あらすじ
むかしむかし、ある村に、とても働き者で心の優しいお嫁さんがいました。
夫やお姑さんにも大切にされ、幸せに暮らしていましたが、お嫁さんにはどうしても言えない秘密がありました。
それは、とんでもなく大きなおならをすること。
恥ずかしくて毎日我慢していましたが、とうとう耐えられなくなり、家族の前でおならをしてしまいます。
ところが、その勢いは庭の落ち葉をすべて吹き飛ばしてしまうほどのもの。
さらに村人たちが重い米俵を動かせず困っていると、お嫁さんの力が思わぬところで役に立ちます。
自分では恥ずかしいと思っていたことが、みんなを助ける力へと変わっていく、ユーモアいっぱいの昔話です。
本文
むかしむかし、山と田んぼに囲まれた小さな村に、一人の若者が住んでいました。
若者は朝から晩まで畑で働く、とても真面目な男でした。
年老いた母親と二人で暮らしていましたが、そろそろお嫁さんを迎えたいと思っていました。
「優しくて、一緒に笑って暮らせる人が来てくれたらいいなあ。」
そんなことを思っていた、ある日のことです。
若者は村で評判の娘と出会いました。
娘はいつも明るく、困っている人を見つけるとすぐに手を貸す、心の優しい人でした。
若者は娘と話をするうちに、どんどん心をひかれていきました。
「この人となら、きっと楽しく暮らせる。」
娘も若者の優しい人柄を好きになり、やがて二人は夫婦になりました。
こうして娘は、若者の家へお嫁さんとしてやってきました。
お嫁さんは、とてもよく働きました。
朝は誰よりも早く起きます。
「おはようございます。」
まず家の中を掃除して、朝ご飯を作ります。
それが終われば洗濯をして、畑仕事も手伝いました。
夕方になれば夕飯の支度。
忙しい一日を終えても、嫌な顔ひとつしません。
お姑さんは大喜びです。
「本当に良いお嫁さんが来てくれた。」
若者もうれしそうに言いました。
「無理しすぎなくてもいいんだぞ。」
「大丈夫ですよ。」
お嫁さんはにっこり笑いました。
三人は仲良く暮らしていました。
ところが――。
お嫁さんには、誰にも言えない秘密がありました。
それは、おならです。
ただのおならではありません。
お嫁さんのおならは、それはそれは大きくて、ものすごい勢いだったのです。
結婚する前から、お嫁さんはそれを気にしていました。
「もし知られたら、嫌われてしまうかもしれない……。」
そう思い、お嫁さんは夫にもお姑さんにも黙っていました。
けれど、おならというものは、ずっと我慢できるものではありません。
ある日の夕食のことです。
三人で食卓を囲んでいました。
「今日の煮物、おいしいね。」
「ありがとうございます。」
「お嫁さんの料理は本当にうまいなあ。」
「そんなことありませんよ。」
楽しく話をしていた、その時です。
お嫁さんのおなかが――。
ぐるるるる……。
「……。」
お嫁さんの顔が固まりました。
若者は気づきません。
「そういえば、明日の畑なんだけどな。」
ぐるるるる……。
お嫁さんはおなかに力を入れました。
――だめ。
――ここで出したら、きっと驚かれてしまう。
お嫁さんは必死に我慢します。
ところが。
「ぶうううううううっ!」
家の中に、とんでもない音が響きました。
「うわっ!」
若者が飛び上がりました。
「な、なんだい今のは!」
お姑さんも目を丸くしています。
お嫁さんは、耳まで真っ赤になりました。
「ご、ごめんなさい……。」
「今の……もしかして?」
お嫁さんは小さくうなずきました。
「……私です。」
若者とお姑さんは顔を見合わせました。
お嫁さんは恥ずかしくて、今にも泣きそうです。
「本当にごめんなさい。」
若者は慌てて言いました。
「いやいや、謝ることじゃないよ。」
「そうだよ。誰だっておならくらいするさ。」
お姑さんも笑いました。
けれど、お嫁さんは恥ずかしくてたまりません。
「もう二度と、みんなの前ではしないようにしよう。」
そう決めました。
それからというもの、お嫁さんは毎日おならを我慢するようになりました。
朝ご飯を食べている時も。
ぐるるる……。
「……。」
畑仕事をしている時も。
ぐるるるる……。
「うう……。」
夜になっても。
ぐるるるるる……。
お嫁さんはおなかを押さえました。
我慢すればするほど、おなかは苦しくなります。
仕事をしていても、だんだん元気がなくなってきました。
ある日、お姑さんが尋ねました。
「お嫁さん、最近どうしたんだい?」
「え?」
「顔色がよくないよ。」
「大丈夫です。」
「本当に?」
お嫁さんは少し迷いました。
そして、とうとう打ち明けました。
「実は……。」
「うん。」
「おならを、ずっと我慢しているんです。」
お姑さんはきょとんとしました。
「どうして?」
「だって……とても大きな音がするから、恥ずかしくて。」
すると、お姑さんは笑いました。
「そんなもの、我慢することないよ。」
「でも……。」
「ここは自分の家なんだから。」
若者も言いました。
「そうだよ。そんなことで嫌いになったりしないさ。」
お嫁さんは二人の顔を見ました。
「本当に?」
「本当だとも。」
お嫁さんは、ほっとしたような、それでもまだ恥ずかしいような顔をしました。
「それでは……。」
「うん。」
「少しだけ、させてもらいます。」
「どうぞどうぞ。」
お嫁さんは庭へ出ました。
若者とお姑さんも、少し離れたところから見ています。
お嫁さんは深く息を吸いました。
「それでは……。」
少し腰を落とします。
「いきます。」
ぶうううううううううううううううっ!!
