あらすじ
むかしむかし、アメリカの広い大地に、ドロシーという女の子が暮らしていました。
ある日、大きな竜巻がやってきて、ドロシーは家ごと遠い不思議な国へ飛ばされてしまいます。
元の家へ帰りたいドロシーは、「オズの魔法使い」に会うため、エメラルドの都を目指して旅に出ました。
旅の途中で出会ったのは、知恵が欲しいかかし、心が欲しいブリキの木こり、勇気が欲しいライオン。
それぞれ自分には大切なものが足りないと思っていました。
けれど、力を合わせて旅を続けるうちに、仲間たちは自分が求めていたものを、すでに自分の中に持っていたことに気づいていきます。
本文
むかしむかし、アメリカの広い草原の近くに、ドロシーという女の子が住んでいました。
ドロシーは、叔父さんと叔母さんと一緒に、小さな家で暮らしていました。
見渡すかぎり広がる草原。
遠くまで続く空。
いつもと変わらない、穏やかな毎日を過ごしていました。
ところが、ある日のことです。
空の向こうから、黒い雲が近づいてきました。
ごおおおお……。
低いうなり声のような風が吹き始めます。
「なんだか空の様子がおかしいわ。」
ドロシーが外を見ると、風はみるみる強くなっていきました。
草が大きく揺れ、土ぼこりが舞い上がります。
やがて遠くから、大きな竜巻が迫ってきました。
「大変だ!」
ドロシーが気づいたときには、ものすごい風が家を包み込んでいました。
ごおおおおっ!
家が大きく揺れます。
そして次の瞬間――。
ふわり。
なんと、家ごと空へ巻き上げられてしまったのです。
「きゃあ!」
家はぐるぐると回りながら、どんどん高く上がっていきました。
どれくらい飛んでいたのでしょう。
やがて――。
ドン!
大きな音とともに、家は地面へ降りました。
辺りが静かになると、ドロシーは恐る恐る外へ出てみました。
「ここは……どこ?」
そこには、今まで見たこともない景色が広がっていました。
色とりどりの花。
不思議な生き物。
遠くまで続く美しい道。
ドロシーが暮らしていた草原とは、まるで違う世界です。
「きれい……。」
けれど、どれほど美しい場所でも、ドロシーが帰りたいのは自分の家でした。
「どうしたら帰れるのかな。」
困っているドロシーに、この国の人たちが教えてくれました。
「エメラルドの都へ行ってごらんなさい。」
「エメラルドの都?」
「そこには、オズという偉大な魔法使いがいるのです。」
ドロシーの目が輝きました。
「その人なら、私を家へ帰してくれる?」
「きっと力を貸してくれるでしょう。」
ドロシーは決心しました。
「それなら、オズの魔法使いに会いに行こう。」
こうしてドロシーは、エメラルドの都を目指して歩き始めました。
しばらく進むと、道のそばの畑に一体のかかしが立っていました。
ドロシーが通り過ぎようとすると――。
「こんにちは。」
声が聞こえました。
「え?」
ドロシーが振り返ります。
すると、かかしがこちらを見ていました。
「あなたが話したの?」
「そうだよ。」
ドロシーは驚きましたが、すぐにかかしと話をするようになりました。
「私はオズの魔法使いに会いに行くの。家へ帰る方法を教えてもらうのよ。」
すると、かかしはうらやましそうに言いました。
「僕もオズに会ってみたいな。」
「何かお願いがあるの?」
かかしは少し悲しそうな顔をしました。
「僕には頭の中に知恵がないんだ。だから、オズに知恵をもらいたい。」
ドロシーは言いました。
「それなら、一緒に行こうよ。」
「いいの?」
「もちろん。」
こうして、ドロシーとかかしは一緒に旅をすることになりました。
二人がさらに進んでいくと、今度は森の中でブリキの木こりに出会いました。
ブリキの木こりは、悲しそうに立っていました。
「どうしたの?」
ドロシーがたずねます。
ブリキの木こりは答えました。
「僕には心がないんだ。」
「心が?」
「そう。僕は優しい心が欲しい。」
ドロシーは言いました。
「私たちはオズの魔法使いに会いに行くところなの。一緒に来ない?」
ブリキの木こりは喜びました。
「オズなら、僕に心をくれるかもしれない。」
こうして三人になった仲間は、再び歩き始めました。
ところが、しばらくすると――。
「ガオーッ!」
大きな声とともに、一頭のライオンが現れました。
ドロシーたちはびっくりしました。
大きな体。
立派なたてがみ。
見るからに強そうなライオンです。
けれど、話をしてみると、ライオンはしょんぼりとうつむきました。
「僕は勇気がないんだ。」
「こんなに強そうなのに?」
「怖いものを見ると、すぐに逃げたくなってしまう。」
ライオンは、自分が臆病であることを恥ずかしく思っていました。
ドロシーは笑顔で言いました。
「それなら、あなたも一緒にオズに会いに行こう。」
「オズなら勇気をくれるかな?」
「きっと何か分かるはずよ。」
こうして、ドロシー、かかし、ブリキの木こり、ライオンの四人は仲間になりました。
エメラルドの都までの道のりは、決して楽なものではありませんでした。
険しい道を進まなければならないこともありました。
恐ろしい出来事に出会うこともありました。
「もう進めないかもしれない。」
誰かが弱気になることもありました。
けれど、そんなときは仲間が助けました。
道に迷いそうになれば、かかしが考えます。
「こっちから進めばいいんじゃないかな?」
「なるほど!」
ブリキの木こりは、いつも仲間を気にかけていました。
誰かが困っていれば、すぐに手を貸します。
