ジャングル・ブック|世界の名作・昔話(イギリス文学)

世界の名作・昔話

あらすじ

むかし、インドの深いジャングルに、モーグリという小さな男の子が迷い込みました。

モーグリを見つけたのは、ジャングルで暮らす狼の家族でした。

狼たちはモーグリを仲間として迎え入れ、自分たちの子どもと同じように育てます。

モーグリは狼たちと一緒に走り回りながら成長し、黒ヒョウのバギーラや熊のバルーから、ジャングルで生きていくための知恵や掟を教わりました。

ところが、ジャングルにはモーグリを快く思わない者もいました。

人間を敵視する恐ろしい虎、シア・カーンです。

「人間の子どもは、ジャングルにいるべきではない。」

シア・カーンに狙われながらも、モーグリは仲間たちに支えられ、自分の知恵と勇気を使って立ち向かっていきます。

そしてさまざまな経験を重ねる中で、自分がどこで、どのように生きていくのかを考えるようになっていきました。

本文

むかしむかし、インドの深いジャングルに、一人の小さな男の子が迷い込みました。

見渡すかぎり、生い茂った木々。

大きな葉。

つる草。

遠くからは、鳥や動物たちの声が聞こえてきます。

ざわざわ……。

風が吹くたびに、頭の上で木の葉が揺れました。

男の子の名前は、モーグリ。

まだ幼いモーグリは、たった一人でジャングルの中にいました。

そんなモーグリを見つけたのは、狼の家族でした。

狼たちは、小さなモーグリを不思議そうに見つめました。

「人間の子どもだ。」

ジャングルの中で、人間の子どもが一人でいることなどめったにありません。

けれど狼たちは、モーグリを追い払うことはしませんでした。

モーグリを自分たちの仲間として迎え入れ、狼の子どもたちと一緒に育てることにしたのです。

こうしてモーグリは、狼の家族と暮らし始めました。

朝になると、狼たちと一緒にジャングルへ出かけます。

木々の間を駆け抜け。

草むらを飛び越え。

川の水を飲み。

夜になると、狼たちと一緒に眠りました。

モーグリにとって、ジャングルは家そのものでした。

けれどジャングルで暮らしていくためには、覚えなければならないことがたくさんあります。

どこへ行ってもよいわけではありません。

どんな動物にも近づいてよいわけではありません。

危険な場所もあれば、守らなければならない決まりもあります。

そんなモーグリを見守っていたのが、黒ヒョウのバギーラでした。

バギーラはジャングルのことをよく知っていました。

静かに木々の間を歩き、周囲の小さな変化にもすぐに気づきます。

ある日、バギーラはモーグリに言いました。

「モーグリ。ジャングルには、ジャングルの掟がある。」

「掟?」

「ああ。ここで生きていく者は、それを知らなくてはならない。」

モーグリはバギーラから、ジャングルで暮らすためのさまざまなことを教わりました。

危険な気配を感じたときには、むやみに近づかないこと。

周りの音をよく聞くこと。

自分だけでなく、仲間のことも考えること。

そして、もう一人。

モーグリにいろいろなことを教えてくれる仲間がいました。

大きな熊のバルーです。

バルーはバギーラとは少し違いました。

どこかのんびりしていて、おおらかです。

「モーグリ。ジャングルで生きるなら、知っておいたほうがいいことがたくさんあるぞ。」

「教えて、バルー!」

モーグリはバルーからも、ジャングルの知恵を学びました。

動物たちのこと。

食べ物のこと。

森の中で気をつけること。

最初は分からないことばかりだったモーグリも、少しずつジャングルの一員として成長していきました。

けれど――。

ジャングルにいるすべての動物が、モーグリを仲間として認めていたわけではありません。

モーグリには、恐ろしい敵がいました。

虎のシア・カーンです。

シア・カーンは人間を嫌っていました。

そして、人間の子どもであるモーグリがジャングルで暮らしていることを快く思っていませんでした。

「人間の子どもは、ジャングルにいるべきではない。」

シア・カーンの低い声が響きます。

その大きな体。

鋭い目。

ゆっくりと歩く姿を見ただけでも、周囲の動物たちは緊張しました。

シア・カーンがモーグリを狙っていることを知り、バギーラたちは警戒しました。

「モーグリ。気をつけろ。」

「シア・カーンがぼくを?」

「ああ。決して一人で近づいてはいけない。」

モーグリはうなずきました。

けれど、シア・カーンの気配は少しずつ近づいてきました。

ある日の夕方。

ジャングルの中が薄暗くなり始めたころです。

ざわっ……。

茂みの向こうで、何かが動きました。

モーグリは足を止めました。

「バギーラ?」

返事はありません。

鳥たちの声も、いつの間にか聞こえなくなっています。

しん……。

さっきまでにぎやかだったジャングルが、不思議なくらい静かになっていました。

モーグリは辺りを見回しました。

すると――。

がさっ。

大きな葉が揺れました。

その奥に、二つの目が見えます。

モーグリの胸がどきりとしました。

ゆっくりと茂みから現れたのは――。

シア・カーンでした。

「モーグリ。」

低い声が響きました。

モーグリは後ずさりました。

「シア・カーン……。」

「人間の子どもが、いつまでジャングルにいるつもりだ。」

モーグリは怖くなりました。

けれど、その場で立ち尽くしているわけにはいきません。

モーグリは走り出しました。

木々の間を抜け。

草を飛び越え。

夢中で逃げます。

後ろから、シア・カーンの気配が迫ってきます。

ざっ。

ざっ。

ざっ。

モーグリは、これまでバギーラやバルーから教わってきたことを思い出しました。

周りを見ること。

ジャングルの地形を知ること。

危険なときほど慌てずに考えること。

「考えるんだ……。」

