本当のことを伝えるときには、どんなことを大切にするといいと思う?

保育士向け活用ポイント

保育者自身にとっても、職員間で周囲の意見に合わせるだけになっていないか、自分が感じた違和感や考えを安心して伝えられる環境になっているかを振り返る題材として活用できます。

「自分の考えを持つこと」「自分の感じたことを言葉にすること」をテーマにした読み聞かせとして活用できます。

王様や家来、町の人たちが周囲に合わせてしまう姿から、「みんなが言っているから」という理由だけで行動することについて子どもたちと考えることができます。

「自分だったら王様に何と言う?」「服が見えなかったらどうする?」などの問いかけから、クラス会議やサークルタイムでの対話活動へ発展させることができます。

子どもが周囲と違う意見を言ったとき、その発言を否定せず、「どうしてそう思ったの?」と受け止めることの大切さについて、保育者が振り返る教材としても活用できます。

「正直に言うこと」と「相手を傷つける言い方をすること」は同じではないため、年齢に応じて「本当のことをどんなふうに伝えるといいか」を考える活動にもつなげられます。

子どもの素直な気づきが大人たちの思い込みを変える展開から、子どもの発言を大人が一方的に評価するのではなく、一つの意見として丁寧に聞くことの大切さを考えるきっかけになります。

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