七羽のからす|世界の名作・昔話(グリム童話)

グリム童話

あらすじ

むかし、七人の男の子がいる家に、一人の女の子が生まれました。

父親は待ち望んでいた娘の誕生を喜びましたが、ある出来事をきっかけに七人の息子たちに腹を立ててしまいます。

そして怒りにまかせて、

「お前たちなんか、からすになってしまえ!」

と言ってしまいました。

すると、その言葉は本当になり、七人の兄たちはからすの姿となって空の彼方へ飛び去ってしまいます。

何も知らずに育った妹は、成長してから自分に七人の兄がいることを知りました。

「兄さんたちを探しに行こう。」

妹は家を離れ、山を越え、森を抜け、遠く離れた兄たちを探す旅へ出ます。

長い旅の先でようやく兄たちの居場所を見つけた妹は、兄たちを人間の姿に戻すため、困難に立ち向かっていきます。

本文

むかしむかし、あるところに、七人の男の子がいる家族が暮らしていました。

七人の兄弟は、毎日にぎやかに過ごしていました。

家の中を走り回ったり、兄弟で遊んだり、ときにはけんかをしたり。

そんな家族のもとに、ある日、一人の女の子が生まれました。

「女の子だ!」

父親は大喜びしました。

七人の男の子に続いて生まれた、たった一人の娘です。

父親は小さな赤ん坊を見つめながら、とてもうれしそうにしていました。

ところが、ある日のこと。

七人の兄たちが、父親に頼まれたことをうまくできない出来事がありました。

父親は腹を立てました。

「どうして、こんなこともできないんだ!」

七人の兄たちは、驚いて父親を見つめました。

けれど父親の怒りは収まりません。

そして、つい――。

「お前たちなんか、からすになってしまえ!」

そう叫んでしまったのです。

その瞬間でした。

ばさっ!

家の中に大きな羽音が響きました。

「えっ……?」

父親が目を見開きます。

ばさばさっ!