「うわあああっ!」
ものすごい風が庭を駆け抜けました。
ざざざざざっ!
庭に積もっていた落ち葉が、一斉に舞い上がります。
ひらひら。
くるくる。
落ち葉は風に乗って飛んでいき、庭の隅にきれいに集まりました。
干してあった手ぬぐいが、ばたばたとはためきます。
若者の髪も逆立ちました。
お姑さんは柱につかまっています。
そして風がおさまると――。
庭は、すっかりきれいになっていました。
三人はしばらく黙っていました。
「……。」
最初に口を開いたのは若者でした。
「すごい。」
お姑さんも庭を見回しました。
「こんなにきれいになるなんて。」
お嫁さんは真っ赤な顔をしています。
「ご、ごめんなさい。」
「どうして謝るんだ。」
若者は笑いました。
「こんなすごい力、初めて見たよ。」
「そうだよ。」
お姑さんもうなずきました。
「庭掃除があっという間じゃないか。」
お嫁さんは驚きました。
「嫌じゃないんですか?」
「びっくりはしたけどね。」
「ははは。俺なんか飛ばされるかと思ったよ。」
三人は顔を見合わせました。
そして――。
「ははははは!」
みんなで笑いました。
お嫁さんも、つられて笑いました。
それから、お嫁さんは家では無理におならを我慢しなくなりました。
もちろん、いきなり人のそばですることはありません。
「ちょっと庭へ行ってきますね。」
お嫁さんがそう言うと、若者は笑います。
「今日は洗濯物を取り込んでからにしてくれよ。」
「分かっています。」
そんなやり取りをしながら、三人は仲良く暮らしていました。
それからしばらく経った、ある日のことです。
村の広場に、たくさんの人が集まっていました。
「困ったなあ。」
「どうしたらいい?」
広場には、たくさんの米俵が積まれています。
収穫した米を別の蔵へ運ぶことになったのですが、一つ一つがとても重く、なかなか作業が進みません。
男たちが二人がかりで持ち上げます。
「せーの!」
「よいしょ!」
「重い!」
一つ運んでは休みます。
まだまだ米俵は山のように残っています。
「これじゃ、日が暮れてしまうぞ。」
「もっと人を呼ばないと無理だ。」
その様子を見ていたお嫁さんは、少し考えました。
「もしかしたら……。」
若者が尋ねました。
「どうした?」
「私なら、少しお手伝いできるかもしれません。」
「お前が?」
「はい。」
若者はすぐに意味が分かりました。
「ああ。」
「でも、みんなの前だぞ?」
お嫁さんは少し恥ずかしそうに笑いました。
「大丈夫です。」
そして村人たちの前へ出ました。
「あの。」
「どうしたんだい?」
「私にやらせてもらえませんか?」
村人たちは不思議そうな顔をしました。
「こんなに重い米俵だよ?」
「女の人一人じゃ持てないよ。」
「持ち上げるわけではありません。」
「じゃあ、どうするんだい?」
お嫁さんは少し顔を赤くしました。
「皆さん、少し離れていてください。」
「離れる?」
「はい。」
村人たちは何が始まるのか分からないまま、米俵から離れました。
お嫁さんは米俵に背中を向けます。
「いきますよ。」
「何を?」
お嫁さんは大きく息を吸いました。
そして――。
ぶううううううううううううううっ!!
「うわああああっ!」
ものすごい風が巻き起こりました。
土ぼこりが舞い上がります。
村人たちは帽子や手ぬぐいを押さえました。
ごろっ。
「え?」
ごろごろっ。
米俵が動きました。
「動いたぞ!」
ごろごろごろごろ!
重たい米俵が、次々と道を転がっていきます。
「すごい!」
「なんだ、この風は!」
村人たちは目を丸くしています。
お嫁さんは向きを少し変えました。
ぶううううううっ!
ごろごろごろっ!