「大丈夫?」
「ありがとう。」
ライオンも、怖いことがあれば体が震えました。
「こ、怖いな……。」
それでも、仲間が危ないときには前へ出ました。
「僕が行く!」
怖くなくなったわけではありません。
怖くても、仲間のために一歩を踏み出したのです。
ドロシーもまた、みんなを励ましました。
「きっと大丈夫。みんなで行こう。」
四人は、それぞれの力を出し合いながら旅を続けました。
そして、ついに――。
「見て!」
遠くに、美しく輝く都が見えてきました。
「エメラルドの都だ!」
長い旅の末、四人はとうとう目的地へたどり着いたのです。
そこで、オズの魔法使いに会いました。
かかしはお願いしました。
「僕は知恵が欲しいです。」
ブリキの木こりも言いました。
「僕には心が欲しいです。」
ライオンは言いました。
「僕は勇気が欲しいです。」
そしてドロシーは言いました。
「私は家へ帰りたいのです。」
オズは、旅をしてきた四人の話を聞きました。
そして言いました。
「あなたたちが求めているものを、もう一度よく考えてみなさい。」
みんなは顔を見合わせました。
「どういうこと?」
オズは、旅のことを思い出すように言いました。
かかしは旅の途中で、何度も考え、知恵を使って仲間を助けていました。
「僕は……ちゃんと考えていた。」
ブリキの木こりは、困っている仲間をいつも気にかけ、優しく助けていました。
「心がないと思っていたのに、ずっとみんなを大切にしていた。」
ライオンは怖がりながらも、仲間が危ないときには勇気を出して立ち向かっていました。
「僕は、怖くても逃げなかったことがあった。」
みんなは少しずつ気づき始めました。
自分にはないと思っていたもの。
ずっと欲しいと思っていたもの。
それは旅をしている間、すでに自分たちの中にあったのです。
ドロシーも、自分の心を見つめました。
不思議な国には、美しいものや楽しい出会いがたくさんありました。
大切な仲間にも出会いました。
それでも、ずっと心の中にあった願いは変わりませんでした。
「私は、やっぱり家へ帰りたい。」
自分が本当に大切にしている場所。
そこには、大切な人たちが待っています。
やがて、仲間たちはそれぞれの道へ進むことになりました。
「一緒に旅ができてよかった。」
「僕もだよ。」
「みんなと出会えて、本当によかった。」
別れるのは寂しいことでした。
けれど、一緒に旅をした時間は消えません。
ドロシーは、仲間たちとの思い出を胸に、大切な人たちの待つ家へ帰っていきました。
そして、かかしも、ブリキの木こりも、ライオンも、自分の中にあった大切な力を胸に、それぞれの道を歩んでいくのでした。
おしまい。
登場人物
ドロシー
竜巻によって不思議な国へ飛ばされ、故郷へ帰るためにエメラルドの都を目指して旅をする女の子。仲間たちと支え合いながら困難を乗り越えていきます。
かかし
自分には知恵がないと思い、オズの魔法使いに知恵をもらうため旅に加わります。しかし旅の中では、考える力を使って何度も仲間を助けます。
ブリキの木こり
自分には心がないと思い、優しい心を求めて旅をします。しかし実際には、仲間を思いやり、困っている相手を助ける優しさを持っています。
ライオン
大きく強そうな姿をしていますが、自分には勇気がないと思っています。それでも仲間が危険なときには、怖さを抱えながら立ち向かいます。
オズの魔法使い
ドロシーたちがエメラルドの都で出会う人物。仲間たちが求めていたものを、すでに自分自身の中に持っていることに気づくきっかけを与えます。
教訓
- 自分にはないと思っている力も、実はすでに自分の中にあることがある。
- 仲間と力を合わせることで、一人では難しいことも乗り越えられる。
- 苦手なことだけではなく、自分ができていることや得意なことにも目を向けることが大切。
- 勇気とは怖くないことではなく、怖くても一歩を踏み出すこと。
- 自分にとって本当に大切なものは何かを考えることが大切。
親子で話したいポイント
- かかしは本当に知恵を持っていなかったのかな?
- ブリキの木こりが優しい心を持っていると分かるのは、どんなところ?
- ライオンは怖がりなのに、どうして勇気があると言えるのかな?
- 自分が得意なことや、誰かにほめてもらったことは何かな?
- 友だちと力を合わせたからできたことはある?
- ドロシーはどうして家へ帰りたかったのかな?
保育士向け活用ポイント
劇遊びや表現活動にも発展させやすく、ドロシー、かかし、ブリキの木こり、ライオンなど、それぞれの役になりきることで想像力や表現力、友だちとのやり取りを楽しむ活動につなげられます。
自己肯定感や主体性、友だちとの協同性を考える題材として活用できます。
かかし、ブリキの木こり、ライオンが「自分には足りない」と思っていたものを、実はすでに持っていたという展開から、子ども自身が自分の得意なことや良さに気づく活動へつなげられます。
「できないこと」だけに目を向けるのではなく、その子がすでに持っている力を見つけ、認めることの大切さを考えるきっかけにもなります。
仲間たちがそれぞれ異なる力を使って助け合う姿から、「みんな同じでなくていい」「一人ひとりの得意なことを持ち寄ると大きな力になる」という協同性の育ちにもつなげられます。
ライオンの姿を通して、「勇気とは怖くないことではなく、怖くてもやってみようとすること」と子どもたちと考えることもできます。


コメント