ただ走って逃げるだけでは、いつか追いつかれてしまいます。

モーグリは、自分が育ってきたジャングルを見回しました。

どこに道があるのか。

どこに隠れる場所があるのか。

どこなら仲間たちと力を合わせられるのか。

モーグリは必死に考えました。

そのとき、ふと心の中に別の思いが浮かびました。

「ぼくは……人間なのか、狼なのか。」

モーグリは人間の子どもです。

けれど、物心ついたころから一緒に暮らしてきたのは狼たちでした。

ジャングルの中を走ることも。

動物たちと過ごすことも。

モーグリにとっては当たり前のことです。

それでもシア・カーンは言います。

人間の子どもは、ジャングルにいるべきではない、と。

「ぼくは、どこにいるべきなんだろう。」

モーグリは迷いました。

けれど、すぐに答えが見つかったわけではありません。

その間にも、シア・カーンの脅威は続いています。

モーグリは一人だけで立ち向かおうとはしませんでした。

バギーラ。

バルー。

狼たち。

これまで自分を育て、守り、いろいろなことを教えてくれた仲間たちがいます。

「一人では無理でも、仲間がいればできる。」

モーグリは、自分がジャングルで学んできた知恵を使いました。

そして動物たちも、それぞれの力を生かしてモーグリを助けました。

バギーラは周囲を注意深く見ながら、危険を知らせます。

バルーはモーグリを守りながら、自分にできることを考えます。

狼たちも、モーグリを仲間として支えました。

モーグリも、ただ守ってもらうだけではありません。

「ぼくにもできることがある。」

これまでジャングルで学んだことを思い出し、自分の頭で考えました。

体の大きなシア・カーンに、力だけで勝つことはできません。

だからこそ、モーグリは知恵を使いました。

自分が知っているジャングル。

仲間たちから教えてもらったこと。

そして、人間である自分だからこそ考えられること。

それらを一つずつ使いながら、シア・カーンに立ち向かっていきました。

やがて――。

モーグリと仲間たちの力によって、シア・カーンの脅威を乗り越えることができました。

ジャングルに、いつもの音が戻ってきます。

鳥たちの声。

風に揺れる木の葉。

遠くから聞こえる動物たちの声。

モーグリは、長い間暮らしてきたジャングルを見渡しました。

ここには、たくさんの思い出があります。

狼たちと走った場所。

バルーからいろいろなことを教えてもらった場所。

バギーラに見守られてきた場所。

モーグリにとって、ジャングルは大切な場所でした。

けれど同時に、モーグリは自分が人間であることも感じるようになっていました。

ジャングルの外には、人間たちが暮らす世界があります。

「ぼくは、これからどうするんだろう。」

以前のモーグリなら、その答えが分からないことを怖く感じていたかもしれません。

けれど今は少し違います。

自分がどこで育ったのか。

誰に育ててもらったのか。

何を学んできたのか。

それらがなくなるわけではありません。

たとえこれから人間の世界へ向かうとしても、狼たちと暮らした時間が消えるわけではないのです。

モーグリはバギーラを見ました。

バルーを見ました。

そして狼の家族を見ました。

みんな、大切な仲間です。

「ありがとう。」

モーグリは、自分を育ててくれたジャングルを忘れませんでした。

そして、自分を支えてくれた仲間たちのことも忘れませんでした。

モーグリの前には、まだ知らない道が続いています。

ジャングルで学んだ知恵と、仲間たちからもらった勇気を胸に、モーグリは自分の未来へ向かって歩き始めました。

おしまい。

登場人物

モーグリ
インドのジャングルに迷い込み、狼の家族に育てられた人間の少年。動物たちと暮らしながらジャングルの知恵や掟を学び、自分がどこでどのように生きていくのかを考えるようになります。

バギーラ
モーグリを見守る黒ヒョウ。ジャングルで生きるための掟や危険について教え、モーグリが困ったときには力を貸します。

バルー
モーグリにジャングルの知恵を教える熊。おおらかな性格で、モーグリにさまざまなことを教えながら成長を支えます。

シア・カーン
人間を敵視し、モーグリをジャングルから追い出そうとする恐ろしい虎。モーグリにとって大きな脅威となります。

教訓

自分と違う相手であっても、共に暮らし、学び合うことで大切な仲間になることができる。

自分がどこで生まれたか、どこで育ったかだけではなく、さまざまな経験や出会いも「自分らしさ」の一部になる。

困難に出会ったときには、一人ですべてを解決しようとせず、仲間の力を借りながら自分の知恵と勇気を生かすことが大切。

親子で話したいポイント

モーグリを育てたり、守ったりしてくれたのは誰だったかな?

モーグリは、どうして「自分は人間なのか、狼なのか」と悩んだのだろう?

自分とは違う人や、違う考え方を持っている人と仲良くするためには、何が大切かな?

困ったとき、自分を助けてくれる人は誰?

自分らしさって、どんなことだと思う?

保育士向け活用ポイント

「一人ひとりの違い」や「仲間と支え合うこと」を考える題材として活用できます。

モーグリが人間でありながら狼の家族に育てられ、さまざまな動物たちと関わる展開から、「違っていても仲間になれる」「育ってきた環境や得意なことは一人ひとり違う」といったテーマへつなげられます。

また、狼、黒ヒョウ、熊、虎など、さまざまな動物が登場するため、動物の動きをまねる表現遊びや、ジャングル探検ごっこにも発展させやすい作品です。

それぞれの動物の歩き方や鳴き声、得意なことを子どもたちと考えながら、「みんな違うからこそ、それぞれにできることがある」という活動へ広げることもできます。

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