米俵はきれいに蔵の方へ転がっていきました。
やがて、広場に積まれていた米俵はすっかりなくなりました。
しーん。
村人たちは、しばらく何も言えませんでした。
お嫁さんは顔を真っ赤にして振り返りました。
「あの……。」
すると――。
「すごい!」
一人の村人が声を上げました。
「こんなの見たことないぞ!」
「何人がかりでも動かせなかった米俵を!」
「一気に運んじゃった!」
子どもたちも大喜びです。
「もう一回やって!」
「だめですよ。」
お嫁さんは慌てました。
村人たちは大笑いしました。
「はははは!」
若者も、お姑さんも笑っています。
お嫁さんは最初こそ恥ずかしそうにしていましたが、やがて自分も笑い始めました。
「私にも、役に立てることがあったんですね。」
若者は言いました。
「もちろんだよ。」
お姑さんもうなずきます。
「お嫁さんにしかできないことだ。」
それからというもの、お嫁さんは自分の力を隠さなくなりました。
秋になって、庭に落ち葉が積もれば――。
ぶうううううっ!
ざざざざざっ!
落ち葉はきれいに一か所へ集まりました。
重たい荷物を運ばなければならない時には――。
ぶうううううっ!
ごろごろごろっ!
みんなで大笑いしながら仕事をしました。
ある日、村の子どもがお嫁さんに尋ねました。
「お嫁さんは、前はおならが嫌いだったの?」
お嫁さんは少し考えました。
「そうね。」
「どうして?」
「恥ずかしいと思っていたから。」
「今は?」
お嫁さんは笑いました。
「今でも、ちょっと恥ずかしいですよ。」
「でもね。」
お嫁さんは村を見渡しました。
「みんなが困っている時に役に立てるなら、悪くないかなって思っています。」
「じゃあ、すごいおならだね!」
「ふふふ。そうかもしれませんね。」
夕方になり、お嫁さんは家へ帰りました。
若者とお姑さんが待っています。
「今日は何をしてきたんだい?」
「米俵を少し運んできました。」
若者は笑いました。
「また飛ばしたのか?」
「はい。」
三人は笑いながら夕飯の席につきました。
すると――。
ぐるるるる……。
お嫁さんのおなかが鳴りました。
若者とお姑さんが、ぴたりと動きを止めます。
お嫁さんはにっこり笑いました。
「ちょっと、庭へ行ってきますね。」
「待って待って!」
若者が慌てて立ち上がりました。
「洗濯物を取り込んでからにしてくれ!」
「はいはい。」
お嫁さんとお姑さんは、声を上げて笑いました。
しばらくすると、庭の方から――。
ぶうううううううっ!
大きな音と一緒に、楽しそうな笑い声が聞こえてきました。
おしまい。
登場人物
- お嫁さん
働き者で心の優しい女性。とても大きなおならをすることを恥ずかしく思い、家族にも隠そうとしていました。しかし、その力が庭掃除や重い米俵を運ぶことに役立つと分かり、少しずつ自分の力を受け入れていきます。 - 若者
お嫁さんの夫。お嫁さんの大きなおならに驚きながらも、それを理由に嫌ったりせず、ありのままのお嫁さんを受け入れます。 - お姑さん
若者の母親。働き者のお嫁さんを大切にし、おならを我慢して苦しんでいることを知ると「我慢することないよ」と優しく声をかけます。 - 村人たち
重い米俵を運べず困っていたところを、お嫁さんの力に助けられます。最初は驚きますが、そのすごさを素直に認めます。
教訓
- 自分では恥ずかしい、変わっていると思っていることでも、見方を変えるとその人らしい良さになることがある。
- 人にはそれぞれ違った特徴や得意なことがあり、誰かと同じである必要はない。
- 相手の一部分だけを見て決めつけず、その人の良いところを認めることが大切。
- 自分の力を誰かのために使うことで、自分自身の見方が変わることもある。
親子で話したいポイント
- お嫁さんは、どうして最初はおならを隠していたのかな?
- 若者やお姑さんは、お嫁さんのおならを知った時にどうした?
- お嫁さんのおならは、どんなことに役立ったかな?
- 自分では苦手だと思っているけれど、誰かに褒めてもらったことはある?
- 家族や友だちの「すごいところ」を一つずつ探してみよう。
保育士向け活用ポイント
- 「おなら」という子どもが親しみやすい題材から、楽しみながら個性や自己肯定感について考えられる昔話です。
- お嫁さんが最初は恥ずかしがり、家族に受け入れられることで少しずつ自分の特徴を肯定していく流れから、「自分らしさ」を考える活動につなげられます。
- 「ぶううううっ」「ごろごろごろっ」などの音を子どもたちと一緒に表現すると、読み聞かせや劇遊びでも盛り上がります。
- お嫁さん、若者、お姑さん、村人など役割が分かりやすく、米俵を運ぶ場面なども身体表現を取り入れた劇遊びに発展させやすい題材です。


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