七人の兄たちの姿が、みるみる変わっていきました。

腕は黒い翼に。

体は黒い羽毛に包まれ――。

七人の兄弟は、本当に七羽のからすになってしまったのです。

「ま、待て!」

父親が叫びました。

けれど、もう遅すぎました。

七羽のからすは窓から飛び出しました。

ばさっ。

ばさっ。

ばさっ。

七つの黒い影が空へ舞い上がります。

「戻ってこい!」

父親は追いかけました。

しかし、からすたちはどんどん遠くへ飛んでいきます。

やがて七羽の姿は、空の向こうへ消えてしまいました。

あとに残ったのは、しんと静まり返った家だけでした。

父親は、自分が口にした言葉を悔やみました。

けれど、どれほど待っても七人の息子たちは帰ってきませんでした。

そのころ、生まれたばかりの妹はまだ何も知りません。

自分に七人の兄がいたことも。

その兄たちが、からすになって飛び去ってしまったことも。

何も知らないまま、妹は少しずつ大きくなっていきました。

やがて月日が流れ――。

妹は元気な女の子に成長しました。

ある日のことです。

妹は、家族から思いがけない話を聞きました。

「あなたにはね、七人のお兄さんがいるのよ。」

妹は驚きました。

「私に……お兄さんが?」

「七人も?」

これまで一度も聞いたことのない話でした。

妹は兄たちに何があったのかを尋ねました。

そして、自分がまだ赤ん坊だったころ、父親の怒りの言葉によって兄たちが七羽のからすに変わり、どこかへ飛び去ってしまったことを知りました。

妹はしばらく何も言えませんでした。

自分には七人もの兄がいる。

けれど、その誰とも会ったことがありません。

「兄さんたちは、今どこにいるの?」

誰も答えることができませんでした。

どこへ飛んでいったのか。

今もどこかで暮らしているのか。

それさえ分かりません。

その夜。

妹はなかなか眠れませんでした。

窓の外を眺めると、暗い夜空が広がっています。

そのどこかに、七人の兄がいるのでしょうか。

「会ってみたい……。」

妹は思いました。

どんな顔をしていたのだろう。

どんな声だったのだろう。

もし人間の姿に戻ることができるのなら――。

そして妹は決心しました。

「私が兄さんたちを探しに行こう。」

次の日。

妹は旅の支度をして、家を出ました。

兄たちがどこにいるのか、はっきりしたことは分かりません。

それでも妹は歩き始めました。

野原を越え。

山を越え。

深い森へ入っていきます。

昼間は鳥の声が聞こえていた森も、夕方になると少しずつ暗くなっていきました。

ざわざわ……。

風が木々の間を通り抜けます。

ときどき遠くから、

カァー……。

からすの鳴き声が聞こえました。

そのたびに妹は立ち止まりました。

「兄さんたち……?」

けれど、声のするほうを見ても、黒い鳥の姿はありません。

妹はまた歩き始めました。

長い旅でした。

道が分からなくなることもありました。

「こっちで合っているのかな……。」

不安になって立ち止まることもあります。

夜になると、知らない場所で一人きりになることもありました。

暗闇の中では、昼間には気にならなかった音まで大きく聞こえます。

ぱきっ。

どこかで枝が折れました。

ざざっ。

草むらから音がします。

妹は少し怖くなりました。

それでも――。

「兄さんたちを見つけるんだ。」

そう自分に言い聞かせ、旅を続けました。

何日も、何日も歩きました。

山を越え。

森を抜け。

さらに遠い場所へ。

そしてついに――。

妹は七人の兄たちが暮らしている場所へたどり着きました。

「ここなの……?」

辺りは静まり返っています。

妹は恐る恐る中へ入りました。

すると、そこには七羽のからすがいました。

黒い羽。

黒いくちばし。

七羽のからすは、突然現れた少女を見て警戒しました。

妹は胸がどきどきしました。

けれど、逃げませんでした。

「私は……あなたたちの妹です。」

七羽のからすが動きを止めました。

「ずっと、兄さんたちを探してきました。」

妹は、自分が家族から聞いたことを話しました。

自分には七人の兄がいると知ったこと。

兄たちがからすの姿に変えられてしまったこと。

そして、どうしても兄たちに会いたくて、遠いところまで探しに来たこと。

七羽のからすは、じっと妹を見つめました。

妹もまた、目の前にいる七羽を見つめました。

会ったことはありません。

人間の姿を見たこともありません。

それでも、この七羽が自分の兄たちなのです。

「やっと会えた……。」

妹の目に涙が浮かびました。

けれど、兄たちを見つけただけでは終わりませんでした。

七人の兄たちを元の人間の姿に戻すためには、妹が難しいことをしなければならなかったのです。

簡単なことではありません。

途中でくじけそうになることもありました。

「私にできるのかな……。」

妹は何度も不安になりました。

けれど、そのたびに七羽のからすを見ました。

「ここまで来たんだもの。」

「兄さんたちを、このままにはしておけない。」

妹は、自分にできることを一つずつ続けました。

焦らず。

あきらめず。

兄たちのために。

七羽のからすも、そんな妹の姿を見つめていました。

自分たちに会ったことさえなかった妹が、遠い家を出て、一人でここまで探しに来てくれた。

そして今も、自分たちを元に戻そうと頑張っている。

兄たちの心は、少しずつ動かされていきました。

そして――。

長い時間の末に、そのときがやってきました。

七羽のからすの体を、不思議な光が包みました。

妹は驚いて目を見開きました。

「兄さんたち……?」

黒い羽が消えていきます。

翼は腕に戻り。

くちばしもなくなり――。

そこに立っていたのは、七人の兄たちでした。

「戻った……!」

兄たちは、自分たちの手や体を見つめました。

もう、からすの姿ではありません。

七人とも、人間の姿に戻っていたのです。

妹はうれしくなって、兄たちのもとへ駆け寄りました。

「兄さん!」

七人の兄たちも妹を迎えました。

長い間、離ればなれだった兄と妹。

妹が生まれたころに別れ、それから一度も会うことのできなかった家族が、ようやく一緒になることができたのです。

七人の兄と妹は、並んで歩き始めました。

もう、空へ飛んでいく黒いからすの姿はありません。

八人は同じ道を歩きながら、一緒に帰っていきました。

おしまい。

登場人物

妹
自分に七人の兄がいることを知り、兄たちを探して遠い場所まで旅をする少女。困難があってもあきらめず、兄たちを人間の姿に戻そうと行動します。

七人の兄弟
父親の怒りの言葉によって、七羽のからすに変えられてしまった兄たち。妹が幼いころに家を離れ、遠い場所で暮らしています。

父親
七人の兄弟と妹の父親。ある出来事から息子たちに腹を立て、怒りにまかせて「からすになってしまえ」と言ってしまいます。

教訓

大切な人を思う気持ちは、困難に立ち向かう力になることがある。

すぐにうまくいかなくても、あきらめずに一つずつ続けていくことが大切。

誰かのために行動したいと思ったときには、自分から一歩を踏み出す勇気が必要になることもある。

親子で話したいポイント

妹は、どうして会ったことのない兄たちを探しに行こうと思ったのかな?

七人の兄たちは、妹が自分たちを探しに来たと知って、どんな気持ちだったと思う?

大切な人のために、自分にできることは何があるかな?

途中で「もう無理かもしれない」と思ったとき、どうしたらもう一度頑張れるだろう?

家族や大切な人に、今伝えたいことはある?

保育士向け活用ポイント

家族や兄弟姉妹、大切な人とのつながりについて考える読み聞かせに活用できます。

家庭によって家族の形はさまざまなので、「兄弟がいること」を前提にするのではなく、「自分にとって大切な人」「会いたい人」「助けてあげたい人」など、子どもそれぞれが自由に考えられる問いかけにつなげると扱いやすくなります。

また、妹が長い旅を続け、困難があっても兄たちを探すことをあきらめなかった展開から、「途中で難しいと感じたとき、どうする?」「誰かに助けてもらうのも一つの方法だね」など、挑戦することや粘り強く取り組むことについて話し合う題材としても活用できます。

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